学位論文要旨



No 114745
著者(漢字) カズミ・アブサール アハマド
著者(英字)
著者(カナ) カズミ・アブサール アハマド
標題(和) 回分式活性汚泥法の沈殿工程における反応を考慮した栄養塩除去のモデル化
標題(洋) INTEGRATED KINETIC MODEL FOR NUTRIENT REMOVAL AND REACTIVE SETTLING IN SEQUENCING BATCH REACTOR
報告番号 114745
報告番号 甲14745
学位授与日 1999.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4515号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 古米,弘明
 東京大学 教授 花木,啓祐
 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 助教授 迫田,章義
 東京大学 講師 荒巻,俊也
内容要旨

 回分式活性汚泥法(SBR)は嫌気好気運転などの導入により,有機物だけでなく栄養塩類除去も可能である将来有望な小規模排水処理方法の一つである,しかしながら,反応工程に関する研究はあるものの,沈殿工程を取り扱った研究は数少ない.この全処理工程のうち比較的長い時間を占める沈殿工程の間に起きる脱窒などの反応は無視できないことが想定され,処理プロセス全体の効率的で最適な運転条件を検討する上で考慮されるべき工程である.また,この工程を正確に把握することで,適切に沈殿工程を管理制御することにより,脱窒など栄養除去を促進させる可能性も考えられる.したがって,本研究の目的は,実処理場において季節的にも変動する沈殿現象を把握するとともに,沈殿工程での脱窒速度やその脱窒速度に影響を与える要因について研究,モデル化することである.

 この目的を達成するために,異なる季節条件で現場調査を行い,活性汚泥の沈殿特性を調べるとともに.その工程での脱窒反応やリン放出に影響を与える因子を調べた.沈殿工程中の脱窒速度を予測するために,深さ方向の汚泥濃度分布の影響を考慮した回分汚泥沈殿モデルを提案した.そしていくつかの影響要因を考慮に入れて定式化された脱窒速度式を,上記の汚泥沈殿モデルと組み合わせて硝酸塩濃度変化を予測可能な沈殿工程のための反応モデルを構築した.さらにこの沈殿工程の反応モデルを既存のSBR処理モデルと統合し,沈殿工程での反応評価のあり方の違いにより,回分式活性汚泥法処理全体における窒素除去やリン除去へどのような影響が起きうるかを検討した.

審査要旨

 本論文は,有機物だけでなく栄養塩類除去も可能である将来有望な小規模排水処理方法の一つである回分式活性汚泥法(SBR)を対象に,その沈殿工程を取り扱った研究論文である.特に,沈殿工程での脱窒に着目し,汚泥濃度分布を考慮した脱窒現象を定量化するためのモデル化を行い,沈殿工程の反応モデルと処理全体の処理モデルとの統合を試みたものである.論文は,9章より構成されている.

 第1章では,研究の背景と目的を述べている.

 第2章では,回分式活性汚泥法の特徴,その処理のモデル化の現状,活性汚泥の沈殿特性や沈殿池における脱窒などに関する文献調査を整理している.そして,主に窒素除去の観点から活性汚泥の沈殿工程に関する既存の調査やそのモデル化の研究に関して概観している.

 第3章では,本研究において,実施した現場調査の対象処理場の概要,実験に使用した装置や分析方法についてまとめている.

 第4章から第8章までに,研究成果について記述している.第4章では,回分式活性汚泥法の実処理場での沈殿工程における調査結果を取りまとめている.新たに考案した採水および活性汚泥の採取方法の解説とともに,汚泥および水質分析データから,汚泥沈殿特性の季節変動や沈殿工程での脱窒反応の重要さを明らかにするともに,沈殿特性との関係から様々な反応に関する考察を行っている.

 第5章では,酸素消費速度試験や脱窒試験を様々な条件で実施することにより,沈殿工程における活性汚泥による脱窒速度に影響する要因について検討を行っている.特に,温度,残存溶存酸素濃度,混合攪拌の影響,硝酸塩などの基質濃度の影響について,後述のモデル化のための定式化を起こっている.

 第6章では,回分条件での活性汚泥沈殿過程のモデル化を行っている.処理場で通常容易に観測可能な,MLSS濃度,汚泥界面曲線,SVIを変数として沈殿工程での汚泥濃度分布の時間変化を表現可能なモデルを構築している.その際,現場処理場の調査データや1mと2mのカラム実験データをもとに,パラメータの推定やモデルの検証を行っている.このモデルでは,まず,汚泥界面曲線から沈降界面汚泥濃度をKynch理論による与え,実験式であるRocheモデルをより広範なSVI範囲にも適用できるように改良を加えて底面汚泥濃度を与える.そして,汚泥の沈殿に伴い形成される堆積汚泥界面の変化の予測式を求めるために,無機スラリーに適用されているFontによる堆積スラリー界面高の予測式とTalmage & Fitchの汚泥圧密の遷移点の考え方を巧みに組み合わせ,活性汚泥用の仮想的な堆積汚泥界面高の時間変化を求める方法を提案している.最終的には,上記の3つの濃度を直線にて結合して汚泥濃度分布を与える簡素化したモデルである.また,このモデルでは,直線にて結合しているため汚泥収支が完全には満足できない限界も示しているが,工学的には十分適用可能と判断している.

 第7章では,沈殿工程での脱窒過程のモデル化を検討している.第5章での成果をもとに,脱窒速度に影響を及ぼす要因を考慮した式を与え,第6章での汚泥濃度分布を与えるモデルを組み合わせて硝酸塩の減少を予測可能なモデルを提案している.その際,汚泥の沈降圧密に伴う液相と固相との交換の概念を導入して,硝酸塩濃度分布予測を行っている.また,様々な要因や液相と固相との交換の有無により,硝酸塩濃度分布予測にどのような違いが生じるかについて調べている.

 第8章では,第7章の構築した沈殿工程での脱窒反応モデルを,既存の回分式活性汚泥法処理モデルと統合したモデルを提案している.沈殿工程での反応評価の有無やそのあり方の違いにより,嫌気好気運転して窒素・リン同時除去を目指す処理プロセス全体において,栄養塩類除去へどのような影響が起きうるかを検討している.特に,沈殿工程での反応を無視することで,次のサイクルでの嫌気工程でのリンの放出とそれに続く取り込みの予測結果に大きな影響があること,本研究での提案した沈殿工程の反応モデルの組み込みでより,沈殿工程で排出される処理水質と次の処理工程の初期水質の違いを表現できることの有用性を指摘している.

 第9章では,研究成果から導かれる結論と今後の研究課題や展望が述べられている.

 以上の成果は,通常の回分式活性汚泥法への栄養塩除去機能の付加や処理場の運転操作の最適化を検討する上で非常に有用なデータや知見を提供するとともに,水質管理における実用的な水質予測モデルを提案しており,都市環境工学の学術の進展に大きく寄与するものである.

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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