本論文の第一部において論文提出者 周 奇 はHilbert空間における発展方程式に対する線形制御系の完全可制御性ならびに安定化可能性を、方程式を記述している作用素のスペクトルによって特徴付けた。この結果は基礎となっているHilbert空間が有限次元の場合に古くから知られているHautusによる条件を一般化したものである。 さらに、第一部で得られた作用素論からの特徴付けを用いて、Schrodinger方程式に対する内部制御による完全可制御性のために制御領域が満たすべき十分条件を幾何的に与えた。 以上述べたことを詳しく述べると以下のようになる。無限次元線型制御システム: を考察した。ここでYとUは可分な複素Hibert空間であり,AはYにおいてC0半群を生成し,BはUで定義されたYへの有界線形作用素であるとする。もしYからUへの有界線形作用素Kがあって、A-BKがt→∞のとき指数関数のオーダで減衰するC0半群を生成するならば、システム(A,B)は指数的安定化可能であるという。もし任意のy0,y1∈Yに対して、u(・)∈L2(0,t0;U)が存在して,(A,B)のmild solution y(・;u)がy(0;u)=y0およびy(t0;u)=y1を満たすならば、システム(A,B)は[0,t0]において完全可制御という。さらに、あるt0>0に対して、[0,t0]においてシステム(A,B)が完全可制御ならば、システム(A,B)は完全可制御という。以下Iは恒等作用素とする。 まず、指数的安定化可能性の必要十分条件を有限次元空間におけるHautusによるfrequency domain条件と類似の条件で与えた: 定理 1 AがC0半群を生成するならば、システム(A,B)が指数的安定化可能であることの必要十分条件はある>0が存在して、 となることである。さらに、とすれば、システム(A,B)が指数的安定化可能であることの必要十分条件はある>0が存在して、 となることである。 次に、時間可逆なシステムにおいて、完全可制御性の特徴付けを行った: 定理 2 AがC0群を生成するならば、システム(A,B)0が完全可制御であることの必要十分条件はある>0が存在して となることである。 さらに、エネルギー保存系に対して以下の結果を得た。 定理 3 A*=-Aなら、以下の条件は同等である。 (a)システム(A,B)は完全可制御である. (b)システム(A,B)は指数的安定化可能である. (c)ある>0が存在して、 (d)ある’>0が存在して、 次に部分領域に限定された制御項を持つSchrodinger方程式を考えた: はN次元空間の有界領域で境界∂は十分滑らかとし、Gはの部分領域、GはGの特性関数、u∈L2(×(0,T))は制御入力関数とする。Tは与えられた時刻とする。さて、完全可制御の問題とは任意に与えられた初期値y0に対して制御uを適当に選んで、y(・,T)=0とできるかどうかを問う問題である。完全可制御性のためには制御領域Gがある程度大きな領域でなくてはならないことはSchrodinger方程式のもつ波動的な性質からも理解されるが、第一部で確立された条件を検証することによって可制御性のためにGが満たすべき具体的な十分条件を与えることができた。この条件は領域に関して本論文で課した正則性よりはるかに強い条件の下での超局所解析の手法による条件に対応している。 本論文はこのように作用素論を駆使して制御理論における基本的な問題である完全可制御性ならびに安定化可能性の意味ある新たな特徴付けを与えており、論文提出者周奇は博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 |