核燃料サイクルのシステム分析は、これまでにも多くの技術選択肢、並びに手法を用いて、行われてきた。従来の分析は、主に欧米や日本における典型的な核燃料サイクルを想定して、その技術並びに経済性について、包括的な分析を行うものが多かった。本論文のユニークなところは、以下の3点に要約される。 1。欧来や日本ではなく、韓国における核燃料サイクルについて、できる限り現実のデータや情況を考慮したこと。 2。上記に関連して、韓国が現在検討中である独特の核燃料サイクル概念DUPICサイクル(軽水炉の燃料をCANDU炉にリサイクルする)、米国で開発され導入が検討されている高温冶金再処理/液体金属高速炉サイクル(Pyroprocess/LMR)、それにワンス・スルーサイクルと使用済み燃料貯蔵戦略を総合的に評価していること。 3。従来定量化が難しいとされてきた、核拡散抵抗力の評価について、解体プルトニウムの処分で採用された「使用済み燃料基準」を詳細に分析して、その基本的方法論を検討したこと。 論文は序章を含め、全5章からなっている。 第1章は序章で、韓国における核燃料サイクルを取り巻く現在の状況、韓国内で検討されている核燃料サイクル技術選択肢の概要、使用済み燃料管理の情況などが、簡潔にまとめられている。 第2章は、PWR/LMR燃料サイクルの分析を、取り扱っている。ここでは、特に放射性廃棄物管理と処理の観点から、特にマイナーアクチナイド(MA)の燃焼について、定量的な分析を詳細に行っている。計算コードと燃料特性は(財)電力中央研究所のSLAROMコードを用い、マイナーアクチナイドの燃焼効果を評価している。その結果、韓国におけるPWR/LMR燃料サイクルの定量的な可能性と、廃棄物処理に与える影響が考察されている。 第3章は、DUPIC燃料サイクル(PWRの使用済み燃料をCANDUにリサイクルする方式)の分析である。この燃料サイクルは、現在韓国でしか検討されておらず、こういった詳細な定量的分析は世界でもまれである。ここでは、DUPIC燃料サイクルの中心となるOREOXプロセスの記述に始まり、燃料フロー、廃棄物発生量、核不拡散への影響、経済性、ワンススルーとの比較、といった多様な分野の分析が行われている。さらに最後に実際に韓国に導入した際の影響について、ウラン燃料需要、使用済み燃料発生量、プルトニウム発生量を定量的に分析している。 第4章は、韓国における使用済み燃料管理対策の分析である。2030年までの韓国における原子力開発計画に基づき、使用済み燃料の発生量と貯蔵容量を予測。その管理対策として、発電所サイトのみでの貯蔵、サイト外での貯蔵施設を建設、サイト間で貯蔵を融通、高燃焼度燃料を採用、海外再処理を実施、と言った選択肢を分析し、それぞれについて追加貯蔵容量の必要性を予測している。また、各選択肢の経済性分析も行っている。その結果、サイト間融通が許されれば、追加貯蔵容量の必要性はなく、経済性の面でも優位であることを検証している。 第5章は、今後とも燃料サイクルの評価で重要な要素と考えられる、核拡散抵抗力の定量的評価を、解体核兵器からの余剰プルトニウム処分問題で採用されている「使用済み燃料基準」(Spent Fuel Standards:SFS)に焦点を当てて分析を行っている。解体プルトニウム処分の選択肢として、いわゆるMOXオプション(MOX燃料として原子炉で燃焼)、ガラス固化オプション(高レベル放射性廃棄物と混合してガラス固化)の二つの選択肢について、使用済み燃料基準の定量的分析を行っている。このような分析は、我が国でも始めてであり、特にその中で、原子炉級プルトニウムの核兵器転用可能性について、核物理計算から明確に肯定的な判断を示している点は、興味深い。 以上、本論文は、韓国の核燃料サイクルの将来を考えるうえで、重要と思われる、技術選択肢の総合的な評価を、現実のデータを踏まえながら行った研究として、極めて重要な意味を持つものであり、今後のシステム量子工学、とくに原子力技術と現実社会の関係を考える新しい工学の発展に大きく寄与するものと判断される。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |