学位論文要旨



No 114709
著者(漢字) 水元,宏典
著者(英字)
著者(カナ) ミズモト,ヒロノリ
標題(和) 倒産法における一般実体法の規制原理 : 未履行双務契約法理と相殺法理を中心に
標題(洋)
報告番号 114709
報告番号 甲14709
学位授与日 1999.09.16
学位種別 課程博士
学位種類 博士(法学)
学位記番号 博法第148号
研究科 法学政治学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 伊藤,眞
 東京大学 教授 高橋,宏志
 東京大学 教授 能見,善久
 東京大学 教授 山下,友信
 東京大学 教授 寺尾,美子
内容要旨

 現行倒産法は,たとえば双務契約法理(破五九条,会更一〇三条),相殺法理(破九八条以下,和五条,会更一六二条以下,商四〇三条,四五六条),担保法理(破九二条以下,一九五条,二〇三条,二〇四条,会更一二三条以下,商三八四条,四四九条,四五六条),あるいは否認法理(破七二条以下,会更七八条以下)などの,いわゆる倒産実体法において,程度の差こそあれ,民商法等の一般実体法を内容的に変更・修整している。

 従来,倒産法において一般実体法がそのように規制される際の諸原理,言い換えれば倒産法が一般実体法を正当に変更できる根拠と限界については,ほとんど研究が行われてこなかった。このため,倒産実体法に関する多くの解釈論・立法論は,定点や指針が定まらないまま展開される傾向にある。

 そこで本稿は,その第一の課題として,倒産法における一般実体法の規制原理について検討を試みた。

 すなわち,まず第一章で,わが国破産法の母法である一八七七年のドイツ破産法に立ち返り,その理由書が検討された。しかし,その理由書が採用した規制原理,すなわち私法的破産請求権論に基づく規制原理,および一般実体法の不統一に由来する各種の規制原理は,示唆に富むものではあったが,その基礎付けが未だ十分ではなかった。

 そこで第二章では,一八七七年のドイツ破産法に取って代わる一九九四年のドイツ新倒産法に焦点を当て,その理由書が検討された。それによると,ドイツ新倒産法は市場適合的な倒産処理の実現を目指しており,倒産法は一般実体法における権利の相互関係を変更してはならないとの消極的規制原理が宣言されていた。そして,この規制原理は,ドイツ新倒産法の創見にかかるものではなく,アメリカ合衆国においてジャクソン教授が提唱した倒産理論をドイツ法的に翻訳したものであることが解明された。

 それを承けて第三章では,このジャクソン理論が検討された。ジャクソンは,倒産法の正当化根拠を債権者の配当的満足の最大化に求め,そのような視座の下,一般実体法における権利の相対的価値は倒産手続上も保障されなければならない,との相対的価値保障原理を主張した。

 このジャクソン理論ないしそれに倣ったドイツ新倒産法を検討するため,第四章では,ジャクソン理論に対するアンチテーゼが検討された。このアンチテーゼによると,倒産法は,配分的な効率だけを追求すべきではなく,経済的破綻によって引き起こされる様々な社会問題にも配慮し,公正な分配の実現のために再分配を積極的に行うべきことになる。このような再分配論の下では,倒産法による一般実体法の変更は,公正な分配の実現のためであれば,正当化された。

 しかし,このような考え方に対しては,いくつかの根本的な疑問を提示することができた。とりわけ第五章におけるジンテーゼの検討は,再分配論の不当性を明らかにした。

 以上までの検討を承けて,第六章では私見が展開され,作業仮説としてはジャクソンの相対的価値保障原理で十分ではなかろうか,との暫定的な結論に達した。

 次に本稿は,第二の課題として,この相対的価値保障原理に照らして現行の倒産実体法の再評価を試みた。

 その結果,相対的価値保障原理からは,第一に双方未履行の双務契約について倒産管財人に解除権を与える規定(破五九条,会更一〇三条),第二に相殺権の拡張をもたらす規定(破九八条以下,和五条),第三に担保権の優先弁済権を一部否定する立法論,第四に総破産債権者の債権者取消権について消滅時効が完成した後も故意否認権の行使を許す解釈論が,それぞれ不当と帰結された。

