本研究は、慢性関節リウマチの関節破壊において重要と考えられる骨吸収について、抗リウマチ薬が骨吸収に及ぼす作用を明らかにするため、代表的な抗リウマチ薬であるサラゾスルファピリジン(SASP)およびブシラミン(BUC)を用いて、in vitroでの破骨細胞様細胞形成系における破骨細胞の形成および機能に対する作用、組織培養系における骨吸収に及ぼす作用、破骨細胞の形成に重要な働きを担っている骨芽細胞における破骨細胞分化誘導因子(Osteoclast Differentiating Factor,ODF)の発現に及ぼす作用、骨芽細胞のアルカリフォスファターゼ活性に及ぼす作用について検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.破骨細胞形成におけるTRAP染色陽性の破骨細胞様細胞数は、SASPおよびBUCともに濃度依存性に減少し、両薬剤が破骨細胞様細胞形成を抑制することが示された。 2.骨吸収窩アッセイでは、SASPは濃度依存性に吸収窩面積が減少し、破骨細胞様細胞の機能抑制作用が示された。BUCでは300g/mlを除いて減少は認められず、機能抑制作用は認められなかった。 3.45Caを用いたマウス頭頂骨組織培養では、SASPは濃度依存性に45Ca溶出を抑制し、SASPの骨組織培養における骨吸収抑制作用が示された。一方、BUCでは45Ca溶出は抑制されなかった。 4.活性型ビタミンD3により発現を刺激した骨芽細胞のODFmRNA発現は、SASPにより濃度依存性に抑制され、SASPの破骨細胞様細胞形成抑制作用の少なくとも一部は骨芽細胞のODFmRNA発現抑制を介していることが示された。一方、BUCでは骨芽細胞のODFmRNA発現は逆に増強された。 5.骨芽細胞の蛋白あたりのALP活性はSASPではコントロールと差がなくSASPが骨芽細胞のALP活性に及ぼす影響は認められなかった。一方、BUCではALP活性は約50%程度に低下していた。 以上、本論文は種々の実験系を用いて抗リウマチ薬のサラゾスルファピリジンが臨床使用濃度において骨芽細胞の破骨細胞分化誘導因子発現抑制、破骨細胞形成の抑制、破骨細胞機能の抑制等の作用を有しており、これらを介して骨吸収を抑制することを明らかとした。本研究はこれまで基礎的研究が乏しい抗リウマチ薬の骨吸収に関する新知見であり、その臨床的意義も大きく、学位の授与に値するものと考えられる。 |