学位論文要旨



No 114729
著者(漢字) 得字,圭彦
著者(英字)
著者(カナ) トクジ,ヨシヒコ
標題(和) 新遺伝子導入系を用いた不定胚形成機構の解析
標題(洋) Analysis of the Mechanism of Somatic Embryogenesis Using a Novel Method for Gene Transfer
報告番号 114729
報告番号 甲14729
学位授与日 1999.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第3666号
研究科 理学系研究科
専攻 生物科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 福田,裕穂
 東京大学 教授 黒岩,常祥
 東京大学 教授 長田,敏行
 東京大学 教授 内宮,博文
 東京大学 講師 杉山,宗隆
内容要旨

 近年、シロイヌナズナの突然変異体をもとに、胚のパターン形成に関係する遺伝子が単離され、その解析から胚形成の分子機構の一部が明らかになりつつある。しかし、この方法を用いた胚形成機構の研究には、多くの変異体が胚致死でエッセンシャルな遺伝子の単離が必ずしも容易でないことや、大量の接合子胚の操作を必要とする生理、生化学的解析の難しさ等の問題点もある。このような問題を解決し胚形成機構を多面的に解析するためには、異なるアプローチが求められる。

 ニンジン不定胚形成はin vitroで接合子胚とほぼ同じ過程で進行し、同調的かつ高頻度に胚分化が起こることから、胚形成のもうひとつのすぐれたモデル系と考えられている。この実験系を用いて多くの生理、生化学、分子生物学的な解析がなされ、不定胚形成特異的な遺伝子もいくつか単離されてきている。しかし、効率的な遺伝子導入系がないために、遺伝子の機能解析にまで到っている例は少なかった。本研究では、これまで、その発現パターンからニンジン不定胚形成に重要な働きをしていると予想されていた2つのホメオボックス遺伝子CHB1とCHB2の遺伝子機能に迫ることを目的とした。そのために、まずニンジン直接不定胚形成を利用した迅速かつ簡便な遺伝子導入系を開発した。次にこの系を用いてCHB遺伝子を過剰発現および発現抑制し、胚形成に及ぼす影響を調べた。そしてこれらの結果をもとにCHB1とCHB2の胚形成における役割を考察した。

結果と考察1.迅速かつ簡便な形質転換系の開発

 私は修士課程でニンジンの直接不定胚形成系を確立した。この系では2,4-Dで処理したニンジン胚軸の表皮細胞からカルスを経ないで直接不定胚が形成される。この系は外植片を切り出してから1ヶ月程度という短期間で胚が得られ、2,4-D存在下で細胞を長期間培養しないので、ソマクローナルバリエーションが起こりにくいという利点をもつ。不定胚形成時に発現する遺伝子の機能解析のための第一歩として、私はまずこの直接不定胚形成系を利用することで、迅速かつ簡便なニンジン不定胚への遺伝子導入系の確立を試みた。35Sプロモーターの下流に-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子をつないだ融合遺伝子を、ハイグ-ロマイシン耐性遺伝子とともにアグロバクテリアを介してニンジン胚軸外植片に導入し、不定胚誘導をおこなった。胚軸外植片の2,4-D処理直後にアグロバクテリアを感染させると、形質転換胚はまったく得られなかった。外植片の表皮を走査型電子顕微鏡で観察すると、培養につれて胚軸表面を覆っているクチクラ層が崩壊することがわかった(図1)。そこで胚軸外植片を2,4-Dで処理した後に前培養を行い、その後に感染を行うことによって形質転換胚の形成が可能かどうかを検討した(図2)。その結果、2,4-Dで処理した胚軸切片をホルモンを含まない培地で5日間前培養すると、効率よく形質転換胚を形成することが明らかになった。アグロバクテリアとのインキュベート時間と共培養の期間についても検討し、最終的に胚軸を5日間培養してからアグロバクテリアと2時間インキュベートし、5日間共培養した後に選抜用培地で1ヶ月培養することで効率よく形質転換体が形成されるという実験系を確立した(図3)。X-GlucによりGUS活性を調べたところ、ハイグロマイシン耐性胚では大部分の胚はGUS活性を示し、その活性は植物体でも維持されていた(図4)。

2.胚形成におけるホメオボックス遺伝子CHB1機能の解析A)胚のパターン形成

 胚形成機構を解析する手始めとして、形態形成に関わる転写調節因子であるホメオボックス遺伝子の機能解析を行った。当研究室で単離されたニンジンホメオボックス遺伝子CHBs(CHB1-CHB6)はいずれもホメオドメインに隣接してロイシンジッパーモチーフをコードしているHD-ZIPタイプに属しており、その中のclass Iに属している(図5)。このうちCHB1の発現は図6に示すように、胚形成過程で特徴的なパターンを示すことがわかっている。この遺伝子の胚形成における役割を調べるために、35Sプロモーターの下流にCHB1 cDNAをセンスおよびアンチセンス方向につなぎ(図7)、先に述べた遺伝子導入法によってニンジン不定胚に導入した。ハイグロマイシンで選抜して得られた不定胚をランダムに10個選んでPCRを行ったところ、すべてにCHB1遺伝子が導入されていることがわかった。次に遺伝子導入した不定胚の形態を調べたところ、センス鎖を導入したものでは80%で子葉が融合して大きくなるか、あるいは子葉状の構造が多数形成されるという変異が見られた(表1、図8B,C,E,F)。走査型顕微鏡で子葉状の構造の表面を観察したところ、構造物の上にはトリコームが形成しておらず(図8H,I)、また、この構造物の間に茎頂様の構造が形成されていることから(図8N)、この構造物が子葉であると考えられた。また、この結果から子葉のみがectopicに形成されるのではなく、子葉を含む胚上部器官がectopicに形成されることがわかった。次に、CHB1のセンス鎖を導入した形質転換体でCHB1遺伝子の過剰発現が見られるかどうかをin situ hybridizationで調べた。その結果、多子葉が形成されている領域には本来は見られないCHB1 mRNAの発現がおこっていた(図8L,M,N)。一方、アンチセンス鎖を導入したものでは子葉と茎頂を含む胚の上部器官の発達が抑制されることがわかった(図9)。以上の結果と胚形成初期にCHB1 mRNAは胚上部に局在するという観察から、CHB1は不定胚形成において子葉と茎頂分裂組織を含む胚の上部器官の形成を制御していると予想された。

B)不定胚誘導

 CHB1は不定胚の発達過程で組織特異的な発現が見られるが、それ以前のエンブリオジェニックカルスでも一部の細胞にだけ発現する事がわかっている(図6)。このことからCHB1は体細胞から胚形成が起こる誘導過程にも働くのではないかと考えた。そこで、アンチセンスCHB1をもつ幼植物体の胚軸外植片を再び2,4-D処理することによって二次不定胚を誘導し、不定胚誘導過程におけるCHB1抑制の影響を解析した。その結果、胚上部器官の発達が抑制され、魚雷型胚で発生が停止するものが約25%あった(図10)。加えて胚形成そのものの顕著な抑制がおこり、本来は見られない表皮からのカルス形成が高頻度に観察された(図10)。これらの結果と、2,4-D処理によってCHB1の発現が上昇するという事実、及びエンブリオジェニックな細胞塊のうち、一部の細胞質に富んだ細胞にだけCHB1 mRNAが局在するという事実と考え合わせて、CHB1は体細胞からの胚形成の誘導過程に関与すると考えられた。

3.胚のパターン形成におけるCHB2の機能の解析

 CHB2はノーザン解析の結果、子葉や根の原基が形成される心臓型胚のステージで一過的に発現が上昇することがわかっている。そこでin situ hybridizationを行い不定胚形成の各時期でのCHB2 mRNAの局在を調べた。その結果、CHB2 mRNAは、心臓型胚では子葉原基に(図11A)、魚雷型胚では雄管束が形成される部位に局在することがわかった(図11B-D)。幼植物体の子葉や茎頂でもやはり維管束領域にCHB2 mRNAの局在が見られた。CHB2に関しても図12のコンストラクトを用いて、センスおよびアンチセンスDNAを導入し、得られた形質転換体の解析を行った。センス鎖を導入した形質転換体では顕著な変異を示さなかった。一方、アンチセンス鎖を導入した形質転換不定胚から発達した幼植物体では、胚軸の伸長が抑制され、太く短い胚軸の植物体になった。さらに、この幼植物体の胚軸を切り出し、2,4-D処理を行って二次不定胚形成を誘導したところ、ほぼすべての不定胚で球状胚ステージで発達が停止することがことがわかった(図13)。以上の結果より、不定胚形成においてCHB2は心臓型胚の子葉の予定領域に発現し、心臓型胚における子葉原基の盛り上がった構造の形成に働いているのではないかと考えられた。また、魚雷型胚以降では、維管束領域に発現することから、維管束分化への関与が考えられた。

図表図1.ニンジン胚軸外植片SEM像 A.2,4-D処理前の外植片。 B.1mg/l 2,4-Dで48時間処理した後、5日間培養した胚軸外植片。 / 図2.形質転換効率に対する2,4-D処理後の前培養期間の影響 胚軸外植片を1mg/l 2,4-Dで48h処理した後、前培養を行い、5日間の共培養の後にハイグロマイシンを含む選抜用培地で1ヶ月培養したとき、不定胚を形成した外植片の割合を示す。横軸は前培養期間を示す。 / 図3.直接不定胚形成系を用いた迅速な遺伝子導入法 胚軸外植片を1mg/l 2,4-Dで48h処理した後、5日間前培養を行い、アグロバクテリアとの共培養5日間の後に、ハイグロマイシンを含む選抜用培地で1ヶ月培養すると形質転換胚が得られる。 / 図4.イントロンGUS遺伝子を導入したニンジン不定胚と植物体 A.胚軸外植片上に形成されたハイグロマイシン耐性の不定胚。 B.ハイグロマイシン耐性不定胚をX-Glucによって染色したもの。青色はGUS活性を示す。 C.幼植物体GUS染色像。 D.形質転換植物体。 E.形質転換体の本葉をGUS染色したもの。 F.形質転換体の根をGUS染色したもの。 / 図5.現在までに単離されている植物ホメオボックス遺伝子の分類 CHB遺伝子はいずれもHD-ZIP class Iに属する。 / 図6.ニンジン不定胚形成過程にわけるCHB1 mRNAの局在パターン(日渡 1996 修士論文より) / 図7.CHB1をセンスおよびアンチセンス方向に導入するために用いたコンストラクト図表図8.35S::sense CHB1を導入した形質転換体の表現型 (A)ハイグロマイシン耐性遺伝子だけを導入した魚雷型胚。 (B)35S::sense CHB1を導入した形質転換胚のうち巨大な子葉状の構造を持つ胚。 (C)35S::sense CHB1を導入した形質転換胚のうち多数の子葉状の構造を持つ胚。 (D)ハイグロマイシン耐性遺伝子だけを導入した幼植物体。 (E)35S::sense CHB1を導入した形質転換胚のうち巨大な子葉状の構造を持つ幼植物体。 (F)35S::sense CHB1を導入した形質転換胚のうち多数の子葉状の構造を持つ幼植物体。 (G)ハイグロマイシン耐性遺伝子だけを導入した植物体の本葉。トリコームが存在している。 (H)35S::sense CHB1を導入した幼植物の子葉状の構造。トリコームは見られない。 (I)(H)の拡大。 (J)透明化した35S::sense CHB1を導入した形質転換胚のうち多数の子葉状の構造を持つ胚。胚軸部分にも胚の上部器官が形成されている。 (K)(J)の拡大。 (L)35S::sense CHB1を導入した形質転換幼植物体の切片に対しCHB1センスプローブでin situ hybridizationを行った。 (M)35S::sense CHB1を導入した形質転換幼植物体の上部器官の構造の切片にたいしてCHB1アンチセンスプローブでin situ hybridizationを行った。 (N)(M)の拡大。 (A)-(F) Bar=500m。(G)-(M) Bar=100m。 / 図9.35S::antisense CHB1を導入した形質転換胚の表現形 (A)ハイグロマイシン耐性遺伝子だけを導入した魚雷型胚。 (B,C)35S::antisense CHB1を導入した魚雷型胚。胚上部器官の発達が抑えられている。 (D)(A)の拡大。 (E)(B)の拡大。上部器官の形成が抑えられている。 (F)(C)の拡大。子葉が非対称に形成されている。 Bar=100m。 / 図10.35S::antisense CHB1を導入した形質転換幼植物体からの二次不定胚誘導 (A)35S::antisense CHB1を導入した形質転換幼植物体からの二次不定胚形成 35S::antisense CHB1導入により魚雷型胚で停止するものが増えるとともに、胚誘導の抑制が起こっている。 (B)35S::antisense CHB1を導入した形質転換幼植物体から、二次不定胚形成を誘導すると、胚が形成されず、かわりにカルスが形成される。 / 図11.不定胚形成過程におけるCHB2mRNAの局在 (A)心臓形胚では子葉の原基の付近にCHB2mRNAが局在している。 (B)魚雷型胚の初期には維管束が形成し始める領域に局在する。 (C)(B)の拡大。 (D)魚雷型胚後期では管状要素とその周りの細胞にCHB2mRNAが局在している。 (E)センスプローブを用いたコントロール。 (F)幼植物体の子葉においても道管を中心に維管束領域に発現が局在している。 (G)播種後10日目の芽生えにおいてもCHB2mRNAは維管束領域に局在している。 / 図12.CHB2をセンスおよびアンチセンス方向に導入するために用いたコンストラクト / 図13.35S::antisense CHB2を導入した幼植物体からの二次不定胚形成 35S::antisense CHB2により球状胚でその発生が停止しているものが大多数を占めている。 / 図14.ニンジン不定胚形成におけるCHB1およびCHB2の発現と働き CHB1mRNA(赤)、CHB2mRNA(青)の局在パターンを示している。また、赤の矢印がCHB1、青の矢印がCHB2遺伝子の発現時期と予想される働きを示している。
まとめ

 本研究では、不定胚形成過程に発現する遺伝子の逆遺伝学的な解析のために、直接不定胚形成系を用いた新しい遺伝子導入法を確立した。この遺伝子導入法により、不定胚形成時に発現するホメオボックス遺伝子CHB1とCHB2の機能解析を行った。

 (1)CHB1を異所的に発現させた形質転換体では子葉と茎頂を含む胚上部の器官がectopicに形成された。一方、CHB1をアンチセンス方向に導入した形質転換胚では胚上部の器官が小さくなった。CHB1をアンチセンス方向に導入した形質転換幼植物体から二次不定胚を誘導したところ、不定胚形成が阻害され、カルスが形成された。以上よりCHB1は胚上部の器官形成と、不定胚誘導過程に働いていると予想された。

 (2)心臓型胚で一過的に発現が上昇するホメオボックス遺伝子CHB2のin situでの発現を調べたところ、心臓型胚では子葉原基に発現し、魚雷型胚以降は雄管束が形成される領域に局在することがわかった。CHB2をアンチセンス方向に導入した形質転換体では球状胚から心臓型胚への発達が阻害された。この結果より CHB2は球状胚から心臓型胚への発達時の子葉原基の形成と、それ以降の維管束形成に関わると予想された。今後は不定胚各時期での CHB1 と CHB2 の転写因子としての機能を明らかにするために、標的遺伝子の単離を試みる予定である。

審査要旨

 本論文は3章からなり、第1章は、ニンジン直接不定胚形成を利用した迅速かつ簡便な遺伝子導入系を開発について、第2章は、この系を用いてのCHB1遺伝子の胚形成における働きの解析について、第3章は、第1章で開発した遺伝子導入系を用いてのCHB2遺伝子の胚形成における働きの解析について述べられている。