 しかし,相対的価値保障原理は作業仮説にとどまるため,上記四つの帰結は,相対的価値保障原理とは別の観点から,さらに検討されるべきことになる。これが本稿の第三の課題であり,第七章で倒産管財人の解除権,そして第八章で相殺権の拡張が検討され,担保権および故意否認権については残された課題とされた。

 すなわち,まず第七章で,倒産管財人の解除権について,ドイツ,フランス,そしてアメリカを対象国とした比較法的検討が行われ,相対的価値保障原理とは別の観点から,解除構成の不当性が論証された。そして,結論として,破産法五九条一項・二項および会社更生法一〇三条一項・二項は,次のような趣旨に改正されるべきことが提案された。

 「第一項 双務契約について倒産債務者および相手方が倒産手続開始の当時にまだともにその履行を完了していないときは,倒産管財人は,倒産債務者の債務を履行して,相手方の債務の履行を請求することができる。

 第二項 倒産管財人は,相手方の請求により,契約の履行を請求するか否かを遅滞なく表示しなければならない。倒産管財人は,その表示を怠ったときは,本条に基づいてその履行を求めることができない。」

 続いて第八章では,倒産法における相殺権の拡張について,ドイツ,フランス,そしてアメリカを対象国とした比較法的検討が行われ,相対的価値保障原理とは別の観点から,その不当性が論証された。そして,結論として,破産法九八条以下の相殺権の拡張にかかる規定は,次のような趣旨に改正され,和議法五条もそれを準用すべきことが提案された。

 「一項 破産債権者が破産宣告の当時において,破産者に対して同種の債務を負担していないときは,相殺はこれを行うことができない。第二二条はこれを適用しない。

 第二項 破産宣告の当時において相殺されるべき債権の双方または一方が停止条件付き,期限付きまたは将来債権のときは,相殺は,相殺適状の完成後に,これを行うことができる。第一七条および第二三条の規定はこれを適用しない。」

 以上が本論文の要約である。

審査要旨

 本論文「倒産法における一般実体法の規制原理-未履行双務契約の法理と相殺法理を中心として」は、各論の中で検討対象として取り上げられている双方未履行双務契約(以下、未履行双務契約)および相殺権をはじめとして、各種の実体的法律関係が破産法などの倒産処理手続法によって規律ないし変容されることについて(破産実体法または倒産実体法と呼ばれる)、それを正当化する根拠を探り、その根拠を明らかにすることによって倒産実体法の合理的限界を解釈論および立法論の双方から検討しようとするものである。本論文の研究方法上の特徴は、以下のように整理される。

 第1は、わが国の破産法の母法であるドイツ破産法(1877年法)の制定過程に遡り、その中における破産実体法の基礎理論であった私法的破産請求権論を分析し、これが破産実体法の出発点となっていることを明らかにしている点である。すなわち、債務者が支払不能に陥ることによって債権者が取得する破産請求権は、債務者の責任財産から集団的な満足を求める権利であり、破産実本法による一般実体法の修正および変更は、この破産請求権にその根拠が求められるとされる。

 第2は、1877年法に代わるドイツ新倒産法(1994年法)の制定過程を分析し、倒産実体法の原理として、一般実体法に対する修正および変更を最小限にとどめるべきであるとの市場適合性理論(アメリカのジャクソン理論)の影響が色濃く現れていることを指摘し、さらに、ジャクソン理論そのものに関するアメリカにおける議論について、積極的評価および消極的評価をほぼ網羅的に検討している点である。

 第3は、著者が基本的にジャクソン理論に対して積極的評価を与えることを前提として、各論の対象とされる未履行双務契約および相殺権の拡張などについて、あるべき解釈論および立法論が具体的に展開されていることである。

