本論文は、在宅障害老人における「閉じこもり」と「閉じこめられ」の身体的特性、心理特性、社会的特性、家族介護環境特性、住居環境特性の特徴を明らかにしたものである。本研究に先立ち、看護職23人への半構成的面接を行った結果から、閉じこもり現象は、行動範囲が屋内に限られ、生活行動の活動性が低い生活像であり、移動能力が低い場合を「閉じこめられ」、移動能力が高い場合を「閉じこもり」であることが示唆された。本研究では、地域の悉皆調査から選定した、在宅障害老人321人に質問紙による訪問面接調査を行い、以下の結果を得ている。 1.対象者を移動能力の程度から、歩行不可群、5m歩行群、バス外出可能群に層別化を行い、各特性を検討した。移動能力が低いほど、ADL、上肢機能、認知能力、意欲、social networkの得点が低く、抑うつ状態が高かった。移動能力が低いほど、介護者の働きかけは行われていたが、介護負担感が高かった。これらの結果から、先行研究の知見を確認することができた。 2.移動能力が低いほど、生活行動の活動性は低く、行動範囲が屋内に限られる傾向が示された。バス外出可能群にHouseboundの高齢者は、みられなかった。 3.「閉じこもり」と「閉じこめられ」を特定するために、移動能力ごとに生活行動の活動性と行動範囲との関連から生活像の類型化を行った。歩行不可群の「閉じこめられ」(Housebound-不活動型)の出現率は、68.1%と過半数を占めていたのに対し、5m歩行群の「閉じこもり」(Housebound-不活動型)の出現率は、10.1%と多数を占めるものではないことが明らかにされた。また、対象地域での「閉じこめられ」の出現率は0.71%、「閉じこもり」の出現率は0.23%であることが示された。 4.「閉じこめられ」の身体機能、意欲、social networkは、著しく低かった。また、「閉じこめられ」は、介護者の「連れ出す働きかけ」やデイサービス、デイケアの利用が少なかった反面、介護負担感は、低い特徴が明らかにされた。 5.「閉じこもり」は、身体機能は低くなく、その機能を活用した行動範囲や生活行動の活動性を維持していないと考えられた。また、「閉じこもり」は、意欲やsocial networkが著しく低い特徴が明らかにされた。 以上、本論文では、寝たきり老人の発生過程であると問題指摘されているものの、まだ実証的研究は行われていない閉じこもり現象に着目し、在宅障害老人の「閉じこもり」と「閉じこめられ」の特徴を記述、分析している点に、独創性が認められる。さらに、本論文ではこれらより、在宅障害老人の移動能力、行動範囲、生活行動の活動性を的確に把握し、各生活像に応じた支援のあり方について、提言している。よって、本論文は、寝たきり予防を目指した地域ケアプログラム開発の際に、基礎資料となる有用性をも兼ね備えており、学位の授与に値するものであると認められる。 |