内容要旨 | | センタースパンが2500mを超える長大橋が計画段階に入っている.これらの超長大橋といえるものにおいては,風に対する安定性,すなわちダイバージェンスやフラッターが吊橋の安全性を左右する.これまでにも,耐風安定性を高めるための種々の工夫がされてきたが,2500mを超える吊橋はよりフレキシブルであり,新しい工夫が必要である. 本論文では,橋桁の両側端部に取り付けた補助翼が動くことにより補助翼ならびに橋桁に作用する空気力が変わることを利用した,アクティブならびにパッシブ空力制御を提案し、その有効性を解析的な立場から検証している. 前半の部分では,補助翼一橋桁系に作用する自励空気力とバフェッティング空気力の時間領域の有理関数近似によるモデル化を展開している.2次元系における運動方程式を求め,最適制御をロバスト制御に基づき求めている.そこでは,橋桁のねじれ変形と速度を状態量とする制御則を導き,その有効性を明らかにした. 補助翼を用いたアクティブ制御の制御力は風から得るので,必要なエネルギーは補助翼を動かす分のみであるが,その機構は当然複雑であり,また長い期間の使用に対する信頼性・維持管理の問題がつきまとう.そこで,次に,補助翼をパッシブに動かす制御方式を検討している.補助翼の端部をケーブルに連結させ,橋桁のねじれ変形とともに補助翼が回転する機構である.両側の補助翼を対称(同一方向)に回転する方式と逆対称(逆方向)に回転する方式の二種類を詳細に検討した. この方式を2次元系の橋桁補助翼の空力問題に適用し,逆対称制御はフラッター限界風速を著しく向上させるが,補助翼の動きが大きくなることを示した.対称制御は,一方,フラッター制御に対しては限界があるものの,補助翼の動きは小さくて済み,また風向に関わらず有効であることを明らかにしている. 次に,補助翼一橋柘系に作用する自動空気力とパフェッティング空気力の時間領域の有理関数近似によるモデル化を3次元吊橋系に適用し,風を受ける吊橋(中央スパン2500m)の有限要素法による運動方程式を求め,逆対称制御には制御の限界があり,フラッター限界風速の向上は,中央スパン全長にわたって補助翼をつけた場合でも33%であることを数値計算例から明らかにした.対称制御では,中央スパンの半分に補助翼をつけた場合で,22%のフラッター限界風速の向上が得られた. |
審査要旨 | | センタースパンが2500mを超える長大橋が計画段階に入っている.世界的にみれば,3,4000mのセンタースパンを有する吊橋の架橋計画も提案されている.これらの超長大橋においては,風に対する安定性,すなわちダイバージェンスやフラッターが吊橋の安全性を左右する.これまでにも,耐風安定性を高めるための種々の工夫,すなわち桁断面形状の工夫,ケーブル配置や塔の形式による構造的工夫,あるいはTMDやアクティブマスダンバーなどの機械的手法によるフラッター限界風速の向上がされてきた.しかし3000mを超える吊橋はよりフレキシブルであり,新しい工夫が必要である. 本論文では,橋桁の両側端部に取り付けた補助翼が動くことにより補助翼ならびに橋桁に作用する空気力が変わることを利用した.アクティブならびにパッシブ空力制御を提案し,その有効性を解析的な立場から検証している.最近では,補助翼を桁から離した位置においてそこに働く空気力をフラッター制御に利用とする研究が発表されているが,桁の両脇に取りつけた補助翼により,桁そのものに働く空気力をも変えて効率的に制御する方式についてはこれまで実験的・理論的検討は全くなされていない.本研究は理論的検討を本格的に行なった初めての研究と言える. 1章では,吊橋のフラッター制御に関する既往の研究とその適用,また限界について述べ,本研究での狙いを述べている.2章では,補助翼・橋桁系に作用する自励空気力の理論的展開について述べ,さらに周波数依存型の自励空気力の有理関数近似による時間領域のモデル化を行なっている.このとき遅れ項は2つとればフラッター予測・ダイバージェンス予測が十分に高い精度で行なえることを数値計算の上から明らかにしている. 3章では,2次元部分桁構造を対象に,補助翼・橋桁系の運動方程式を求め,最適制御をロバスト制御に基づき求めている.そこでは,橋桁のねじれ変形と速度を状態量とする制御則を導き,その有効性,補助翼の回転中心の最適位置を明らかにしている.またその時の最適制御が,ほぼ桁の回転変位に比例する形で補助翼を動かすのがよいことを数値解析によりしめしている.また補助翼の大きさの最適化についても検討している. 4章では,パッシブ制御への展開を行なっている.すなわち,補助翼を用いたアクティブ制御の制御力は風から得るので,必要なエネルギーは補助翼を動かす分のみであるが,その機構は当然複雑であり,また長い期間の使用に対する信頼性・維持管理の問題がつきまとう.そこで,補助翼をパッシブに動かすユニークな制御方式を提案している.補助翼の端部をケーブルに連結させ,橋桁のねじれ変形とともに補助翼が回転する機構である.両側の補助翼を対称(同一方向)に回転する方式と逆対称(逆方向)に回転する方式の二種類を詳細に検討した. この方式を2次元系の橋桁・補助翼系の空力問題に適用し,逆対称制御はフラッター限界風速を著しく向上させるが,補助翼の動きが大きくなることを示した.対称制御は,一方,ダイバージェンス制御に対しては限界があり,限界風速の向上は,30%程度にとどまるが,補助翼の動きは小さくて済み,また風向に関わらず有効であることを明らかにしている. 5章では,この制御方式の吊橋全体系での有効性を調べるために,有限要素法による吊橋の定式化を行なっている.対象としたのは,中央スパン3000m,両サイドスパンがおのおの1000mの超長大吊橋である.6章では,具体的に,補助翼パッシブ制御の空力安定性の効果を検討している.吊橋振動変形における面外変形との連成効果が制御効果に及ぼす影響を入念に調べている.逆対称制御では,面外変形が制御効果に及ぼす影響が大きく,中央スパン全長にわたって補助翼をつけた場合でもフラッター限界風速は30%程度の向上にとどまること,対称制御では,面外変形の影響をほとんど受けないこと,中央スパンの半分に補助翼をつけた場合で,22%のフラッター限界風速の向上が可能なことを示されている.しかし,本研究で提案しているパッシブ補助翼制御による限界風速の向上はそれほど大きいことはなく,さらなる向上のためには新しい工夫が必要であることも指摘している. 本論文は,橋桁両端に取りつけた補助翼による空力不安定現象の制御を理論的手法を用いて体系的に展開している.検討は入念であり,その理論的支柱はしっかりとしている.提案した方式の有効性とその問題点を2次元問題だけではなく,3次元吊橋系に適用し,明らかにしている点は極めて高く評価できる点である. よって.本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と判断される. |