 第4は、以上の基礎理論からする倒産実体法の検討と並行して、対象とされた上記未履行双務契約などの問題について、ドイツ法、フランス法、およびアメリカ法に関する比較法的研究が展開され、その成果と、基礎理論にもとづく検討結果とを併せて、解釈論および立法論についての結論が示されていることである。

 本論文は、序章と終章を含む10章からなるが、第1章「私法的破産請求権論」は、上記の第1に、第2章「市場適合的倒産理論」、第3章「ジャクソン理論」、第4章「再分配論」、および第5章「止揚論」は、上記の第2に、第6章「私見」は、上記の第3以下に、第7章「倒産管財人の解除論」および第8章「相殺権の拡張」は、上記の第4の特徴にそれぞれ対応している。

 まず、第1章では、序章における問題状況の整理を踏まえて、1877年のドイツ破産法について、その草案理由書を主たる素材として、破産実体法の基礎理論である債権者の破産請求権論を分析する。著者の分析によれば、破産請求権の内容は、一般実体法の原理を尊重することを前提としつつも、債権者が集団的満足を求めるために、一方で破産宣告時における財産を破産財団として破産者の管理処分権から隔離し、他方で否認や相殺制限などの手段によって公平な集団的満足を妨げる行為の効果を覆すことを認めるものであり、これが破産実体法の基礎にある考え方であると指摘される。もつとも、破産法制定の時点では、ドイツ民法典がいまだ制定されていなかったために、統一的な一般実体法が存在せず、そのために担保権の取扱いにみられるように、破産実体法が一般実体法自体を統一するという役割も期待され、そのための規定も設けられているが、これはあくまで統一的一般実体法が存在しなかった事情を反映したものであるとする。

 第2章では、ドイツ新倒産法(1994年公布・1999年施行)の立法過程を分析し、市場適合的な倒産処理を実現することが新倒産法立案の主たる目的とされたことが指摘される。すなわち、破綻企業についてそれを再建するか清算するかは市場原理に委ねられるべきものであり、これを前提とすれば、倒産実体法も合理的範囲を超えて市場原理の基礎である私法秩序に介入すべきものでないとされる。この考え方から、ドイツ新倒産法においては、倒産法固有の優先権の廃止、あるいは担保権の優先弁済権の尊重などの考え方が採用されたとする。

 第3章では、ドイツ新倒産法に理論的影響を与えたジャクソン理論が分析される。ジャクソン理論の下では、倒産処理手続、すなわち集団的・強制的債権回収手続の存在意義は、債務者財産の経済的価値ないし債権者全体の満足の最大化に求められ、そのことが債権者の個別的権利行使を制限することの根拠とされる。著者によれば、いわゆる自動停止の考え方や偏頗行為の否認は、この根拠にもとづくものであるという。他方、その存在意義を前提とするのであれば、一般実体法の下で債権者が有する権利の相対的価値は、倒産処理手続においても保障されねばならず、著者はこれを相対的価値保障原理と呼び、ジャクソン理論の下では、アメリカ破産法における倒産実体法の一部がこの原理と整合していないことが紹介される。

 さらに著者は、第1章において分析した私法的破産請求権論とジャクソン理論は、その考え方において共通するものであり、したがって、倒産実体法のあるべき姿を指し示すものであると結論づける。もつとも著者は、ジャクソン理論を無批判に受容しているわけではなく、第3章の後半および第4章において、リバタリアニズムや功利主義との関係を問題とするカールソンの内在的批判、および倒産を公平な再分配の契機としてとらえるウォーレン、コロブキン、ならびにグロスなどの外在的批判についても、その内容を検討し、それらの批判が必ずしも的をえていないことを述べる。

