学位論文要旨



No 114731
著者(漢字) 國村,省吾
著者(英字)
著者(カナ) クニムラ,ショウゴ
標題(和) 粘弾塑性解析に基づくトンネルの設計法に関する研究
標題(洋)
報告番号 114731
報告番号 甲14731
学位授与日 1999.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4501号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀井,秀之
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 古関,潤一
内容要旨

 トンネル分野の主な動向を挙げるとつぎのようである.トンネルそのものの構造に対してトンネル横断面の大断面化かつ偏平化が挙げられる.トンネルの施工法に対しては高速施工が挙げられる.新しい掘削機械の導入や新しい支保形態による施工が行われている.またトンネル計画地点の地質条件が以前よりも悪化することが挙げられる.さらにはトンネルのもつ役割に対して,Global Transportation Systemのためのトンネル,貯水トンネル,地下空間利用のための連絡用トンネルなど多種多様な役割をもつトンネルとして計画されるようになってきた.これらのような新しい発想やコンセプトに対応することが必要であり,新しい条件の下で建設されるトンネルに対して最適な設計法を確立することが重要となる.新しい条件およびこれまでに経験の少ない条件に対して,以前の経験などから決定されている支保パターンをそのまま適用する場合にはかなり注意を要する.この際,経験に基づいた設計体系を構築することはできず,これらの条件に対するトンネル支保設計は,解析的手法による設計方法が有効な手段となりうるであろう.そこで,本研究では解析的手法に基づくトンネルの設計方法に着目することとした.

 より合理的にトンネルの構築を行って行くためには,個々の支保のメカニズムを明確に表現し,個々の支保の能力を最大限発揮させることが重要と考えられる.さらに,適切な支保パターンを選択可能とするためには,地山特性考慮できるように地山をモデル化すること,解析により支保の効果を表現できるようにすること,設計で考慮すべき設計条件を明確にすることなどが重要であると考えられる.これまで数値解析手法を用いて支保の効果を数値的に明らかにすることは未だ出来ていないのが実状であるが,これまでの研究はその原因が支保のモデル化にあるとしてその支保のモデル化を検討したものが多い.本研究では,支保の効果を表現しにくいのは,地山のモデル化に問題があるとの考えに基づき研究を進めた.トンネル掘削時における支保のメカニズムは唯一つではなく地山によって異なる効き方をするため,ここでは多くのメカニズムを同時に考慮するのではなく,軟岩地山を対象として研究をすすめることとした.

 そこで,トンネル掘削時におけるトンネル支保工(吹付けコンクリートおよびロックボルト)のメカニズムについて考察を行った.支保のメカニズムは,吹付けコンクリートにおいては力学的単独効果,地山劣化防止効果そして力学的複合効果に分類できる.ロックボルトにおいては,縫い付け効果,はり形成効果,内圧効果,摩擦効果などに分類できる.その結果からもトンネル掘削時における支保のメカニズムは唯一つではなく,地山によって異なる効き方をすることが明らかになった.本研究では多くのメカニズムを同時に考慮するのではなく,軟岩地山を対象として研究をすすめることとした.ここで対象とする軟岩地山の挙動は一般的に応力依存性とともに時間依存性が強い.また堀削中のトンネルの挙動は,掘削手順,支保の打設時期,吹付けコンクリートの強度発現特性などにも依存する.これらの依存効果を解析により表現するためには地山挙動の時間依存性を考慮することが不可欠である.そこで,軟岩地山でのトンネル掘削解析において用いる地山の構成則は,従来より考慮されている拘束圧依存性に加えて時間依存性も考慮する必要があり,軟岩地山における時間依存性および拘束圧依存性を考慮した粘弾塑性構成則を構築した.ただし現在は,2次クリープ挙動までを対象とした.単軸構成式から多軸状態に拡張する場合,クリープ速度ベクトルの方向はクリープ流れ則,大きさはクリープ硬化則が成り立つものとする.

