韓国では、子どもの発達と環境との相互作用に関する研究は1980年代から進められてきたものの、乳幼児を対象とする研究は海外の評価法を韓国語に紹介・翻訳した段階に止まっている。本研究では、子どもの初期の発達段階に焦点を当て、保健福祉実践の場で利用可能性を勘案しつつ、韓国版育児環境評価スケール(Assessment of Child Care Environments Scale、ACCE)を開発し、スケールの信頼性と妥当性を検討することを目的とするものであり、下記の結果を得ている。 1.ACCEの開発は3段階に分けて行なった。第1段階として、先行研究や関連文献から1次試案作成(120項目)後、専門職と育児者の意見を反映し項目選定を行ない60項目に絞り込んだ。第2段階として子ども(18か月〜36か月)及び育児者96組を対象とし予備調査を行い、主成分分析による因子分析の結果から40項目を抽出した。第3段階として、まず、利用可能性を考慮して意味が重複している考えられる2項目を除いた。次に、第2次調査で通過率が80%以上の8項目と30%以下の3項目の合計13項目、さらに、ITC(corrected item-total correlation)値が0.3以下の4項目を除いた。さらに、これらの21項目について主成分分析法による因子分析を行った結果、第1因子の負荷量が高いスコアを表したため、第1因子負荷量が0.3に満たない3項目を削除した。この結果により合計18項目をACCEの項目として採用した。 2.ACCEの内容的妥当性の検討のため主成分分析による因子分析(斜交回転)を行った結果、固有値の大きさは第1因子から順に4.47、1.63、1.27、1.10となり、この尺度は多因子構造であることが明らかになった。この結果からACCEの内容的妥当性が認められた。なお、4つの因子は発達に配慮したかかわり、認知的・社会的かかわり、物的かかわり、環境整備と命名した。 3.ACCEの基準関連妥当性を検討するため行った、ACCE、HOME(Home Observation for Measurement of the Environment)、NCAST(Nursing Child Assessment Teaching Scale)、KDQ(Korea Denver Questionnaire)の相関係数は、0.77、0.73、0.36であり、それぞれとの間に有意な関連性が示された。また、父親の学歴、母親の学歴、性別の3変数の影響をコントロールし、偏相関係数を求めた結果、ACCEとHOME、NCAST、KDQの合計得点との間に統計的に有意な正の相関がみられた。また、ACCEの各領域とHOME、NCASTの各領域の関連性を検討した結果、類似領域において有意な相関がみられた。さらに、母親や父親の学歴とACCEの各領域及び総得点との間にも有意は関連が認められた。これらの結果は、先行研究の結果と一致してものでおり、ACCEが家庭内での働きかけを中心とした育児環境を反映していることが示唆された。 4.ACCEの構造概念妥当性を検討するために確認的因子分析を行った。モデルの適合度の指標には、2値、goodness-of-fit-index(GFI)、AGFI(adjusted goodness-of-fit-index)、及びRMR(root mean square residual),RMSEA(root mean square error of approximation)を用いた。その結果、2値は208.305、GFIは0.932、AGFIは0.899,RMRは0.010,RMSEAは0.48となり、4つの因子構造を仮定したモデルの適合性が認められた。 5.ACCEの信頼性を検討するためにCronbachの係数を用いて信頼性を求めた。その結果、各々の因子別発達に配慮したかかわりが0.68、物的かかわりが0.65、認知的・社会的かかわりが0.71、環境整備が0.76となり、さらに、ACCE項目全体のCronbachの係数も0.82と高い値であったことから信頼性が認められた。 以上、韓国における育児環境評価スケール(ACCE Scale)に関する研究において、スケールの内容、基準関連、構成概念妥当性及び信頼性が確認された。本研究は、乳幼児の発達と育児環境との相互作用に着目した研究が数少ない韓国において、信頼性が高く、保健福祉実践の場において容易に活用できるACCE Scaleを開発したことは、この分野の研究の進展に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと判断される。 |