 近年、シロイヌナズナの突然変異体をもとに、胚のパターン形成に関係する遺伝子が単離され、その解析から胚形成の分子機構の一部が明らかになりつつある。しかし、この方法を用いた胚形成機構の研究には、多くの変異体が胚致死でエッセンシャルな遺伝子の単離が必ずしも容易でないことや、大量の接合子胚の操作を必要とする生理、生化学的解析の難しさ等の問題点もある。このような問題を解決し、胚形成機構を多面的に解析するためには、異なるアプローチが求められる。こうした中で、ニンジン不定胚形成はin vitroで接合子胚とほぼ同じ過程で進行し、同調的かつ高頻度に胚分化が起こることから、胚形成のもうひとつのすぐれたモデル系と考えられている。この実験系を用いて多くの生理、生化学、分子生物学的な解析がなされ、不定胚形成特異的な遺伝子もいくつか単離されてきている。しかし、効率的な遺伝子導入系がないために、遺伝子の機能解析にまで到っている例は少なかった。

 そこで、第1章として、論文提出者は、論文提出者自身が修士課程で開発したニンジン直接不定胚形成系を利用することで、迅速かつ簡便なニンジン不定胚への遺伝子導入系の確立を試みた。マーカーとしては35Sプロモーターの下流に-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子をつないだ融合遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子を、遺伝子導入法としてはアグロバクテリアを介した方法を、植物材料としてはてニンジン胚軸外植片を用いて、様々な条件を検討した。その結果、効率よく遺伝子導入不定胚を作成する手法の開発に成功した。この成功はこれまで分子機構の解明が困難であったニンジン不定胚形成に逆遺伝学的な方法の導入を可能にし、その研究の飛躍的な進展ももたらす契機を与えた。

 第2章では、論文提出者は、第1章で確立した遺伝子導入系を用いて、胚形成過程で強く発現する転写制御因子CHB1(HD-Zip1タイプ)の解析を行った。35Sプロモーターの下流にCHB1 cDNAをセンスおよびアンチセンス方向につなぎ、ニンジン不定胚に導入した。遺伝子導入した不定胚の形態を調べたところ、センス鎖を導入したものでは80%で子葉が融合して大きくなるか、あるいは子葉状の構造が多数形成されるという変異が見られた。一方、アンチセンス鎖を導入したものでは子葉と茎頂を含む胚の上部器官の発達が抑制されることがわかった。以上の結果と胚形成初期にCHB1 mRNAは胚上部に局在するという観察から、論文提出者はCHB1は不定胚形成において子葉と茎頂分裂組織を含む胚の上部器官の形成を制御しているという仮説を提出した。また、CHB1をアンチセンス方向に導入した形質転換幼植物体から二次不定胚を誘導したところ、不定胚形成が阻害され、カルスが形成された。この結果は、CHB1が胚形成過程のみならず、不定胚誘導にも働いていることを示すものであった。これらの結果は、HD-Zip1ホメオボックス遺伝子が胚形成の進行と誘導に関与していることを初めて示したもので、高く評価される。

 さらに第3章では、論文提出者は、心臓型胚で一過的に発現が上昇するホメオボックス遺伝子CHB2(HD-Zip1タイプ)の発現と機能の解析を行った。in situでの発現を調べたところ、心臓型胚では子葉原基に発現し、魚雷型胚以降は維管束が形成される領域に局在することがわかった。次に、CHB2をアンチセンス方向に導入した胚を作成したところ、形質転換胚では球状胚から心臓型胚への発達が特異的に阻害されることが明らかになった。この結果よりCHB2は初期心臓型胚の子葉原基の形成を制御していることが示唆された。これらのデータは、子葉原基の形成を探る上での重要な知見となった。

 ここに得られた結果の多くは新知見であり、いずれもこの分野の研究の進展に重要な示唆を与えるものであり、かつ本人が自立して研究活動を行うのに十分な高度の研究能力と学識を有することを示すものである。よって、得字圭彦提出の論文は博士(理学)の学位論文として合格と認める。

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