学位論文要旨



No 114703
著者(漢字) 飯田,朝子
著者(英字)
著者(カナ) イイダ,アサコ
標題(和) 日本語主要助数詞の意味と用法
標題(洋)
報告番号 114703
報告番号 甲14703
学位授与日 1999.09.13
学位種別 課程博士
学位種類 博士(文学)
学位記番号 博人社第254号
研究科 人文社会系研究科
専攻 基礎文化研究専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 湯川,恭敏
 東京大学 教授 上野,善道
 東京大学 教授 熊本,裕
 東京大学 助教授 林,徹
 東京大学 助教授 菊地,康人
内容要旨

 日本語では、事物を数える際、原則として数詞は単独で現れることはなく、「鉛筆1本」、「猫3匹」、といったように接辞を伴う。このような数詞に直接付く接辞を助数詞1と呼ぶ。助数詞の選定は、数えられる事物と意味的に何らかの動機付けのあるものが適切な助数詞として選ばれ、数詞に直接付与される。本論文は、現代日本語2における主要な助数詞の意味と用法について、インフォーマント調査やデータベースの検索によって、詳しく、かつ網羅的に記述を行い、どのように助数詞の選定が行われるかについて考察したものである。

 構成としては、第1章で助数詞の定義を行い、第2章で形状的特徴に基づく助数詞の意味と用法を、続いて第3章で有生性に基づく助数詞、第4章から第7章までは様々な機能に基づく助数詞の意味と用法を記述する3。更に、第8章では、「ひとつ」等の表現における「つ」が助数詞として機能しているかどうか検証を行う。第9章において現代日本語における主要助数詞の意味体系を明らかにする。

 1 数詞に直接付く助数詞は、調査項目として約360種採取されたが、その中には度量衡単位(「リットル」「ハーセント」等)や、名詞として独立して用いることができるもの(「株」「都道府県」「世帯」等)も含まれており、それらは除いた主要助数詞32種について分析を行った。

 2 本論文でいう"現代日本語"とは、使用したデータベースが1980年から1998年の間のものであるので、この期間、最近18年間における日本語を指す。原則として日語での用例を優先させたが、文語での言語使用も考察の対象とする。文語でのみの使用の場合は、その旨本文中で明記する。

 3 分析の手法として、インフオーマント調査と併せ、新聞記事のデータベース検索を行い、例文や数量的なデータを採取した。筆者自身は1969年東京都三鷹市出身で、自身の言語感覚も参考にした。

 一連の分析の結果から、助数詞選定のプロセスにおける特徴の優先順位は「有生性>性質・機能的特徴>形状的特徴>具体性」であると推測される。

図表

 本論文で扱った日本語主要助数詞は、それぞれに意味的な基盤を持ち、一連の選定プロセスを経て、最も適当なものが数詞に直接付与される。助数詞と数えられる事物の間には意味的な動機付けが必要となり、事物に対して、助数詞項目を増やさずに既存の助数詞からの意味の共通性を取り出すことが可能になる。すなわち、数えられる事物の持つ特徴と、主要助数詞の求める事物の特徴を一致させるという作業を行うことによって、助数詞の付与を生産的に行うことが可能になるのである。助数詞選定のプロセスは、一部の語彙化された助数詞用法を除き、話者が新しい事物に出会い、適当な助数詞を付与して数える際に有効となるものである。

日本語主要助数詞の選定プロセス一覧図
審査要旨

 本論文は、次にあげる日本語の主要助数詞について、それらの意味を詳細に記述したものである。

 本、枚、個、人、匹、頭、羽、台、機、隻、艘、艇、回、度、件、点、例、冊、巻、部、通、発、把、束、面、切れ、片、基、体、軒、戸、棟、つ、裸数詞

 助数詞の研究は過去にもあるが、このように通常用いられるものをほとんどすべて網羅した研究はこれが最初のものである。

 研究の手法としては、1年間の主要新聞の記事や広告、推理小説7篇を主なデータとするとともに、自身を含む母語話者の内省報告およびアンケートによって考察を深めるというものである。

 日本人にとって極めて身近なテーマを扱っているため、個々の記述に多少の異論が提起される可能性はあるが、日本人の言語感覚から見て全体としては納得できる結論が多く、また、はっとさせるような指摘があちこちに見られる。しかも、ハイテク化が加速度的に進行しつつある現在において、助数詞にどういうことがおこりつつあるかを示唆した記述も多く、この分野の研究に新たな観点を導入したといえる。そして何よりも、この研究の基礎をなすデータの膨大さが、本論文の記述に説得力を与えている。個々の論点に関して論証の厳密さの不足、結論の詰めの甘さが指摘されることはあっても、今後の日本語助数詞の研究は本労作を引用することなしには進まないであろうと思われる。

 以上のような評価により、本論文が博士(文学)の学位を授与するに足るものであると結論する。

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