学位論文要旨



No 114635
著者(漢字) 周,小方
著者(英字)
著者(カナ) シュウ,シャオフワン
標題(和) Morrey空間における半線型熱方程式の定常解の安定性について
標題(洋) The Stability of Small Stationary Solutions in Morrey Spaces of the Semilinear Heat Equations
報告番号 114635
報告番号 甲14635
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第114号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 片岡,清臣
 東京大学 教授 俣野,博
 東京大学 教授 谷島,賢二
 東京大学 教授 中村,周
 東京大学 助教授 堤,誉志雄
 一橋大学 助教授 山崎,昌男
内容要旨

 この論文では、Rn(n3)で外力f(x)をもつ次のような半線型熱方程式の初期値問題を考える:

 

 

 ここで、である。

 この方程式に対応する定常問題は次のとおりである:

 

 外力がない場合(f(x)≡0)の方程式(0.1)については、Fujita[5]が、かつが十分小さいという条件のもとで、この初期値問題が時間大域的な強解をもつことを最初に証明した。また、彼は同時にという条件が、非負の自明でない初期値に対する時間大域的な強解の存在に必要であることも証明した(Haraux and Weissler[9],Hayakawa[10],Kobayashi,Sirao and Tanaka[13]参照)。また、Weissler[24]は(p=n(-1)/2>1)が十分小さいとき、解の大域的な存在を証明した。

 一方、初期値を測度とする初期値問題の研究もある。BrezisとFriedman[4]は初期値(x)に対する時間局所的な解の存在には、という条件が必要かつ十分であることを証明した。BarasとPierre[1]は、初期値がRadon測度の場合のさまざまな研究をした。Niwa[18]は、初期値を与える測度空間がMorrey型であるような初期値問題について、局所的なwell-posednessや大域的なwell-posednessの十分条件を得た。KozonoとYamazaki[15]は、Besov型のMorrey空間で初期値に対する時間局所的及び時間大域的な解を得た。この解は外力f(x)≡0の場合の方程式(0.1)-(0.2)の定常解0に対する安定性と考えることができる。彼ら[16]はまた、外力に対する適当な仮定のもとでNavier-Stokes方程式に対するMorrey空間での小さな定常解の安定性を証明した。初期値を測度とするNavier-Stokes方程式の他の研究については、Giga[7,8],Kato[11,12],Kozono and Ymazaki[14,17],Taylor[22]などがある。以上のような研究に基づいて我々は、KozonoとYamazaki[15]の問題を一般化して初期値問題(0.1)-(0.2)に対し0でない定常解の安定性を考察した。

 この論文の方針としては、まずBanach逆写像定理を用いて、Morrey空間の元f(x)に対し適当な仮定のもとで(0.3)に対応する定常問題の小さな解の一意存在を証明する。次に、半群の方法を用いて、初期値a(x)が定常解に十分近いとき、初期値問題(0.1)-(0.2)の時間大域的な一意可解性を証明する。そのあと、いろいろなMorrey空間での小さな定常解の安定性を調べた。。

 結果は大きく二つの部分に分かれる。

 1.The Stability of Small Stationary Solutions in Morrey Spaces of the Semilinear Heat Equations.

 2.Semilinear Heat Equations with distributions in Morrey Spaces as initial data.

 まず、第一部では、3,∈Zであるような初期値問題を考える。即ち、次のような半線型熱方程式の初期値問題を考える:

 

 

 この方程式に対応する定常問題は次のとおりである:

 

 主な結果は次の定理である。

 Theorem 1.3,∈Z,q0p0=n(-1)/2を仮定する。

 このとき、正数0(0)=0をみたす[0,0]上の連続な狭義単調増加関数()が存在し、次を満たす。

 (1)任意のf(x)∈D’に対し、の中で(0.6)の解(x)は高々1つしかない。

 (2)を満たす任意のに対して、(0.6)の解が存在し、()を満たす。

 Theorem 2.,p0,q0はTheorem1と同じとし、p0<p<p0/2,q0<qpq0/p0,<0<とする。このとき、正数1(0),0とM0を選んで、次を満たすようにできる。

 を満たす任意のとTheorem1(2)で得られた(2)の解(x)及びに対して、(0.4)-(0.5)の時間大域的な解(t,x)が存在し、

 

 

 さらに、初期条件(0.5)は次の意味で成立する:

 を満たす任意のsと任意のT’>0に対して、

 

 Theorem 3.Theorem2と同じ仮定とする。

 任意の0<T∞に対して、T’∈(0,T)に対する(0.7)、(0.8)と(t,・)-→0inを満たす(0,T)×Rn上の(0.4)-(0.5)のいかなる解も、Theorem2の大域的な解の(0,T)×Rn上の制限でなければならない。

