本研究は、T細胞の活性化に重要な役割を果たしている共刺激シグナルの異常が自己免疫疾患の病態形成に関与している可能性の一つの因子として、T細胞共刺激分子に対する自己抗体の存在を考え、全身性自己免疫疾患患者においてT細胞共刺激分子に対する自己抗体の検索を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.T細胞共刺激分子である、CTLA-4(CD152)、CD28、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)分子を、大腸菌にて組み換え融合蛋白として作製し、これらを抗原として血清を用いてELISAにてIgGタイプの抗体の検索を行った結果、患者162症例中、抗CTLA-4抗体が21例(13.0%)で陽性であった。抗B7-2抗体は3例(1.9%)のみで陽性であり、抗CD28抗体、抗B7-1抗体陽性者は認められなかった。 2.疾患別に抗CTLA-4抗体の陽性率を検討したところ、SLEで49例中4例(8.2%)、RAで48例中9例(18.8%)、SScで32例中1例(3.1%)、Bechet病で22例中7例(31.8%)、Sjsで15例中2例(13.3%)が陽性となり、検討した疾患の中ではBehcet病に高率に検出された。また、抗CTLA-4抗体の反応性は、immunoblottingでも確認された。 3.フローサイトメーターを用いた検討より、患者から精製した抗CTLA-4自己抗体が、動物細胞上に発現させたCTLA-4分子にも結合することが示されたことより、抗CTLA-4自己抗体は、本来の立体構造を有すると考えられるCTLA-4分子に結合することが確認された。 4.断片化したCTLA-4分子を用いて、CTLA-4分子上のエピトープを解析した結果、IgGタイプの抗CTLA-4抗体が認識するエピトープがCTLA-4分子上に少なくとも3箇所以上存在することが示されたことより、抗CTLA-4自己抗体は多くの抗核抗体と同様に、antigen-drivenの機序により産生されていると考えられた。また、疾患別にエピトープを比較検討したが、疾患特異的なエピトープは認められなかった。 5.Behcet病において、抗CTLA-4抗体陽性者と陰性者において、検査所見(血沈、リンパ球数、免疫グロブリン)の比較を行った結果、両者間に有意な差異は認められなかった。また、同様に、Behcet病の診断基準に挙げられている臨床症状の比較を行ったところ、ブドウ膜炎の罹患(既往を含む)と抗CTLA-4抗体の存在の間に、有意な負の相関が認められた。 以上、本論文は、全身性自己免疫疾患におけるT細胞共刺激分子に対する自己抗体の検索の結果、CTLA-4分子に対する自己抗体の存在を明らかにした。CTLA-4分子をはじめとする共刺激シグナルの異常が自己免疫疾患の病態形成に関与する可能性が示唆されているが、本研究は、CTLA-4分子に対する自己抗体が、CTLA-4分子を介したシグナルに異常を生み出す可能性を示唆しており、自己免疫疾患の病態解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |