学位論文要旨



No 114540
著者(漢字) 佐藤,健夫
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,タケオ
標題(和) 1型および2型ヘルパーT細胞分化におけるIRFファミリー転写因子の役割の解析
標題(洋)
報告番号 114540
報告番号 甲14540
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1460号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高津,聖志
 東京大学 教授 成内,秀雄
 東京大学 教授 木村,哲
 東京大学 助教授 北村,聖
 東京大学 助教授 平井,久丸
内容要旨 【背景および目的】

 interferon regulatory factor-1(IRF-1)とは、IFN-の遺伝子発現機序を調べる過程でクローニングされた転写因子であり、主にI型IFN産生・応答における役割について研究されてきた。その後、IRF-1に相同性がある転写因子、IRF-2〜7、ICSBP、ISGF3/p48が相次いでクローニングされ、これらは"IRFファミリー"を形成する。近年、これらの転写因子のいくつかは、遺伝子欠損マウスなどによる機能解析が行われ、IFN系以外にも、様々な機能を持つことが明らかにされている。その中で、IRF-1は、機能の解明が比較的進められており、特に免疫系細胞については、CD8+T細胞・NK細胞の分化、マクロファージにおけるiNOSの発現、TAP1およびLMP2あるいはCIITAの発現誘導によりMHCクラスIあるいはII分子の発現などを制御し、その分化から機能発現にいたるまで、重要な機能を持つ転写因子であることが明らかになっている。また、近年では、Th2型優位の免疫応答を示すBALB/cマウスCD4+T細胞のIL-12応答性を規定する遺伝子がIRF-1を含む領域にマッピングされ、ヒトのこの相同領域は高IgE血症と遺伝的に連鎖すること、Th1型細胞分化を誘導するIL-12p40サブユニットのプロモーターにはIRFファミリー転写因子の結合配列であるIRF-Eが存在することなど、IRF-1は、Th1/Th2型細胞分化においても、何らかの機能を持つ可能性が示唆されていた。

 Th1型細胞とは主にIFN-およびIL-2を産生するCD4+T細胞であり、いわゆる細胞性免疫を誘導するのに対し、Th2型細胞は主にIL-4、IL-5およびIL-10を産生するCD4+T細胞であり、液性免疫を誘導する。この概念は当初はマウスにおいて提唱されたが、近年ではヒトでも類似のサブセットが存在すると考えられており、アレルギー性疾患・自己免疫性疾患の発症、感染防御において中心的な働きを持つことが明らかにされ、いかなる機構によりその細胞分化が決定されているかを解明することは、これらの疾患の病態を解明し、治療を行う上で極めて重要であると認識されている。

 このような経緯から、IRF-1、またIRF-1に対する転写抑制因子であるとされるIRF-2のTh1/Th2型細胞分化における役割について明らかにする目的で、これらの遺伝子欠損マウスを用いて解析を行った。

【方法および結果】IRF-1欠損マウスを用いたTh1/Th2型細胞分化の解析

 IRF-1欠損(以下IRF-1-/-)マウスにKLHを免疫し、その所属リンパ節細胞のKLHに対するサイトカイン産生を測定、あるいはT細胞レセプタートランスジーンであるDO11.10TCRを導入したIRF-1-/-マウス脾細胞に、抗原ペプチドを加えin vitroでTh1/Th2型細胞分化の誘導を行い解析した結果、野生型マウスがTh1型細胞分化が誘導されるのに対し、IRF-1-/-マウスではTh2型細胞分化が誘導された。すなわちIRF-1はTh1型細胞分化の誘導に寄与する転写因子であることが明らかとなった。

 この機能異常の原因を明らかにするために、IRF-1-/-CD4+T細胞および抗原提示細胞を分離精製し、それぞれの機能を解析した。その結果、IRF-1を欠損した場合、いずれの細胞においても、以下に示す機能異常を生じることが明らかとなった。

 IRF-1-/-抗原提示細胞は野生型CD4+T細胞をTh2型細胞に分化誘導した。Th1型細胞分化を誘導するサイトカインであるIL-12のp40サブユニットの遺伝子発現誘導を解析した結果、IRF-1-/-マウス脾細胞では、LPSおよびIFN-による誘導に加え、CD40による誘導も、その発現誘導が著明に低下しており、IRF-1はCD40によるIL-12産生に必須の転写因子であることが、今回新たに明らかとなった。IRF-1は、IFN-を産生しTh1型細胞分化の誘導に寄与するNK細胞の分化をも制御することも報告されており、このこともTh1型免疫応答の誘導低下の原因の一つであると考えられた。しかしながら、IL-12およびIFN-を補っただけでは、IRF-1-/-抗原提示細胞の機能不全は十分には回復しないことから、これらに加え、さらに何らかの分子の発現異常があると考えられたが、検索した範囲では、発現異常があるものは見いだせず、何らかの液性因子あるいは細胞表面分子の発現異常によるものと考えられた。

 IRF-1-/-CD4+T細胞は、野生型CD4+T細胞と比較し、IL-12によるTh1型細胞分化の程度が低下していた。IL-12レセプターの発現は正常であり、IRF-1はIL-12レセプターの細胞内情報伝達以降で何らかの機能を持つことが考えられたが、その詳しい機序に関しては、今回は明らかにはできなかった。

 このような結果から、IRF-1は、抗原提示細胞のIL-12p40産生、CD4+T細胞のIL-12応答性、また以前報告されている、NK細胞の分化、抗原提示細胞のiNOSの発現など種々の細胞の分化から機能発現を制御することにより、Th1型細胞分化およびその機能発現に寄与する転写因子であることが明らかとなった。

IRF-2欠損マウスを用いたTh1/Th2型細胞分化の解析

 IRF-1がIFN系を正に制御する転写活性化因子であるのに対し、IRF-2はその転写活性に拮抗し、IFN系を負に制御する転写抑制因子であると考えられてきた。このことから、Th1/Th2型細胞分化に関しては、IRF-2はIRF-1とは逆の機能を持つことが予想された。そこでDO11.10TCRトランスジェニックIRF-2-/-マウス脾細胞を用いてTh1/Th2型細胞分化の解析を行った。その結果、IRF-2-/-マウス脾細胞ではTh2型細胞分化が誘導された。すなわち、IRF-2はTh1/Th2型細胞分化に関しては、IRF-1に拮抗するのではなく、むしろIRF-1と同様にTh1型細胞分化誘導に寄与する転写因子であることが、今回明らかとなった。この機能異常の原因を明らかにするために、IRF-2-/-CD4+T細胞および抗原提示細胞を分離精製し、それぞれについての機能を解析した。その結果、以下に示すように、主に抗原提示細胞に機能異常があることが明らかとなった。

 IRF-2-/-抗原提示細胞は、野生型CD4+T細胞をTh2型細胞に分化誘導した。その機能異常の原因については、IL-12p40産生、NK細胞、細胞表面分子など検索した範囲では、著明な異常があるものは見いだせず、どのような分子の発現異常に由来するのかは、明らかにすることはできなかった。

 IRF-2-/-CD4+T細胞は、野生型抗原提示細胞によってTh2型細胞に分化したが、IL-12あるいは抗IL-4抗体を加えることによりほぼ正常にTh1型細胞に分化すること、IRF-2-/-CD4+T細胞はTh2型のサイトカイン産生を示すのに対し抗原未感作であるIRF-2-/-CD4+CD62LhighT細胞のサイトカイン産生は野生型と同様のパターンであることから、その分化異常は、CD4+T細胞自身の機能異常というよりも、むしろ生体内で、すでにTh2型に分化した細胞が産生するIL-4により引き起こされているものと考えられた。

 IRF-2はIRF-1以外にも、I型IFN系の細胞内情報伝達分子であるISGF3/p48に対しても転写抑制作用を持つことが報告されており、I型IFNシグナルに異常が生じている可能性が考えられた。実際、IRF-2-/-マウスのI型IFNシグナルを解析した結果、CD4+T細胞あるいは抗原提示細胞においては、I型IFN遺伝子の発現は野生型と同程度であるのにも関わらず、I型IFN誘導遺伝子の発現は著明に増強しており、IRF-2-/-CD4+T細胞および抗原提示細胞では、生理的条件下で微量に産生されているI型IFNに対する応答が増強した状態にあることが明らかとなった。近年I型IFNは、ヒトリンパ球ではTh1/Th2型細胞分化に影響を及ぼすことが報告されている。そこで、次に、このI型IFNシグナルの増強が、IRF-2-/-マウス脾細胞におけるTh1/Th2型細胞分化の異常の原因となっているか否かに関して検討を行った。その目的で、IRF-2欠損に加え、I型IFNシグナルの増強を抑制するためにISGF3/p48を同時に欠損するマウス(以下IRF-2-/-ISGF3/p48-/-マウス)を作成し、その脾細胞からのサイトカイン産生を測定した。その結果、IRF-2-/-マウス脾細胞がTh2型のサイトカイン産生を示すのに対し、IRF-2-/-ISGF3/p48-/-マウスはTh1型のサイトカイン産生を示した。すなわちIRF-2-/-マウスにおけるTh1/Th2型細胞分化の異常は、I型IFNシグナルの増強が原因であることが明らかとなった。

【考察】

 IRF-1およびIRF-2は、ともにTh1型細胞分化の誘導に寄与する転写因子であることが明らかにされた。しかしながらその作用機序は異なり、IRF-1がIL-12p40をはじめとする遺伝子発現を誘導することによるのに対し、IRF-2はIRF-1に拮抗するよりも、むしろISGF3/p48に拮抗し、I型IFN系のシグナルを負に調節することによりTh1型細胞分化の誘導に寄与することが今回明らかとなった。また、この結果から、マウスではI型IFNはTh2型細胞分化に作用することが示唆される。同じIRFファミリーに属するICSBPもまたTh1型細胞分化の誘導に寄与することが報告されており、IRFファミリー転写因子のいくつかは、IFN系のみならず、Th1/Th2型細胞分化をも制御する転写因子であることが明らかとなった。しかし、その作用機序は一部が解明されたのみであり、IRFファミリー転写因子による免疫系の制御機構を明らかにしていくことは、Th1/Th2型細胞分化の機構、およびTh1/Th2型細胞の関与する疾患の病態を明らかにし、さらには治療に応用していく上でも有用になるものと思われる。

審査要旨

 本研究は、インターフェロン系を制御する転写因子であるIRF-1およびIRF-2の免疫系細胞における機能、特にTh1/Th2型細胞分化における機能を明らかにするために、T細胞レセプタートランスジーンを導入することにより解析し、下記の結果を得ている。

 1.T細胞レセプタートランスジーンを導入したIRF-1-/-マウス脾細胞に、抗原ペプチドを加えin vitroでTh1/Th2型細胞分化の誘導を行い解析した結果、野生型マウスがTh1型細胞分化が誘導されるのに対し、IRF-1-/-マウスではTh2型細胞分化が誘導された。すなわちIRF-1はTh1型細胞分化の誘導に寄与する転写因子であることを明らかにした。

 2.Th1型細胞分化を誘導するサイトカインであるIL-12p40サブユニットの遺伝子発現誘導を解析し、IRF-1-/-マウス脾細胞では、LPSおよびIFN-による誘導に加え、CD40による誘導も著明に低下しており、IRF-1はCD40によるIL-12産生に必須の転写因子であることを示した。また、IRF-1-/-抗原提示細胞の機能を調べた結果、IRF-1-/-抗原提示細胞が野生型CD4+T細胞をTh2型細胞に分化誘導すること、すなわちIRF-1-/-抗原提示細胞に機能異常があることを明らかにした。

 3.IRF-1-/-CD4+T細胞は野生型のそれと比較し、Th1型細胞への分化の程度が低下していることを初めて示した。

 4.以上より、IRF-1は抗原提示細胞およびCD4+T細胞の両方の細胞群において、Th1型細胞分化に寄与する転写因子であることを示し、そのメカニズムの1つとして、IRF-1がIL-12p40産生を制御することを明らかにした。

 5.IRF-1に拮抗作用を持つとされるIRF-2のTh1/Th2型細胞分化における役割についても解析した。IRF-1-/-マウスの場合と同様に、T細胞レセプタートランスジーンを導入したマウスを解析した結果、IRF-2-/-マウス脾細胞ではTh2型細胞分化が誘導されること、すなわち、IRF-2はTh1/Th2型細胞の分化に関し、IRF-1に拮抗するのではなく、むしろIRF-1と同様にTh1型細胞分化の誘導に寄与する転写因子であることを明らかにした。

 6.IRF-2-/-マウス脾細胞の機能異常の原因を明らかにするために、IRF-2-/-抗原提示細胞およびIRF-2-/-CD4+T細胞の機能を解析した。その結果、IRF-2-/-抗原提示細胞が野生型CD4+T細胞をTh2型細胞に分化誘導すること、IRF-2-/-CD4+T細胞のサイトカイン産生は野生型と同様であることを示し、その機能異常が主に抗原提示細胞の機能異常に由来することを明らかにした。

 7.IRF-2-/-マウス脾細胞の機能異常の原因について、どのような分子の発現異常によるものか検討したが、検索した範囲では、野生型と比較し、機能異常が著しいものは見いだせなかった。一方、IRF-2-/-マウス脾細胞ではI型インターフェロンシグナルが増強しており、I型インターフェロンの細胞内情報伝達分子であるISGF3を同時に欠損するマウスでは、Th1/Th2型細胞分化の異常は正常に回復した。このことから、IRF-2-/-マウス脾細胞のTh1/Th2型細胞分化異常はI型インターフェロンシグナルの増強によることが明らかとなった。

 以上、本論文は、IRFファミリー転写因子に属するIRF-1およびIRF-2の遺伝子欠損マウスにT細胞レセプタートランスジーンを導入することにより、これらの転写因子がインターフェロン系だけではなく、Th1/Th2型細胞分化をも制御することを明らかにした。このように本研究はIRFファミリー転写因子の新しい機能を明らかにし、またTh1/Th2型細胞分化の機序の解明にも貢献するものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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