 Remark 1.この結果は、Theorem2の時間大域的な解の一意性を示す。

 Theorem 4.Theorem2と同じ仮定とする。

 を満たす任意のに対して、を満たす[0,0]上の連続な狭義単調増加関数が存在して、次を満たす。

 

 Remark 2.p0,q0,p,qがTheorem2と同じならば、Lemma2.4とLemma2.1は包含関係を意味する。よって、Theorem4でとし、という結果を用いれば、評価(0.10)は、の位相で、定常解のLyapunov安定性を意味する。(0.10)の他の評価は、さまざまな位相での漸近安定性を示す。

 次に、第二部では、第一部の結果を次の2つの場合に分けてより一般的な条件へ拡張する。

 

 

 定理の主張は第一部と同様である。第一部と第二部では、証明に使われる評価が異なるので、それぞれの初期値問題に対する仮定が多少違うことに注意する。

審査要旨

 本論文提出者はMorrey空間における半線形熱方程式の定常解の安定性を研究した。ここで扱ったのは,における次のような半線形熱方程式の初期値問題である。

 114635f36.gif

 ここで,>n/(n-2)なる実数であり,対応する定常問題は次のとおりである.

 114635f37.gif

 歴史的には藤田宏が114635f38.gifかつが小さい初期値a(x)に対し初期値問題の時間大域的な強解の存在を最初に証明した.また彼は同時に時間大域的な強解の存在に条件114635f39.gifが必要であることも証明した.Weisslerはp=n(-1)/2>1のときが小さい初期値a(x)に対し初期値問題の時間大域的な解の存在を証明した.一方,流体力学におけるNavier-Stokes方程式の研究から,ある種のスケール変換の下で不変性をもつ解が重要な意味を持つことがわかってきたがそれらの解はLpなど通常の関数空間に属さないことが多い.したがってNavier-Stokes方程式やこの種の半線形熱方程式に対し,すくなくとも初期値が測度となるような場合も考察することは意義がある.この方向ではまずBrezisとFriedmanが初期値(x)に対する時間局所解の存在を考察し,そのための必要十分条件114635f40.gifを得た.その後,Niwaは初期値がMorrey型の測度である場合に初期値問題の局所的および大域的なwell-posednessのための十分条件を得,KozonoとYamazakiはBesov型のMorrey空間において初期値問題に対する時間局所的及び時間大域的な解を得た.彼らの研究は外力f=0としたときの定常解0の安定性と考えることができる.また彼らはNavier-Stokes方程式に対して外力に対する適当な仮定のもとでMorrey空間の中での小さな定常解の安定性を示している.

 以上のような研究に基づいて本論文提出者はKozonoとYamazakiの安定性理論を半線形熱方程式の場合に考察し0でない定常解のMorrey空間における安定性を研究した.論文はベキ指数の範囲に応じて大きく2つに分かれるが主要定理はそれぞれ4つの並行したものからなる.第1の定理は定常問題の解のMorrey空間における一意性と存在を主張している.第2の定理は第1の定理で保証された定常解のまわりでの初期値問題の時間大域的解の存在,第3の定理は初期値問題の時間局所解の時間大域的解への延長可能性,第4の定理は第2の定理で得られた解と定常解との差の時間大域的なより詳しい評価に関するものである.特に第4の定理はある指数のMorrey空間における定常解のLyapunov安定性や漸近安定性を結論している.第1部ではベキ指数が3以上の整数の場合,第2部では114635f41.gif以上の実数の場合をそれぞれ扱っている.これは非線形項の処理の際の評価が実数の場合と整数の場合でやや異なるものを用いるためで,それに応じて得られた結果のMorrey空間の指数範囲なども異なる.

 証明は,KozonoとYamazakiの手法に従い,定常解の存在については無限次元の陰関数定理による.また初期値問題の時間大域解の一意可解性,及び安定性評価は問題を時間方向での非線形積分方程式に変形した後に線形部分についての作用素半群の評価と非線形項の評価をもとに逐次近似法により時間大域解を直接構成することによる.全体的にKozonoとYamazakiの方法を踏襲してはいるがNavier-Stokesの場合と非線形項の処理法が大きく異なりそのために新たな補題をいくつか用意した.また0でない定常解を考えることに伴う評価上の困難さもある.使われるMorrey空間の指数範囲のベストな決定を含め,本結果はこの分野での新しい結果であり,証明や手法は細部にわたって新しい知見を与えていて今後より一般の場合を解析する際の良き手本となると思われ,高く評価できる.よって,論文提出者周小方は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める.

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