学位論文要旨



No 114586
著者(漢字) パトリック,ウンターラーシナー
著者(英字)
著者(カナ) パトリック,ウンターラーシナー
標題(和) 医薬品回転資金制度地域と非地域におけるグラスルートレベルでの医薬品管理・供給状況の違い
標題(洋) The Difference of Drug Management and Supply at Grassroots Level between a Revolving Drug Fund and a Non-Revolving Drug Fund Area
報告番号 114586
報告番号 甲14586
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第1506号
研究科 医学系研究科
専攻 国際保健学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 ソムアッツ,ウォンコムトオン
 東京大学 教授 小林,康毅
 東京大学 助教授 村嶋,幸代
 東京大学 助教授 福岡,秀興
 東京大学 講師 福原,俊一
内容要旨 I.序論

 1986年以降ヴェトナムでは、国民、主に貧困地域に居住する人々の経済状態の回復を試みる目的で、経済改革が行われてきた。Doi Moi政策と呼ばれるこの自由市場政策はまた、公的保健医療施設の再活性化と、保健医療サービスの質と量の水準を上げることをねらいとした。1990年より開始された医薬品回転資金(Revolving Drug Fund以下、RDFと記す)の実施により、ヴェトナムの地域公的保健医療サービスの活性化が可能となった。このRDFの機構は、必須医薬品を安価に入手しやすくし、そのことが地域の人々に利益をもたらし、この機構により公的保健医療機関の利用率が上がり、地域の保健状態の向上に貢献につながるという構想のもとに考えだされたものである。しかしながら、このRDFの機構をより効率的に推進するためには、効果的かつ効率的な医薬品供給、更にはコミューンヘルスセンターにおける管理・運営システムと地域における回転資金の運用との連携が必須である。

II.目的

 RDFの実施により、コミューンヘルスセンターにおける必須医薬品の供給とその管理が向上したことが指摘されている。また、ヘルスセンターレベルでは、医薬品による利益の向上や運用コストの合理化をはかるために、医薬品の効率的な供給とその管理が必要となる。そのため、本研究では、RDF実施地域と、非実施地域の両方において、コミューンレベルでの医薬品の供給状況とその管理状態を調査し、そこに如何なる違いがあるのかを探ることを目的とした。

III.対象と方法

 本研究のための調査は、1998年2月に横断的研究(cross-sectional study)の形で実施した。対象地域は、RDF実施地域としてVinh Phuc省、Me Linh郡の全24コミューンより13コミューンを、RDF非実施地域としてHung Yen省Chau Giang郡の全39コミューンより12コミューンをそれぞれ無作為抽出した。RDF実施地域のMe Linh郡では、医薬品供給やその管理において、物質の援助や研修などの支援があり、非実施地域のChau Giang郡には、それらの支援はされていなかった。

 データは、インタビュー方法による質問票調査により収集した。質問票では、医薬品の在庫状況、ヘルスセンターのスタッフ構成や実施されている研修などヘルスセンターの一般的業務を問うた。また、同時に必須医薬品リストの有無やその利用状況、医薬品仕入れ方法などの内容も質問した。このインタビューは、コミューンヘルスセンターの医薬品在庫管理担当者に対し行った。

 得られたデータは、カイニ乗検定、t検定により解析した。

IV.結果と考察

 収集したデータ解析の結果により、RDF非実施地域に比べて実施地域は、医薬品の供給とその管理にかなり重点がおかれていることが明らかになった。また、医薬品管理に関する研修は大いに意義のあることが証明された。保健医療スタッフの数は、RDF実施地域においてほぼ2倍であった。加えて、在庫されている医薬品の種類もRDF実施地域では2倍近くであり、その医薬品の管理は、郡とコミューン間で定期的に行われるRDF会議への報告などを通して監督されていた。これらのことが、住民の公的保健医療施設の利用と、よりよい保健医療サービスの提供に貢献しているといえる。

 RDFの実施は3つの自立した側面、すなわち経済、制度、そして技術の発展を支援するものである。そしてこの3つがRDF実施地域における罹患率と死亡率の減少に著明に寄与している。

 RDFの機構においては、基本的に医薬品供給は公的機関によって行われる。このために、必須医薬品は、安価で、入手しやすいものになっている。しかしながらRDF実施地域において、販売利益により医薬品を購入し、供給するというシステムはさらなる改善を必要とする。例えば、医薬品消費記録の確保はRDF実施地域の方が、非実施地域に比べてはるかになされているのではあるが、これらの記録は次の医薬品購入の過程には使用されていない。それに加えて、公的保健医療施設への医薬品供給において、その安全性、持続性、低価格を保証するパイプラインが正式に確立されていない。RDFの機構は医薬品を入手しやすくし、医薬品管理のモニタリングも改善させているが、本来この機構が医薬品供給を行うには、コミュニティー参加による基金によってなされるべきものである。新たなる挑戦として、コミューンヘルスセンターにおける、医薬品供給の流通経路を発展させ、安価で良質の医薬品の供給を保証するパイプラインを設立する必要があると思われる。

審査要旨

 本研究では、ベトナムにおける医薬品回転資金(RDF)実施地域と非実施地域の両方において、コミューンレベルでの医薬品の供給状況とその管理状態を調査し、そこに如何なる違いがあるのかを探ることを目的とした。その結果、下記の結果を得た。

 収集したデータ解析の結果により、RDF非実施地域に比べて実施地域は、医薬品の供給とその管理にかなり重点がおかれていることが明らかになった。また、医薬品管理に関する研修は大いに意義のあることが証明された。保健医療スタッフの数は、RDF実施地域においてほぼ2倍であった。加えて、在庫されている医薬品の種類もRDF実施地域では2倍近くであり、その医薬品の管理は、郡とコミューン間で定期的に行われるRDF会議への報告などを通して監督されていた。以上のことが、住民の公的保健医療施設の利用と、よりよい保健医療サービスの提供に貢献していることが示唆された。

 RDFの実施は、3つの自立した側面、すなわち経済、制度、そして技術の発展を支援しており、RDF実施地域における罹患率と死亡率の低下に大きく寄与していた。

 RDF実施地域では、基本的に医薬品供給は公的機関によって行われていた。このため、必須医薬品は安価で、入手しやすいものになっていた。しかし、販売利益により医薬品を購入し、供給するというシステムはさらなる改善を必要とすることが明らかになった。医薬品消費記録はRDF実施地域の方が、非実施地域に比べてよく保存されているが、これらの記録は次の医薬品購入の際に用いられていなかった。それに加えて、公的保健医療施設への医薬品供給では、その安全性、持続性、低価格を保証する系路が正式に確立されていないなどの問題点も、本研究の結果から明らかになった。RDFは医薬品の入手を容易にし、かつ医薬品管理のモニタリングも向上させていた。この機構が医薬品供給を行うために有効に機能するためには、住民参加を基盤とする基金によって運営される必要性がある。

 以上、本論文の結果から、RDF実施地域では非実施地域に比較して、医薬品の供給と管理システムについて重点が置かれていたことが統計学的に明らかになった。また、本研究では医薬品の管理がRDF実施地域では非実施地域よりも良好であることも明らかになった。医薬品の供給を改善するためには、今後有効な情報収集に基づき、薬剤の供給管理を改善する必要性が示唆された。本研究は、これまで報告例がなかったベトナムRDFの医薬品供給と管理システムへの効果の解明について重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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