本論文は7章からなり、第1章は、緒言、第2章では、実験装置、第3章では、溶液表面における励起アニリン分子の緩和過程、第4章と第5章では、芳香族化合物-アルコール溶液表面における光誘起反応過程、第6章では、赤外レーザーによる液体の蒸発過程、そして第7章では、まとめが述べられている。 第1章および第2章では、液体表面の様々な特異性について、分子レベルで理解することの重要性に着目し、液体表面を調べる際、反応途中で関与する分子種などを直接観測し、反応を分子レベルで追跡するための手段を提示している。溶液を連続液体流(液体分子線)として真空中に導入し、レーザーイオン化後、質量分析する方法を用いることにより、真空中に放出されるイオンを観測することで溶液表面分子を選択的に観測している。これらをふまえ、本研究では、以下3章から6章へと導いている。 第3章では、液体分子線の性質を代表的な動的挙動の一つである励起分子の緩和過程を通じて調べている。典型例として、溶液表面における励起アニリン分子の緩和過程をポンプ-プローブ法を使い研究している。 次に、第4章と第5章では、溶液表面における化学反応の例として、ナフタレン、およびベンゾトリクロリドのアルコール溶液表面における反応過程を取り上げて調べている。 さらに、第6章では、表面分子の特異性を明らかにするために、溶液内部の分子を表面と同様に分子レベルで直接調べる方法を開発している。具体的には、液体分子線に対して赤外レーザーを照射して溶媒を選択的に蒸発させ、真空中に溶質を孤立化させ、さらに紫外レーザーでイオン化を行い分子やクラスターの放出過程を調べている。その結果、赤外レーザーによる気相中への分子/クラスターの単離においては内部エネルギーの小さいクラスターが生成する過程と、内部エネルギーの大きい分子が生成する過程の2つの過程が起こっていると考えている。 本論文では、この2つの過程のうちどちらを取り出すかによって、クラスターまたは分子の必要な方を選択的に得ることができると結んでいる。生体分子や溶液中のクラスターなど、通常の方法では難しい分子の単離に応用し、その分光を行うことができると期待される。 以上、論文提出者の液体分子線による溶液中および溶液表面分子のレーザー誘起過程に関する研究は非常に独創性の高いものと認められる。なお、本論文第2章は、真船文隆、橋本光夫、松村尚、橋本雄一郎、近藤保、第3章〜5章は、真船文隆、近藤保、第6章は真船文隆、近藤保、河野淳也との共同研究によるものであるが、いずれの場合にも、論文提出者が主体となって実験および解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、審査委員会は、論文提出者堀本訓子に博士(理学)を授与できると認める。 |