本研究は、腹圧性尿失禁者の症状を改善させるための介入である骨盤底筋訓練の実践度を高める方法に注目し、既存の方法に自己効力感を高める方法を加えた「コンチネンス効力感介入法」を考案したものである。既存の方法と比較することにより、コンチネンス効力感と骨盤底筋訓練実践度(骨盤底筋訓練の回数と予防行動の遂行度)との関係を検討し、下記の結果を得ている。 1.治療方針として骨盤底筋訓練が必要とされた新患33名(介入群16名とコントロール群17名)について、コンチネンス効力感介入法(介入群)と既存の方法(コントロール群B)を提供して、その介入の効果の一つとしてコンチネンス効力感(以下効力感とする)を検討した。脱落者5名を除く28名に対して検討した結果、効力感はコントロール群より介入群の方が有意に高く、「コンチネンス効力感介入法」は効力感を高めることが認められた。 2.介入による症状の改善度の検討は、既存の方法を受けた利用者15名(コントロール群A)を加え3群間における検討をした。その結果、症状の改善について3群間に有意差があることが認められた。 3.介入のアウトカムとして骨盤底筋訓練の実践度を検討した結果、介入群の方がコントロール群より実践度が高く、群間に有意差が認められた。 4.効力感と尿失禁ストレス及びうつの症状との間に関連があるか検討した結果、12週目に効力感と尿失禁ストレス、効力感とうつの間に有意な負の相関があり、効力感を高めることがストレスやうつを低くする可能性が示唆された。 5.効力感と骨盤底筋訓練の実践度との関係を検討した。先ず効力感と関連し得る年齢、有病期間、他疾患の数はどれも効力感と有意な関連がみられなかった。効力感と骨盤底筋訓練の実践度との関係を分析した結果、効力感が骨盤底筋訓練の実践度の有意な予測変数であると認められた。 以上の結果により、腹圧性尿失禁者の骨盤底筋訓練の実践度を高める一つの方法として効力感を高める介入が有効であることが示された。 多くの女性がもつ腹圧性尿失禁の症状の改善は女性の健康維持の重要な課題になっている。症状の改善方法である骨盤底筋訓練の効果は従来から報告されているものの、訓練の効果には差があった。骨盤底筋訓練の実践度を予測する概念として効力感を検証したのは看護学で初めての試みであり、また、電話を利用した「コンチネンス効力感介入法」は、尿失禁者への介入法として簡便であり、一般の看護介入法として応用し得る有用性をも兼ね備えていることから、本論文は学位の授与に値するものと認められる。 |