 次に,軟岩材料の応力依存性および時間依存性の挙動を把握するため,人工軟岩に対する三軸クリープ実験を実施した.実験条件として,拘束圧と応力比(載荷する軸差応力と三軸圧縮試験から得られた最大強度との比として定義する)をパラメータとして変化させ,そのクリープ挙動の把握および粘弾塑性構成則の妥当性を検討した.実験結果から,拘束圧が同じでも応力比が異なればそのクリープ挙動はことなり,応力比が大きいほどクリープによる変形が大きいことが把握できた.さらに,ある応力比以上になると三次クリープに移行した.また,応力比が大きいほど,クリープひずみ速度が大きいこたが確認できた.さらにトンネル掘削現場から採取した試料を使用した三軸ケリープ試験結果から,そのクリープ挙動に関して検討を行った.クリープ挙動が収束する場合,長くともほぼ2週間程度で収束する結果が得られた.提案した粘弾塑性構成則に用いる定数の同定を行った.その結果地山により得られる粘弾塑性に関するパラメータは異なることが明らかになった.

 支保工の設計をする上では,地山のモデル化と同様にトンネル支保工(吹付けコンクリートおよびロックボルト)の効果把握し,それを数値解析において表現できることが重要である.そこで,軟岩地山にトンネルを建設する場合のトンネル支保工の効果について,有限要素法による2次元粘弾塑性解析により,そのトンネル支保工の有効性を解析的表現に関して検討した.支保工としては,わが国における現在のトンネル標準工法であるNATMの主たる支保工である吹付けコンクリートおよびロックボルトを取り上げた.その結果から支保のメカニズムについて考察した.その結果,トンネル掘削後に関して,無支保の場合と支保を施した場合についてトンネル壁面近傍の任意の点における応力状態で比較すると,トンネルの主たる支保工として打設されるロックボルトにしても,あるいは吹付けコンクリートにしても,その地山の応力状態に対する効果はそれほど大きくなく,支保を打設することにより最小主応力(拘束圧,半径方向応力)が少し大きくなるに過ぎない.しかし,軟岩地山の挙動がこの拘束圧の変化に敏感であり,周方向の変形が大きく異なる場合,トンネルの変形は支保量に大きく依存することとなり,このような地山挙動は拘束圧依存性が強くさらに支保が有効であると言うことが可能と考えられる.さらに,3次元解析と2次元解析の結果を比較し,2次元解析における3次元効果の導入について考察した.

 軟岩地山を対象とした地山分類を行うために必要なパラメータを得るために,新らたにボーノング孔を利用したクリープ試験を行うことを提案し,その可能性を数値解析により検討した.その結果ポーリング孔を利用したクリープ試験から粘弾塑性に必要なパラメータを同定できることを確認できた.それによりトンネルの支保パターンおよび支保量を標準化するための地山分類が可能である.その地山分類に対応した支保パターンの設定を行った.本研究で提案した粘弾塑性構成則に基づくトンネル支保設計体系の方向性を示すことができた.

審査要旨

 本論文は粘弾塑性解析に基づくトンネル支保の設計法を提示するものである。トンネル支保の設計は、地山を等級分類し、それぞれの等級に対して支保パターンを定めるという、経験に基づく設計体系が採用されている。既存の設計法は複雑な地質における線状構造物であるトンネルの設計法としては適切な設計体系であると考えられるが、第2東名高速道路のような大断面や、高レベル廃棄物処分施設における大深度という、経験のない新しい条件に対して適用することはできない。既存の設計法を拡張して、新しい条件のもとでの設計法を確立するためには、支保の効果を表現し得る解析手法を開発し、その解析手法に基づいて、経験の無い新しい条件のもとにおける設計法を構築することが必要である。本論文では軟岩地山を対象に、吹き付けコンクリート・ロックボルトの効果を表現しうる解析手法を提案し、その解析手法に基づく設計体系を示している。

 第1章は序論であり、研究の背景・既往の研究・目的、論文の構成が述べられている。

 第2章では、NATMの主たる支保工である吹付けコンクリートとロックボルトのメカニズムに関する考察がなされ、さらに、現状の支保設計の問題点が整理されている。

 第3章では、支保の効果を表現し得る解析手法を構築するために、軟岩材料に対する粘弾塑性(クリープ)構成モデルが提案されている。一般に、解析では支保の効果を表現できないことが知られており、支保のモデル化に関する研究がなされている。本研究では、問題が支保のモデル化にあるのではなく、地山材料のモデル化に問題があるものと考えている。軟岩地山における支保のメカニズムは、拘束圧の微増による軸方向の変形・強度特性の向上にあると考え、また、支保の施工時期や吹き付けコンクリートの強度発現特性の影響を評価することを目指して、拘束圧依存性を表現し得る粘弾塑性(クリープ)構成モデルを提案している。軟岩のクリープ挙動におけう拘束圧依存性を表すために、平均主応力と最大せん断応力に依存する有効応力を定義している。ここに本研究で提案する構成モデルの新規性が認められる。

 第4章では室内三軸クリープ試験結果と、構成モデルのパラメータ同定結果が示されている。

 第5章では3地点のトンネル施工現場より採取した試料に対して実施された既存の三軸クリープ試験結果より、パラメータの同定を行った結果と、同定されたパラメータを用いた構成モデルによる予測結果と元の実験結果との比較を示している。地山材料は、固結シルト、凝灰岩、泥岩である。三軸クリープ試験は必ずしも一般的ではなく、実施例は多くない。また、原位置から試料を採取することも簡単ではなく、採取された試料の質については厳密な検討が必要である。実験結果のばらつきはかなり大きく、粘弾塑性構成モデルの妥当性を議論するにはいたっていないが、軟岩材料に特徴的な拘束圧依存性と時間依存性は再現されている。

 第6章では、提案する粘弾塑性解析手法を用いたトンネル掘削の解析結果が示されている。第5章で凝灰岩に対して特定されたパラメータを用い、新幹線の標準断面に対して、吹付けコンクリートの厚さ・剛性とロックボルトの長さと密度等を変化させて解析を行っている。解析結果はトンネル掘削時の周辺地山挙動に対する支保量の影響が表現されていることを示している。また、解析結果に基づきトンネル支保のメカニズムに関して考察を行っている。さらに、トンネル掘削の3次元解析と2次元解析の結果を比較することにより、実際は3次元問題であるトンネル掘削を2次元解析で行う方法を提案している。

 第7章では、粘弾塑性解析に基づくトンネル支保の設計方法が提案されている。トンネル構造物の特質を考えれば、直接解析に基づいて設計を行うよりは、地山分類を行い各分類に対応して支保パターンを規定するという現行の設計体系を適用することが適していると考えられる。そこで、本論文では解析に基づいて地山の等級分類を行い、それぞれの分類に対して最適な支保を解析により決定するという方法を提案している。現場で地山の等級分類を行うにあたっては、ポーリング孔を利用し、孔内載荷クリープ試験を実施する方法が提案されている。

 提案された設計体系によれば、大断面・大深度などの、これまで経験の無い条件の下でも設計を行うことが可能となる。また、地山分類を解析に基づいて行うことにより、支保の必要性に応じた分類となること、細かく分類することが可能となること、また、解析により支保パターンを決定することにより、最適な支保が決定できることなどにより、設計の合理化が図れることになる。既存の経験に基づく設計に対して提案する設計法を適用し、現状の設計と整合していることを確認した上で、経験の無い条件下における設計に拡張することが重要になることが指摘されている。

 第8章は結論である。

 以上のように、本論文は粘弾塑性解析に基づくトンネル支保の設計法を提示するものである。支保のメカニズムを明確にし、支保のメカニズムを反映した解析手法を提案している。その解析手法に基づく設計体系は、大断面トンネルや高レベル廃棄物処分施設の設計に適用されることが期待され、トンネル工学の発展に結びつくものと考えられる。その工学的貢献には大きいものがある。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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