学位論文要旨



No 114638
著者(漢字) 鈴木,幸太郎
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,コウタロウ
標題(和) E6 Turaev-Viro-Ocneanu不変量
標題(洋) E6 Turaev-Viro-Ocneanu invariant
報告番号 114638
報告番号 甲14638
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第117号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 河野,俊丈
 東京大学 教授 松本,幸夫
 東京大学 教授 森田,茂之
 東京大学 教授 坪井,俊
 東京大学 助教授 河東,泰之
内容要旨

 三次元多様体のTuraev-Viro-Ocneanu不変量[O]は、三次元多様体の三角形分割にもとずいて定義されるTuraev-Viro不変量[TV]の一般化である。Turaev-Viro-Ocneanu不変量においては、Turaev-Viro不変量の場合とは異なり、intertwinerの空間の次元は2以上となりうるため、三角形分割の辺だけでなく面へのcoloringを考える必要がある。Turaev-Viro-Ocneanu不変量は、hyperfinite II1-subfactorのAn,D2n,E6,E8 Coxeter graphによる分類理論であらわれるparagroupから得られるquantum 6j-symbolを用いて構成される[EK]。Ak+1Coxeter graphに対応する不変量はSU(2)level kのTuraev-Viro不変量であるが、E6,E8 Coxeter graphに対応する不変量に関しては、具体的な不変量の計算はまだあまりなされていない。

 この論文では、E6 Coxeter graphをprincipal graphに持つE6 subfactorから得られるE6 quantum 6j-symbolによるE6 Turaev-Viro-Ocneanu不変量について調べた。

 三次元多様体のTuraev-Viro-Ocneanu不変量は、以下のように定義される[EK]。閉じた三次元多様体Mの三角形分割Tと、その頂点の順序を固定し、辺には頂点の順序から決まる向きを入れておく。各向き付けられた辺|01|(0<1)に、fusion rule algebra Aの基底{Xi}の元を対応させる。(辺のcoloringという。)

 

 各面|012|(0<1<2)には、その三辺のcoloringにより対応するintertwinerの空間の正規直交基底{si}の元を対応させる。(面のcoloringという。)

 

 各単体には、これらの辺と面のcoloringにより色付けが定まり、これらの色付けられた単体(,,)に対してquantum 6j-symbolと呼ばれる複素数Z(,,)が定まる。さらに、fusion rule algebra Aから正の実数へのhomomorphismであるquantum dimension (Xi)が定まっている。三次元多様体のTuraev-Viro-Ocneanu不変量は以下のように定義される。

 Definition閉じた三次元多様体Mの三角形分割Tに対して、Turaev-Viro-Ocneanu不変量は以下のように定義される。

 

 ここで、=#{vertices of T},i(Xi)2である。

 この値は、quantum 6j-symbolのtetrahedral symmetryにより頂点の順序によらず、quantum 6j-symbolのunitarityとpentagon identityにより三角形分割のPachner move[P]のもとで不変になり、三次元多様体Mの不変量となる。

 次に、E6 subfactor N⊂Mとは、hyperfinite II1-subfactorで、そのbimoduleとしてのrelative tensor productによる乗法規則を表すprincipal graphがE6 Coxetergraphとなるものである。特に、E6 principal graphの3つのeven vertexに対応するbimoduleid,,により生成されるfusion rule algebraを考える。これは次のような乗法規則を持っている。

図表

 これから、intertwinerの空間の次元は2であることがわかる。量子群の表現環の場合と同様にして、このfusion rule algebraからE6 quantum 6j-symbolが得られる。このE6 quantum 6j-symbolは、M.Izumiによりsector theoryを用いてもとめられている[Iz1]。

 このE6 quantum 6j-symbolを用いて、レンズ空間L(p,1)に対してE6 Turaev-Viro-Ocneanu不変量の値は以下のように計算される。

 Propositionレンズ空間L(p,1)のE6 Turaev-Viro-Ocneanu不変量の値は以下で与えられる。

 

 これにより、レンズ空間L(p,1)の不変量Z(L(p,1))は周期12を持つことがわかり、以下のような表を得る。

図表

 この表から、不変量Z(L(p,1))はp=12k+3,12k+4,12k+8,12k+9のときTuraev-Viro不変量の場合とは異なり複素数値をとり、向きの異なるL(p,1)とL(p,p-1)を区別できることがわかる。

 次に、曲面とその三角形分割Kに対して、Hilbert空間V(,K)を以下のように定義する。(K上のcoloringたちが正規直交基底になっている。)

 

 さらに、三次元多様体Mに境界があるときにも、境界上で三角形分割とそのcoloringを固定することにより同様に不変量を定義することができ、それを用いてcobordism(W,0,1)に対して線形写像((W,0,1))が定義される。

 

 Hilbert空間V(,K)をtrivial cobordism(×[0,1],,)による線形写像((×[0,1],,))の核で割ることにより、三角形分割KによらないHilbert空間H()を得る。

 

 線形写像((W,0,1))は線形写像((W,0,1))を誘導する。

 

 そして、つぎが成立する。

 

 これにより、曲面とcobordismの圏から線形空間と線形写像の圏への関手(H(・),(・))が得られる。この関手は、Turaev-Viro-Ocneanu不変量から導かれるTQFTと呼ばれる。

 E6 Turaev-Viro-Ocneanu不変量の場合に、曲面としてtorusT2をとりcobordismとしてmapping cylinderをとることにより、torusT2のmapping class groupの10次元Hilbert空間H(T2)への表現を得る。

 Theorem E6 Turaev-Viro-Ocneanu不変量から導かれるTQFTにより、SL2(Z)の10次元Hilbert空間H(T2)への表現を(具体的に)得る。(Theorem.4.7参照。)また、いくつかの(p,q)に対して、レンズ空間L(p,q)の不変量Z(L(p,q))をもとめることができる。

 さらに、genus gが2以上の曲面gに対してもmapping class group の表現H(g)を考えることができるが、これらの表現の次元は以下のようにもとめることができる。

 Theorem Hilbert空間H(g)の次元は以下で与えられる。

 

 これにより、以下のような表を得る。

図表

 A cknowledgments和久井道久先生には、不変量の計算方法について教えて頂きました。深く感謝いたします。また、泉正己先生、河東泰之先生には、subfactor理論についていろいろ教えて頂きました。深く感謝いたします。最後になりましたが、河野俊丈先生には有用な助言をして頂きました。深く感謝いたします。

References[A]M.F.Atiyah,Topological quantum field theories,Publ.Math.I.H.E.S.68(1989)175-186.[B]J.Birman,Braids,Links and Mapping Class Groups,Princeton Univ.Press.[EK]D.E.Evans,Y.Kawahigashi,Quantum symmetries on operator algebras,Oxford University Press(1998).[Iz1]M.Izumi,Subalgebras of Infinite C*-Algebras with Finite Watatani Indices I:Cuntz Algebras,Commun.Math.Phys.155(1993)157-182.[Iz2]M.Izumi,Subalgebras of Infinite C*-Algebras with Finite Watatani Indices II:Cuntz-Krieger Algebras,Duke Math.Journal Vol.91,No.3(1998)409-461.[Iz3]M.Izumi,The Structure of Sectors Associated with Longo-Rehren Inclusions,preprint.[Iz4]M.Izumi,private communications,.[O]A.Ocneanu,Quantized group, string algebras and Galois theory for algebras,Operator algebras and applications Vol.2(Warwick 1987)(ed.D.E.Evans and M.Takesaki)London Math.Soc.Lecture Note Series Vol.136,119-172(1988).[OS]M.Okamoto,C.Sato,,RIMS Kokyuroku 1053(1998).[P]U.Pachner,P.L.homeomorphic manifolds are equivalent by elementary shellings,Europ.J.Comb.12(1991)129-145.[R]D.Rolfsen,Knots and Links,Publish or Perish Inc..[TV]V.G.Turaev,O.Ya.Viro,State sum invariants of 3-manifolds and quantum 6j-symbols,Topology 31(1992)865-902.[W1]M.Wakui,On Dijkgraaf-Witten invariant for 3-manifolds,Osaka J.Math.29(1992)675-696.[W2]M.Wakui,Fusion Algebras for Orbifold Models(A Survey),Topology,Geometry and Field Theory 225-235,World Scientific Publ.(1994).[W3]M.Wakui,private communications,.
審査要旨

 論文提出者鈴木幸太郎の研究テーマは、作用素環の理論に由来して、定義された3次元多様体の位相不変量に関するものである。これは、Turaev-Viroによって導入された不変量、つまり、3次元多様体の三角形分割を与え、各辺にsl2の表現、4面体にq-6j symbolを与えて、それらの積の状態和によって得られる位相不変量の一連の一般化を与える。作用素環論におけるhyperfinite II1-subfactorのAn,D2n,E6,E8型のCoxeter graphによる分類理論が、Ocneanu,河東,Popa,泉らによって展開された。ここでは、分類がparagroupとよばれる組み合わせ的な対象に帰着されることが本質的である。このparagroupから得られるq-6j symbolを用いて3次元多様体の位相不変量が定義できることが、Ocneanuによって指摘され、Evansと河東によって厳密に位相不変性が証明された。Turaev-Viro不変量との違いは、fusion代数の構造定数が2以上になる場合がある、つまり、一般に重複度をもつため、3次元多様体の三角形分割の辺のみではなく面にも状態を指定する必要がある点である。このように、位相不変量の存在は証明されていたものの、こられの不変量に関する具体的な計算は、Turaev-Viro不変量と一致するAn型の場合を除いて、今までほとんどなされていなかったのが現状である。

 鈴木 幸太郎は、E6型の不変量に関して、泉によって求められたq-6j symbolを用いて具体的な計算の枠組みを与えた。また、境界のある3次元多様体について、対応する位相的場の理論を記述し、とくに、種数1の場合のモジュラー群の表現を決定した。これによって、レンズ空間などを含む多くのクラスの3次元多様体について、E6型の不変量の計算の実行が可能になり、不変量が多様体の向きを識別できる場合があること、レンズ空間の不変量がある種の周期性をもつことなどを証明した。このような組織的な計算は鈴木の仕事により、はじめて、可能になった。さらに、鈴木は、共形場理論におけるVerlinde formulaに対応して、Riemann面に対するquantum Hilbert spaceの次元公式を求め、その種数に関する母関数が、簡単な有理関数で与えられることを証明した。このように、作用素環の理論に由来する3次元多様体の位相不変量に関して、論文提出者は、基礎的で重要な貢献をなした。よって、論文提出者鈴木 幸太郎は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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