構造解析、伝熱解析、流動解析等に代表される工学問題における偏微分方程式の近似解法として、有限要素法(the Finite Element Method:FEM)が広く用いられている。工学シミュレーション分野においては、FEMによる解析プログラムを核とするCAE(Computer Aided Engineering)システムが多数開発され商用化されており、設計現場においてCAD(Computer Aided Design)システムと組み合わせて用いられている。今後、超並列計算機(Massively Parallel Processors)の普及とともに、大規模な数値シミュレーションも並列処理を用いてより高速に実行することが可能となることが予想される。 しかしながら、その一方で、解析対象の大規模化、複雑化にともない、解析データ(有限要素分割データ)を準備するための労力と時間が無視できないものとなってきている。すなわち、現状のFEMをベースとしたCAEシステムにおいて、CADデータからCAEアプリケーションの入力データへ変換するプロセスに多大な労力と時間を必要とすることが、大規模な数値シミュレーションを実施するうえでの深刻な障害となっている。これまで、研究・開発が精力的に行われてきた自動要素分割手法をもってしても、このような問題を完全に回避するに至っていない。 本論文では、上記のような現状のFEMをベースとしたCAEシステム上の問題を回避するために、入力データとして要素・節点コネクティビティ情報を必要としない「メッシュレス解法」について着目して、これを構造解析に適用することを検討している。そして、節点データのみで構造解析が行えるメッシュレス法として「節点単位処理に基づくメッシュレス法」の提案、メッシュレス法に関する解析誤差評価手法の提案、提案したメッシュレス法および誤差評価手法を核としたCAEシステムのプロトタイプの開発、および超並列計算機における大規模高速メッシュレス法計算の実現を行っている。本論文は全体で7つの章から構成されている。 第1章では、研究の背景、従来の研究のレビュー、研究の目的および論文の構成が述べられている。 第2章では、構造解析の分野における代表的なメッシュレス解法であるエレメントフリーガラーキン法(EFGM)を例にとり、節点ベースの内挿手法として用いられている「移動最小二乗法(MLSM)」の適用方法についての検討結果が示されている。 第3章では、節点単位処理に基づくメッシュレス法(the Node-by-Node Meshless Method:NBNM)が提案され、構造解析問題に適用した場合の妥当性について数値的に検討された後、数値解析例が示されている。提案するNBNMに用いられる核となる技法は、(I)MLSMによる内挿関数の作成、(II)節点積分による剛性評価およびその安定化、および(III)節点単位処理による反復解法である。これらのうち、(II)および(III)は、従来のメッシュレス解決に取り入れられてなかった新しい技法である。 第4章ではNBNMにおける事後誤差指標が提案され、その妥当性が数値解析例により検証されている。さらに提案した事後誤差指標を利用したアダプティブ解析手法による数値解析例が示されている。 第5章では、NBNMを解決の核としてパーソナルコンピュータ上に構築されたCAEシステムについて述べられている。開発したシステムでは、CADアプリケーションから出力される中間ファイルを直接利用して、メッシュレス解析データが対話的に作成可能であり、また解析結果を対話的に可視化することができる。 第6章では、NBNMに基づくアプリケーションプログラムのソルバ部分を、領域分割型反復解決に基づき、並列化ライブラリPVMを用いて超並列計算機環境へ実装し、大規模メッシュレス計算を実施し計算時間を測定した結果が示されている。節点分布を複数のプロセッサに割り付けることにより計算プロセスの静的負荷分散を図るためのパーティショニング手法としてバケットを利用した方法が提案され、用いられている。 最後に第7章では、本研究で得られた結論を総括している。 以上を要するに、本論文では、現状のCAEシステムの問題を回避するために入力データとして要素・節点コネクティビティ情報を必要としないメッシュレス解法について着目し、節点単位処理に基づくメッシュレス法と事後誤差評価手法を提案し、これらの手法に基づいたCAEシステムを構築し、ソルバ部分を超並列計算機環境へ実装したうえで、数値計算例によりその有効性を明らかにした研究成果がまとめられており、計算固体力学および計算機援用工学の発展に寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |