学位論文要旨



No 114564
著者(漢字) 大島,秀男
著者(英字)
著者(カナ) オオシマ,ヒデオ
標題(和) マウスCD70分子の遺伝子クローニングと機能解析
標題(洋)
報告番号 114564
報告番号 甲14564
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1484号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 上西,紀夫
 東京大学 教授 山本,一彦
 東京大学 教授 森本,幾夫
 東京大学 講師 針原,康
 東京大学 講師 堀江,重郎
内容要旨 【緒言】

 CD27はtumornecrosis factor(TNF)レセプターファミリーに属するI型膜貫通型糖蛋白で、ヒトでは大部分のT細胞、胸腺髄質細胞、及び一部のB細胞、NK細胞に発現している。そのリガンドはCD70として同定されており、CD70はTNFファミリーに属するII型膜貫通型糖蛋白で、活性化されたT組胞あるいはB細胞上で発現が誘導される分子である。最近の研究により、ヒトCD70/CD27相互作用はin vitroにおいてT細胞に対するco-stimulation、NK細胞の活性化、T細胞依存性のB細胞活性化、特にIgG産生形質細胞への分化に関し重要な役割を果たしていることが明らかにされてきたが、in vivoにおける生理学的機能については未だ解明されていない。一般にin vivoにおける機能解析という点に関しては、ヒトに比較しマウスを用いた系の方が種々の実験系を確立し易いという利点がある。本研究では、CD70/CD27相互作用の解明を目的として、まずマウスCD70(mCD70)を遺伝子クローニングによって同定した。次に、ラット抗mCD70モノクローナル抗体を作製し、マウスT細胞及びB細胞におけるmCD70の発現を解析した。さらに、CD70/CD27相互作用のT細胞に対する作用に着目し、in vitroにおけるT細胞の増殖及びサイトカイン産生に対するco-stimulation作用を解析した。また、mCD70cDNAのトランスフェクションによる腫瘍拒絶誘導実験により、in vivoにおけるCD70/CD27相互作用についても解析を行った。

【実験結果及び考察】1.マウスmCD70cDNAのクローニング

 マウスCD27(mCD27)の細胞外領域とヒトIgG1Fc部分の融合蛋白であるmCD27-Igを用いてフローサイトメトリー解析を行った結果、マウスB細胞リンパ腫A20細胞にmCD27リガンド(mCD27L)の強い発現が認められた。次にA20細胞のcDNAライブラリーからヒトCD70(hCD70)のcDNAフラグメントをプローベとして用いたクロスハイブリダイゼーション法によりmCD27LcDNAを単離した。このcDNAのヌクレオチド配列はhCD70cDNAと最も高いホモロジーを示し、mCD27LはhCD70のマウスホモログmCD70であることが確認された。mCD70cDNAは195アミノ酸より構成されるII型膜貫通型糖蛋白をコードしており、mCD70分子は21アミノ酸から成る細胞内領域、18アミノ酸から成る疎水性膜貫通領域及び156アミノ酸から成る細胞外領域によって構成され、3カ所のN-linked glycosylation可能部位を有することが明らかになった。またmCD70はhCD70と、ヌクレオチドレベルでは63.5%、アミノ酸レベルでは56.4%のホモロジーを示した。

2.ラット抗mCD70モノクローナル抗体の作製

 まずハムスター腎細胞BHK21及びマウスマスト細胞腫P815にmCD70をトランスフェクションし、mCD70高発現株mCD70-BHK21及びmCD70-P815を樹立した。次にA20細胞を免疫したF344/DuCrjラットの脾細胞とマウスミエローマP3U1細胞を細胞融合させ、ラット抗mCD70モノクローナル抗体(FR70、IgG2b)を産生するハイブリードーマを樹立した。FR70及びmCD27-Igを用いてA20、P815及びmCD70-P815細胞の細胞表面蛋白を免疫沈降すると、共にA20及びmCD70-P815細胞溶解液からのみ30-33kDのポリペプチドを特異的に沈降させた。この結果から、FR70によって認識される抗原がmCD70であることが確認された。また、FR70はmCD70-BHK21細胞とmCD27-Igの結合をほぼ完全に阻害した。

3.活性化T細胞及びB細胞上のmCD70の発現

 マウスT細胞を固相化抗CD3抗体及び可溶性抗CD28抗体で刺激し、CD70及びCD27の発現を調べた。CD70は刺激後48時間より発現が認められ96時間でピークに達した。一方CD27は大部分のT細胞上に未刺激状態でも発現しており、活性化により発現レベルの上昇が認められた。次に、B細胞を抗CD40抗体で刺激すると、CD70は刺激後24時間より発現が確認され96時間でピークに達し、一方、CD27に関しては、刺激後48-96時間にごくわずかな発現を認めた。さらに、抗IgM抗体単独の刺激ではCD70の発現は確認できなかったが、抗CD40抗体刺激との共刺激では、抗CD40抗体単独に比しCD70発現レベルの上昇を認めた。B細胞上のCD70発現に関するこれらの実験結果は、膜表面免疫グロブリンを介したシグナルによってプライミングされた抗原特異的B細胞にはCD40を介した刺激によってより高レベルのCD70発現が誘導され、CD70/CD27相互作用が抗原特異的T-B細胞間相互作用に重要な役割を果たしている可能性を示唆している。

4.mCD70のT細胞増殖に対するco-stimulation作用

 DBA/2マウスT細胞を抗CD3抗体存在下でP815及びmCD70-P815細胞と共培養したときの[3H]-thymidineの取り込み量を測定し、mCD70のT細胞増殖に対する作用を調べた。mCD70-P815細胞と共培養されたT細胞は培養48時間で最も増殖が強く、また、このT細胞に対する作用はFR70及びmCD27-Igにより濃度依存性に阻害された。次に、mCD70によるT細胞増殖に対するCD3+、CD4+及びCD8+の各T細胞分画の反応の違いを調べたところ、CD4+T細胞に比しCD8+T細胞では3-4倍量の[3H]-thymidineの取り込みが認められた。このことからCD70/CD27相互作用のT細胞増殖に対するco-stimulation作用はCD8+T細胞に対してより有効に働くことが明らかになった。

 A20細胞は未刺激状態で細胞表面上にCD70、CD86を発現している。A20細胞と共培養したときに認められるT細胞増殖はFR70あるいは抗CD80/86抗体の単独添加ではいずれも50%程度の抑制しか認められなかったが、同時に添加することによりほぼ完全に抑制された。この結果から、A20細胞によって誘導されるCD70を介したco-stimulation作用はCD80/CD86を介する経路と相補的に作用すると考えられた。

5.マウスCD70のT細胞サイトカイン産生に対するco-stimulation作用

 DBA/2マウスT(CD3+)細胞をP815、mCD70-P815と抗CD3抗体存在下で共培養し、培養上清中のIFN-、IL-2、IL-4及びIL-10をELISA法により測定した。mCD70-P815細胞との共培養ではIFN-のみ検出されたが、IL-2、IL-4及びIL-10については測定感度以下であった。次に、mCD70によるIFN-産生に対するCD3+、CD4+及びCD8+の各T細胞分画の反応の違いを調べたところ、CD8+T細胞とmCD70-P815細胞の共培養上清中のIFN-濃度はCD4+T細胞の30-40倍、CD3+T細胞の4-5倍であった。この結果から、CD70/CD27相互作用によるT細胞からのIFN-産生の大部分はCD8+T細胞由来であると考えられた。最近TNF/TNFレセプターファミリーに属する4-1BBリガンド/4-1BBについてもT細胞の増殖およびIFN-の産生誘導に対しCD8+T細胞に優位に働くのco-stimulation作用をもつことが報告されており、CD70あるいは4-1BBリガンドなどの分子が生体の抗ウィルスあるいは抗腫瘍等の細胞性免疫反応のなかで中心的な役割を担っている可能性が示唆される。

6.mCD70cDNAトランスフェクションによる腫瘍拒絶の誘導

 mCD70のin vivoにおける腫瘍発育に及ぼす影響を調べるため、P815及びmCD70-P815細胞を同系マウスであるDBA/2マウスの皮下に接種した。P815接種マウスでは腫瘍はすべて進行性に増殖し、接種後35日までに全例死亡したが、mCD70-P815接種マウスでは60%のマウス(4/10)に一時腫瘍の生着をみたが最終的にすべて腫瘍は拒絶され、その後60日以上の観察で腫瘍の再増殖を認めなかった。FR70投与マウスではmCD70-P815の腫瘍拒絶は完全に阻害された。また、腫瘍拒絶が確認されたマウスにP815細胞を再接種すると腫瘍が拒絶されるが、マウスT細胞リンパ腫L1210細胞の接種では腫瘍の発育が認められたことから、mCD70-P815細胞接種によりP815特異的な抗腫瘍免疫が獲得されることが明らかになった。

 P815及びmCD70-P815細胞をT細胞が欠失したBALB/cヌードマウスの皮下に接種すると、mCD70-P815はP815と同樣に進行性に増殖し、接種後25日までに全例死亡した。次に、CD4+T細胞あるいはCD8+T細胞を除去したDBA/2マウスにmCD70-P815細胞を接種すると、CD8+T細胞除去マウスではmCD70-P815は進行性に増殖し全例30日以内に死亡に至った。一方、CD4+T細胞除去マウスではコントロールに比較して明らかに腫瘍の増大傾向を認めたが、60%のマウス(3/5)ではその後腫瘍が縮小し最終的に拒絶された。抗IFN-抗体投与群では、CD4+T細胞除去群と同様にコントロールIgG投与群に比較して明らかに腫瘍の増大傾向を認め、80%のマウス(4/5)は35日以内に死亡した。これらの結果は、in vivoにおけるmCD70-P815の腫瘍拒絶反応の機序として、in vitroで確認されたCD70/CD27相互作用によるCD8+T細胞の増殖及びIFN-産生の誘導が中心的役割を果たすことを強く示唆している。また、腫瘍拒絶の効率良い誘導にはCD8+T細胞だけでなくCD4+T細胞の何らかのヘルパー機能が必要であると考えられる。しかしながら、種々の腫瘍拒絶モデルにおけるCD4+T細胞の機能については未解明の点が多く、mCD70トランスフェクションによる腫瘍拒絶のメカニズムについてもさらに研究をすすめる必要がある。また抗mCD27抗体のin vivo投与による腫瘍拒絶誘導の研究等を通じて、臨床応用の可能性についても検討を進めたい。

【結語】

 mCD70の遺伝子クローニング及び抗mCD70モノクローナル抗体の作製と、マウスCD70/CD27相互作用のT細胞に対するco-stimulation作用に関する一連の解析を行った。ヒトin vitroにおける研究結果では、CD70/CD27相互作用はT細胞に対するco-stimulation機能以外にもT細胞の分化や抗体産性系等において多様な機能を有することが示唆されている。現在マウスの系においても、NK細胞の活性化作用、Th1/Th2細胞におけるCD70の機能、種々のマウス自己免疫疾患モデルを用いたin vivo解析などについて共同研究が進行中であり、近い将来CD70/CD27の生理学的機能の全容が解明されることが期待される。

審査要旨

 本研究はTNFファミリーに属するCD70分子の機能解析を目的として、マウスCD70(mCD70)の遺伝子クローニング及びラット抗mCD70モノクローナル抗体(FR70)の作製と、マウスCD70/CD27相互作用のT細胞に対するco-stimulation作用に関して一連の解析を試みたもので、下記の結果を得ている。

 1.mCD70cDNAは195アミノ酸より構成されるII型膜貫通型糖蛋白をコードしており、mCD70はhCD70とアミノ酸レベルで56.4%のホモロジーを示した。

 2.本研究において作製したラット抗mCD70モノクローナル抗体(FR70)はin vitro、in vivoにおけるマウスCD70/CD27相互作用を効率的に阻害した。

 3.mCD70の発現はin vitroにおいて抗CD3抗体+抗CD28抗体により刺激したT細胞、及び抗CD40抗体により刺激したB細胞に認められた。

 4.マウスCD70/CD27によるco-stimulation作用はT細胞増殖を増強し、その反応はCD4+T細胞に比較しCD8+T細胞でより強く認められた。また、T細胞増殖に関するマウスCD70/CD27相互作用はCD28を介した経路と相補的に作用した。

 5.マウスCD70/CD27相互作用はT細胞、特にCD8+T細胞からのIFN-産生を強く誘導した。

 6.mCD70cDNAトランスフェクションにより腫瘍拒絶が誘導された。その機序として、in vitroで認められたT細胞、特にCD8+T細胞に対するマウスCD70/CD27相互作用が中心的役割を果たしていることが強く示唆された。

 以上、本論文では未知であったmCD70分子の遺伝子クローニングとその抗体の作製をはじめて行ない、マウスCD70/CD27によるco-stimulation作用がT細胞、特にCD8+T細胞の活性化を強く誘導することを明らかにした。本研究は多様な機能を有するCD70/CD27相互作用の解明にきわめて重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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