 第5章では、ジャクソン理論とそれを批判する上記の議論とを止揚しようとする第3の議論、すなわち一方で債権者と債務者などの間の交渉モデルを極限まで押し進め、倒産処理法を任意法規化しようとするラスムッセンの議論、他方で、連邦倒産法の憲法的限界を問題とするプランクの議論、および司法権の限界を問題とするフロストの議論などが紹介され、ジャクソン理論の基本的正当性が揺らぐことがないと主張される。また、本章の後半において著者は、1985年のフランス倒産法、および1994年の一部改正の内容を分析し、企業保護や雇用維持を優先させた1985年法が1994年法によって改正されたことは、市場適合性を軽視した再分配論の失敗、いいかえればジャクソン理論の正当性を証明する例であるとする。

 第6章では、本論文における総論のまとめとして、倒産実体法の基本原理に関する著者の見解が示される。著者は、ジャクソン理論およびそれを具体化した1994年のドイツ新倒産法の考え方を支持し、その理由として、以下の点を上げる。すなわち、ジャクソン理論は、結局のところ、一般実体法における権利の相対的価値を保障すべきであるという、相対的価値保障原理に集約されるが、倒産処理手続に対する債権者の協力を確保し、債権者全体への配分を最大化するためには、相対的価値保障原理が不可欠であるというものである。この考え方にもとづいて、著者は、未履行双務契約について破産管財人に解除権が与えられていること(破産法59条1項)の不当性、相殺権の拡張(同99条、102条2項など)の不当性、担保権目的物の売却代金の一部を破産財団に組み込む考え方の不当性、および債権者取消権に関する消滅時効完成後の故意否認の不当性など、破産法の立法論および解釈論の両面にわたって、自己の見解を展開する。この中で、未履行双務契約および相殺に関しては、さらに第7章および第8章で詳細に論じられる。

 第7章では、破産管財人および更生管財人(以下、倒産管財人)の解除権について検討が加えられる。著者は、まず破産法59条に関する近時の論争を踏まえつつ、一般実体法に存在しない解除権を倒産管財人に付与するという、現在の法制そのものに問題があると指摘する。そして、倒産管財人に解除権を認めず、ただ履行拒絶権のみを与えるドイツ旧破産法および新倒産法、ならびに管財人の権限を契約履行の放棄と構成するフランス倒産法を順次検討し、比較法的にみても倒産管財人に解除権を与えるわが国の法制は異例のものであり、また著者が支持する相対的価値保障原理からみても、一般実体法上存在しない解除権を倒産管財人に付与することは正当化されないから、立法論として解除権を否定すべきであるとする。

 第8章では、各論の最後として相殺権の拡張について検討がなされる。わが国の破産法は、一方で相殺権の制限に関する規定を置くとともに(104条)、他方で、期限未到来または解除条件付の債権を自働債権とする相殺を認め(99条前段)、また、停止条件付債権または将来の請求権を自働債権とする相殺についてその担保的利益を確保する措置を講じ(100条)、さらに金銭債権以外の債権を自働債権とする相殺も認める(102条2項)など、相殺権の拡張と呼ばれる一連の規定を設けているが、著者は、総論で明らかにした相対的価値保障原理に照らして、これらの規定の合理性を再検討する。すなわち、破産法における相殺の要件は、民法505条1項本文に規定される一般原理と比較すると、自働債権・受働債権の弁済期到来および同種性を要求しない点で、相殺適状の要件を緩和し、また、停止条件付自働債権についても将来の相殺権行使を確保する措置を認める点で、行使要件の点でも民法の原則を緩和しているとする。また、受働債権の停止条件が成就する前に相殺権の行使を認める規定も(破産法99前段など)、行使要件の面で民法の原則を緩和するものとする。

 これについて著者は、まずドイツ法について検討し、新倒産法においては、手続開始当時有効に成立していた実体法上の相殺権のみを、行使要件をも緩和することなく、承認するとの考え方がとられていること、フランス法においても、倒産債権の現在化による相殺要件の緩和が否定され、期限未到来債権や条件付債権などを自働債権とする相殺が認められないこと、アメリカ法においても、実体法上成立する相殺権が破産法上承認されるにすぎず、その拡張は否定されていることが紹介される。

 結論として著者は、以上の比較法的検討、および破産法が一般実体法を正当な理由なく変更すべきでないとする、相対的価値保障原理にもとづいて、現行法における相殺権拡張の諸規定が不当であると批判し、まず、破産債権の金銭化(破産法22条)を相殺の自働債権に適用することを止め、破産手続においても債権の同種性が要求されるとし、さらに進んで現在化にも検討を加え、双方の債権の弁済期が到来して相殺適状が発生した場合にのみ、相殺権の行使が認められるとの立法論を展開する。

 以上が本論文の要旨であり、以下はその評価である。

 本論文の長所としては、以下の諸点をあげることができる。第1に、わが国においてほとんど議論されることがなかった破産実体法の基礎理論に著者が大胆に挑戦し、ドイツの破産請求権理論とアメリカのジャクソン理論を基礎として、著者独自の理論を組み立てようとしている点である。破産実体法が、どのような原理にもとづいて未履行双務契約や相殺について一般実体法を修正すべきかに関する先行研究は、わが国においてほとんどみられず、ただ、未履行双務契約などそれぞれの個別問題について、実定法の規定を手がかりにして修正についての正当化根拠が説明されるにとどまっていた。このような状況は、倒産実体法の立法論に関して、従来の立法の合理性を問い直す、大胆な立法論が乏しいことにも現れている。この意味で、本論文は、わが国の破産法学にとって新たな時代の到来を予感させるものである。

 第2に、基礎理論をそれぞれの問題に適用した場合の結論について、ドイツ法、フランス法、あるいはアメリカ法のそれぞれ対応する内容に即して、綿密な比較法的検討が行われていることである。基礎理論から演繹して、解釈論および立法論上の結論を性急に示すことを避け、えられた結論を比較法研究の結果によって検証することによって、本論文の内容が実定法学の論文としてより説得的なものとなっていると評価される。

 第3に、アメリカのジャクソン理論に関する検討に際しては、実定法学者にとって比較的不得手な領域である、リバタリアニズムや功利主義など、その基礎となっている一般法理論にまで立ち入って検討が行われ、このことが本論文の理論研究としての深みを増しているものと評価される。

 第4に、各論で取り上げられている問題のうち、未履行双務契約に関する部分は、近時の論争を踏まえ、かつ、著者の修士論文における研究を発展させたものと思われるが、相殺権の拡張に関する部分は、問題の発掘を含めて、従来ほとんど検討されることのなかった問題について著者の考え方を立法論として展開したものであり、現在進行中の破産法改正に対しても一定の影響力をもつものと予想される。

 もとより、本論文にも短所がないわけではない。第1に、一般実体法の原理を尊重しようとするあまり、一般実体法上認められる権利とそれ以外の利益を図式的に峻別する傾向があり、場合によっては両者の境界線上にある利益などが破産手続上切り捨てられる結果を招くおそれがあると思われる。

 第2に、第1の点と関連するが、一般実体法自体が倒産処理手続を契機として修正され、変化する余地があることは、譲渡担保の例などをみても明らかである。しかし、本論文の立場では、ややもすると一般実体法が所与のものとされ、その発展の可能性が否定されるのではないかとのおそれも感じられる。

 第3に、本論文では、1994年のドイツ新倒産法がジャクソン理論を取り入れたものとされているが、その経緯が十分に明らかにされていない点が惜しまれる。ただし、この点は、わが国において入手しうる資料の限界もあり、今後の研究に期待すべきものと思われる。

 以上のように本論文にも若干の短所はあるものの、これらは先に述べた本論文の価値を大きく損なうほどのものではない。本論文は、破産実体法の基礎理論に関する体系的な研究の嚆矢をなすものであり、各論で取り上げられた個別問題に関する解釈論および立法論に寄与するばかりではなく、破産法理論の研究全体に対しても新鮮な刺激を与えるものと評価することができる。したがって、本論文は博士(法学)の学位を授与するに相応しいものと認められる。

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