本研究は、糖尿病に特異的な総合的QOL尺度を開発したものである。米国で開発された、糖尿病特異的総合的QOL尺度であるDiabetes-39(5ドメイン、39項目から成る)をもとに、他言語で開発された尺度を使用する際に必要とされる適切な手順に則り、その日本語翻訳版の作成、及び尺度に必要とされる計量心理学的検討(妥当性、信頼性の検討)を行った。 主要な結果は下記の通りである。 1.Forward translation-back translationの方法を経て、内容的、概念的にDiabetes-39オリジナル版と同等である日本語翻訳版の原案を作成した。 2.上記1.で作成された翻訳版について、糖尿病患者を対象としたプレテスト(1対1の面接)及び糖尿病専門家との相談を行い、その表面妥当性、内容妥当性の検討を行った。その結果、質問方法と回答方法に大幅な変更がなされ、2項目が追加され、9項目で表現等の変更が行われた。最終的に、表面妥当性、内容妥当性は確認された。 3.上記1.2.を経て、5ドメイン(Diabetes Control,Anxiety and Worry,Energy and Mobility,Social Burden,Sexual Functioning)、41項目から成る、Diabetes-39日本語翻訳版が作成された。 4.作成されたDiabetes-39日本語翻訳版について、350名の糖尿病患者を対象として、妥当性(因子妥当性、内的整合性、収束妥当性・判別妥当性)、及びMultitrait Scaling Methodを用いてScaling Assumptionの検討を行った。300名から回答が得られ、2項目のドメイン構成が変更となった。また、より適切なドメイン構成についてはさらなる検討が必要であること、一部の回答方法や項目の再考が必要であることが示された。 5.作成されたDiabetes-39日本語翻訳版について、100名の糖尿病患者を対象として信頼性(再テスト信頼性)の検討を行った。84名から回答が得られ、信頼性を有することが確認された。 以上、本論文は、病型や行っている治療法によらず使用できる、糖尿病特異的総合的QOL尺度開発を試みた研究である。現在我が国では、この要求を満たす尺度は見あたらないため、我が国で使用可能な糖尿病特異的総合的QOLの開発としては初めてのものである。また、適切な手順に則ってその開発を行った点において、今後、種々のQOL尺度開発研究において参考になる点が多いと考えられる。さらにまた、疾病の特徴上、糖尿病治療においてはQOLを考慮することが非常に重要であるため、治療法の開発や患者教育、日常診療等において、本研究は多大なる貢献が成されるものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |