内容要旨 | | 米国では1994年ノースリッジ地震が,また日本では1995年兵庫県南部地震がきっかけとなって,リアルタイム地震防災システムが広く注目を集めるようになった.新たに配備された地震計からは,最大加速度,最大速度,SI値などとともに,計測震度が得られる場合が多く,今後より頻繁に計測震度も地震被害推定のための地震動指標として使われるものと思われる.本研究では,このような新しい地震計により得られた記録を用いて,地震動の特性に関する新たな知見を得ることを目指している.とくに,地震動指標および応答スペクトルについての距離減衰式の構築.修正メリカリ震度階(MMI)の計測化の提案,さらに距離減衰式の一部として求まる地点係数から地形・地質分類ごとの地盤増幅度の推定を行う. 気象庁の計測震度は,1996年10月に改正されたが,現在,計測震度を計る地震計が日本中に配備されている.このような状況を考慮して,気象庁87型地震計で1988年8月から1996年3月までに記録された3,990組の3成分加速度記録を用いて.計測震度を計算し.計測震度に関する距離減衰式を回帰分析により求めた.また同様に,最大加速度および最大速度に関する距離減衰式も求め,これらから推定される地震動強度を被害地震の観測値と比較し,モデルの検証を行った. 次に,地点ごとの地盤震動特性をより厳密に評価するために.加速度応答スペクトルと速度応答スペクトルの距離減衰式を気象庁87型地震計の記録を用いて構築した.同時に水平/上下(H/V)スペクトル比を計算し,それが地震によらず地点固有の特性持つことを示した.また,この比と地点係数スペクトルとの関係も明らかにした.このような,地点固有の特性を評価できる応答スペクトル距離減衰式は,地盤データや国土数値情報と関連づけて,強震動予測において利用価値が高いと考えられる. 科学技術庁防災科学研究所は.日本全国を1,000台の強震計でカバーする全国強震ネットワーク(K-NET)を1996年5月より稼働している.本研究では,このK-NETで1998年12月までに記録された94地震による6,017組の記録を用いて,最大加速度,最大速度,計測震度,および応答スペクトルの距離減衰式を構築した.K-NETの観測点においては,標準貫入試験やPS検層などの詳細な地盤探査結果が整備されているので,この研究を発展させて,ここで求めた地点係数(スペクトル)を理論伝達関数や地形・地質分類などと照合することも可能である.構造物の地震応答や被害は,入力動の応答スペクトルや構造物の卓越周期に依存するので,応答スペクトルの空間分布が推定できれば,より精度の高い被害推定が可能となる. 強震記録の存在しない場所や過去の地震においては,体感や被害分布から判断される震度階は,今日でも世界中で,地震動強度指標として,また地震危険度解析や被害予測などにおいても幅広く使用されている.しかし,日本では,気象庁震度階は,3成分加速度波形から計算される計測震度に置き換わった.この計測震度の考えを用いて,世界中で広く用いられている修正メリカリ震度階(MMI)の計測化を提案した.米国カリフォルニア州で発生した1987年ウィティアーナローズ地震,1989年ロマプリエタ地震,1994年ノースリッジ地震の地震記録から計算された気象庁計測震度と判定されたMMIとを比較し,計測MMIの計算式を提案した.このMMIと等価な計測MM震度は,客観的な地震動指標として世界中で利用が可能と考えている. 本論文の最後には,距離減衰式で求められた地点係数を地盤増幅率に換算し,観測地点の地形・地質分類との比較検討を行った.気象庁87型地震計の観測地点の地形・地質分類と,地震動指標の地点係数を比較すると,地形分類と表層地盤分類を組み合わせた11分類によって,ばらつきは大きいものの最もよい増幅率の分類が行えることが分かった.この分類法は,日本全国を1kmメッシュでカバーしている国土数値情報と対応しているため,大まかではあるが日本全国の地震動分布推定を行う際の地盤増幅度として利用が可能である. 本博士論文を通して,気象庁87型地震計ネットワークおよび科学技術庁K-METで得られた新しい地震動記録を用いて,地点固有の揺れ易さ特性を評価した経験的地震動予測式を提案した.提案した距離減衰式や計測MM震度は,日本ばかりでなく世界中の地震活動度の高い地域の地震危険度解析や被害予測に利用されることを期待している. |
審査要旨 | | 1995年1月17日の兵庫県南部地震以降.日本では新たに多数の地震計が配備され,観測記録は貴重な研究データとなるとともに.早期被害推定システムなどにも利用されるようになった,これらの地震計の多くは,最大加速度,最大速度,SI値などの地震動強度指標とともに,計測震度を即座に表示する.そのため,今後,計測震度も地震被害推定の入力として広く利用されるものと思われる.本論文では.これらの新設地震計により得られた記録を用いて,地震動特性に関する新たな知見を得ることを目指した研究を行っている,具体的には,気象庁や科学技術庁が日本全国に展開した地震計による観測記録に基づいて,地震動強度指標および応答スペクトルについての距離減衰式を構築し,修正メリカリ震度階(MMI)の計測化の提案を行い,さらに距離減衰式構築の回帰分析で求まる地点係数から地形・地質分類ごとの地盤増幅度の推定法を開発した,第1章では,このような研究の背景や目的を述べるとともに,論文の構成を概述している. 気象庁の計測震度は,兵庫県南部地震以降改正されたが,現在,計測震度を計る計測震度計が日本中に配備されている.気象庁87型地震計は.計測震度観測の先駆けとなった地震計で.全国で観測が行われた.第2章では,この地震計により,1988年8月から1996年3月までに記録された3,990組の加速度記録を用いて計測震度の計算を行い.回帰分析により計測震度の距離減衰式を求めた.同時に,最大加速度および最大速度に関する距離減衰式も求め,これらから推定される地震動強度を被害地震の観測値と比較し,提案モデルの検証を行った. 第3章では,地盤震動特性を観測地点ごとに厳密に評価するため,加速度応答スペクトルと速度応答スペクトルの距離減衰式を気象庁87型地震計記録を用いて構築した.また,水平/上下(H/V)スペクトル比を計算し,それが地震によらない地点固有の特性を持つことを示した.また,H/V比と地点係数スペクトルとの関係も示した.地盤データや国土数値情報と関連づけることにより,地点固有の特性を評価できる応答スペクトルの距離減衰式は,強震動予測において利用価値が高いと思われる 日本全国を1,000台の強震計でカバーする全国強震ネットワーク(K-NET)を,科学技術庁防災科学研究所では1996年5月より稼働している.第4章では,このK-NETで1998年12月までに記録された94地震による823地点,6,017組の記録を用いて.最大加速度,最大速度.計測震度の距離減衰式を求めた.これらの距離減衰式を気象庁データから導かれたものと比較し,差異についてはデータ分布の違いに起因するであろうと推察した. また.第5章では,K-NETデータを用いて,応答スペクトルの距離減衰式を構築した、K-NET観測点においては,標準貫入試験やPS検層などの詳細な地盤探査結果が整備されているので,本章で求めた地点係数スペクトルを,今後,理論伝達関数や地形・地質分類などと比較することもできる.構造物の地震応答・被害は,入力動の応答スペクトルや構造物周期に関係するので,応答スペクトルの空間分布推定が可能になれば,被害推定の精度の向上が可能となる. 人体感覚や被害分布から判断される震度階は,強震記録の存在しない場所や過去の地震においては,地震動強度指標として,また地震危険度解析や被害予測などにおいても,今日でも世界中で幅広く使用されている.一方日本では,3成分の加速度波形から計算される計測震度が気象庁震度階として正式に使われるようになった.第6章では,世界中で最も広く用いられている修正メリカリ震度階(MMI)に,気象庁の計測震度の考えを準用した.計測修正メリカリ震度階を提案した.近年,米国で発生した1987年ウィティアーナローズ地震,1989年ロマプリエタ地震,1994年ノースリッジ地震で地区単位で判定されたMMIと,地震記録から計算された気象庁計測震度とを比較し,計測MMIの計算式を新たに提案した.この従来のMMIと等価な値を与える計測MM震度は,客観的な地震動強度指標として世界中で利用することができる 第7章では,地震動強度指標の距離減衰式で求められた地点係数を地盤増幅率に換算し,地震観測地点の地形・地質分類などの土地条件と比較検討した.気象庁87型地震計の観測点の地形・地質分類と,地震動強度指標の地点係数を比較すると,地形分類と表層地盤分類の組み合わせによる11分類によって,最もばらつきの小さい増幅率の分類が行えることが示された,この分類手法は.日本全国を1km四方のメッシュで覆う国土数値情報と対応しており,日本全国の地震動分布を大まかに推定する際の地盤増幅度として利用できるものである. 第8章では,以上の論文の成果をまとめるとともに.今後の課題を提示している. 本論文では,気象庁87型地震計ネットワークと科学技術庁の強震計ネットワークで得られた地震動記録を用いて,地点特性を評価した経験的地震動予測式を提案した.ここで提案した距離減衰式や計測修正メリカリ震度は,日本ばかりでなく世界の地震危険度解析や被害予測に利用可能なものである.このように本論文の研究成果は,現在,地震工学において注目されている重要な課題に対する有用かつ実用的な示唆を与えている. よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |