わが国では、保健福祉サービスの評価はこれまで十分に実施されておらず、その評価指標については発展途上である。本研究は、高齢者に対する保健福祉支援の結果の評価に活用可能な指標の作成につき検討したものである。異なる支援によりもたらされた結果を比較するためには、結果として得られた状態を表わす一次元のスケールが必要となる。多様な側面をもつ状態を、一定の基準に基づいて重み付けすることにより、一次元のスケールで評価することが可能となる。本研究は、重み付けするための基準として予測生存確率を用い、予測生存確率の計算、及び計算された予測生存確率の重み付けとしての妥当性を検証しており、以下の結果が得られている。 1.身体的要因、及び心理社会的要因を評価し、予測生存確率を計算するためのスケール(Scale for Predicted Survival Probability:SPSP)を作成した。このスケールは移動能力、身の周りの管理、社会関連性、視聴覚、及び身体症状を組み合わせ11カテゴリーとなった。既存研究では、身体的要因と心理社会的要因は相互に関連していること、及び高齢になるほど個人差が拡大することが指摘されているが、作成されたスケールは、高齢者と高齢者をとりまく環境の相互関連を、予測生存確率の計算に反映できるよう工夫された点に特徴がある。また、重み付けの基準を生存(死亡)に設定し、客観的であることから受容されやすい可能性があることがあげられた。 2.作成されたスケールの、最も死亡率の低いカテゴリーを基準とし、年齢及び性別を同時に投入したロジスティック回帰分析により生存との関連をみると、7カテゴリーの係数が5%水準以下、その他のカテゴリーも15%水準以下であり、作成されたスケールが生存と関連することを示した。 3.作成されたスケールのカテゴリー、年齢、及び性別を説明変数、生存を目的変数としたロジスティック回帰モデルは、Hosmer-Lemeshow検定によるp値が十分に高く、予測値と観測値との適合性が確認された。さらに、移動能力、身の周りの管理、社会関連性、視聴覚、及び身体症状を単独、または2変数及びその交互作用を説明変数とした全てのモデルと比較すると、作成したスケールのカテゴリーによるモデルのHosmer-Lemeshow検定によるp値が最も高くなっており、スケールのカテゴリーを用いて予測生存確率を計算する有効性が示された。 4.スケールのカテゴリー、年齢、及び性別で構成されたロジスティック回帰モデルにより計算された予測生存確率の値と、外的基準となる医療費との相関分析から、重み付けの値としての妥当性を検討した。その結果、有意な相関係数が得られ、重み付けするための値として活用する妥当性が示された。 以上、本論文は、異なる支援の結果を比較するための重み付けの値として、予測生存確率を活用するため、高齢者の状態を評価するスケール、及び予測生存確率を計算する統計モデルを開発した。統計モデルは高い適合性を示し、計算された予測生存確率は外的基準との関連から妥当性が確認された。本研究は、保健福祉支援の評価に、異なる支援の結果の比較を可能とする一元化された評価指標の導入を提言したものである。本研究の結果は、今後一層必要性が増すと予測される、保健福祉支援における評価において重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |