本研究は新規増殖抑制遺伝子群であるTobファミリーの機能を明らかにするために、tob遺伝子欠損マウスの作製と解析、及びtob関連遺伝子ANAの同定と機能解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.ヒトtob cDNAをプローブとして、マウスのゲノムライブラリーをスクリーニングし、マウスtobのゲノム領域を得た。次に、そのゲノム領域を用いて、ターゲティングベクターを作製し、tob遺伝子欠損マウスを作製した。tob遺伝子欠損マウスは、見かけ上は正常であったが、生後30週齢において、骨量が増加していることが示された。 2.骨組織における、tob mRNAの発現をin situ hybridizationによって調べた結果、tobは胎生18.5日の骨組織において、骨芽細胞、破骨細胞などが、存在する中央部分にのみ発現していることが示された。さらに、Northern blot解析により、tobは破骨細胞には発現していないが、骨芽細胞には発現していることが示された。 3.骨芽細胞でのTobの機能を明らかにするために、骨髄細胞を培養し、アルカリホスファターゼ陽性細胞を観察したところ、tob遺伝子欠損マウスではアルカリホスファターゼ陽性細胞のコロニー数の増加が認められ、骨髄中の骨芽系細胞が増加している可能性が示された。さらに、骨髄細胞を培養し、破骨細胞の分化を検討したところ、tob遺伝子欠損マウス由来の骨髄細胞培養において、骨吸収因子によって誘導される酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)陽性細胞数が増加していることが示された。 4.骨量の増加の機序を明らかにするために、カルセインによおる二重標識を行い、骨形成の進行状態を観察した結果、tob遺伝子欠損マウスにおいて骨形成速度が上昇していることが示された。また、骨吸収面、破骨細胞面において有意差はなかったが骨芽細胞面はtob欠損マウスにおいて有意な増加が認められた。さらに、in vitroでの実験と同様に、骨芽細胞数を示す骨芽細胞面においても、有意な増加が認められた。 5.Tobファミリーをさらに理解するために、新規のtob関連遺伝子をRT-PCR法を用いて探索した結果、新規のtob関連遺伝子、ANAを同定した。ヒト組織において、ANA mRNAは精巣、卵巣、肺などで、高く発現していることを示した。 6.ANAが、Tob、BTG1、PC3/TIS21/BTG2と同様に、NIH3T3細胞に強制発現させると、細胞増殖を抑制するかどうかを、マイクロインジェクションの実験系を用いて検討した結果、ANAは細胞周期のG1期からS期への進行を阻害し、ANAも増殖抑制遺伝子であることが示された。また、ANAはヒト染色体上において、21q11.2-q21.2にマップされた。この領域は肺癌などで、しばしば欠損がみられるため、それらの癌へのANAの関与も示された。 7.マウス胎生期におけるANA mRNAの発現をNorthern blotを用いて解析したところ、ANAは胎生12.5日の脳で発現が高く、胎生14.5日になると発現が減少することが示された。さらに、ANA mRNAの発現を詳細に解析するため、in situ hybridizationを行ったところ、ANAは胎生10.5〜14.0日では、脳及び脊髄において、神経前駆細胞の存在するventicular zoneで高く発現することが示され 以上、本研究はtob遺伝子欠損マウスにおいて、骨芽細胞の増加に伴い、骨量が増加することを明らかにした。さらに、新規のtob関連遺伝子、ANAを同定し、ANAが細胞周期のG1期からS期への進行を阻害することを示した。本論文はこれまで未知に等しかった、Tobファミリーの増殖抑制の解明に重要な貢献をなすものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 |