本論文は 「INHIBITION OF ALGAL GROWTH BY UY-RADIATION AND IT’S RESIDUAL EFFECT(紫外線照射とその残留効果による藻類の増殖抑制)」と題し、7章より構成されている。紫外線照射による藻類増殖抑制効果、および、紫外線照射により水中に生成される物質が藻類増殖を同じく抑制することについて検討した研究である。 水道水源の湖や貯水池における藻類の異常増殖は、浄水場における砂ろ過の閉塞、異臭味、消毒副生成物前駆物質の生成など様々な問題を起こす原因となる。富栄養化防止あるいは藻類の異常増殖を抑制するためには様々な試みがなされているが、あまり成功した例は見られない。また、硫酸銅などによる直接的な殺藻等の場合は、藻類以外にも悪影響があり、藻類の急速な分解によって生ずる臭いや毒素、および銅が沈殿して湖沼に蓄積してしまうなど、湖や貯水池の生態系への影響を考慮しなければならない。 本論文の第1章は序論である。 第2章は、既存の研究に関する総説を示している。 第3章は、実験方法と用いた装置および材料の説明である。研究対象として用いた藻類は、ラン藻類のMicrocystis aeruginosaとAnabena vulgaris、および緑藻類としてChlorella vulgarisである。残存効果の研究にはE-coli.も用いている。 第4章は、紫外線の照射による藻類への直接的影響を検討している。 3種類の藻類に対して紫外線照射量として150mWs/cm2を照射すれば活性がなくなること、ラン藻類2種と緑藻類の間に、紫外線に対する耐性の違いが見られることを示している。紫外線照射量として40mWs/cm2を照射した後、培養したところ、ラン藻類2種では7日間の増殖阻害が見られたのに対し、緑藻類では増殖阻害が3日間であった。また、紫外線照射量として80mWs/cm2を照射した場合、緑藻類は活性を失ったが、ラン藻類は不活化はされないものの増殖阻害が観察されたことを示している。また、紫外線による藻類の増殖阻害は、紫外線による不活化機構として知られている通常の細胞および核酸への損傷によるものと考えられる。しかしながらMicrocystis aeruginosaの場合、紫外線照射後に、藻類が沈降する傾向を見出している。湖沼や貯水池において、藻類が浮遊力を喪失し、光の届く範囲から沈降することは致命的である。紫外線照射前後の細胞の見かけ上の比重を測定し、粒径を一定とした場合、1.01〜1.05のものが1.09以上となることを明らかにしている。以上の実験結果より、紫外線照射の藻類への直接的影響は、照射量の小さい方から、浮遊力の喪失、増殖阻害、クロロフィルの分解、細胞破壊という形で影響を与えることを明らかにしている。 第5章は、紫外線照射をした水が有する藻類への間接的影響についての実験結果である、Microcystis aeruginosaとE-coli.を対象微生物として調べている。紫外線照射後に残存して存在する物質が想定され、藻類とE-coli.の増殖を抑制することを明らかにしている。残存する物質の効果の強さは紫外線照射量に依存し、7日間に亘って影響を与えることもあるとしている。残存効果はUV照射される試料の水質にも影響され、光感剤としての有機物が紫外線残存効果に不可欠であること、鉄イオンは、残存効果を増強するとしている。 第6章は、間接的影響のメカニズムに関する検討である。このメカニズムを明らかにするために、紫外線照射によって微生物に有害である可能性の高いH2O2が生成されることを確認している。紫外線照射量が多いとH2O2が多く生成され、鉄イオンによってH2O2の生成は促進されること、しかしながら、紫外線照射によって生成されるH2O2の濃度はMのレベルであり、この濃度範囲ではH2O2は細胞に損傷を与えないこと、H2O2に加えて他にも紫外線によって活性種が生成され、紫外線の長期の残存効果を担っていると結論している。このように、紫外線照射により水中に生成される物質によって、藻類、とE.coliの増殖阻害が生じることを明らかにしている。 第7章は、結論と今後の課題である。 以上のように、本研究は、水資源と水環境において重要な役割を演じる藻類の抑制に紫外線照射を用いることを想定し、紫外線照射の藻類への影響を詳細な実験により研究したものであり、新しい知見を得ている。都市環境工学の学術の進展に大きく貢献するものである。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |