本研究は呼吸器疾患である、肺線維症において、TGF- supergene familyに属するactivin Aの発現とその肺線維芽細胞に対する生物学的作用を検討したものである。方法としては、ヒト肺線維症組織標本およびブレオマイシン肺線維症モデルマウスを用いて、免疫組織染色とEDF-assayにて、activin Aの発現と肺胞マクロファージのactivin Aの産生を検討した。次にin vitroにおいて肺線維芽細胞(HFL-1)を使用して、activin受容体の発現の有無と、肺線維芽細胞の増殖、筋線維芽細胞への分化、遊走そしてコラーゲンゲルの収縮におよぼすactivin Aの作用を検討したものである。下記の結果を得ている。 1.ヒト正常肺組織においては、細気管支上皮細胞および血管平滑筋細胞においてactivin Aの発現が認められた。 2.DAD症例および肺線維症ではLN5抗体陽性の肺胞マクロファージおよび蜂巣肺周囲のmetaplastic epitheliumおよびhyperplasticな平滑筋細胞に強いactivin Aの産生が認められた。 3.正常成熟マウス肺においては血管平滑筋および細気管支上皮細胞にactivin Aの発現が認められた。 4.BLM肺傷害マウスではBLM処理後、7日目、14日目の肺組織において線維化病巣を中心にactivin A陽性細胞が認められ、その多くは、肺胞マクロファージであった。 5.Activin A/EDF活性(Friend F5-5細胞の赤芽球分化誘導能)は14日目に採取した肺胞マクロファージ培養上清で有意に高値を示し、マクロファージにおけるbioactiveなactivin Aの産生の亢進が示された。 6.activinのの受容体のtype I,type IIの発現が、肺線維芽細胞(HFL-1)にてRT-PCR法および免疫染色にて確認された。 7.肺線維芽細胞(HFL-1)はactivin Aにて細胞数、およびDNA合成レベルにて増殖活性を示した。 8.activin Aの肺線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化誘導は濃度依存性であった。 9.activin Aにて、生理的濃度の範囲において、肺線維芽細胞の遊走は認められなかった。 10.肺線維芽細胞を含むコラーゲンゲルは濃度依存性にアクチビンAにてコントロールと比較して有意な収縮が認められた。 11.これらの肺線維芽細胞に対する生物学的効果は中和蛋白であるfollistatin添加により特異的に抑制された。 以上、本論文は肺線維症においてactivin Aは独自に発現し、in vitroにおける作用より、その病態に深く関与している可能性が推測された。本研究はこれまで未知に等しかった、activin Aの肺線維症における発現とその役割をはじめて解明し、その病態の理解に重要な貢献をなすものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |