本論文は「Teleoperated 2‐D Micro/Nanomanipulation Using Atomic Force Microscope(原子間力顕微鏡を用いたマイクロ/ナノ・テレマニピュレーション・システムに関する基礎研究)」と題し8章からなっており、測定器として使われているAFM(原子間力顕微鏡)をナノ世界におけるロボットマニピュレータとして用いることを提案し、人間が存在するマクロ世界とマイクロ/ナノ世界を結ぶテレマニピュレーションを提案しシュミレーション及びAFMマニピュレータを使ってマイクロ/ナノレベルでの表面接触、マイクロ/ナノ粒子の2次操作を実現した研究をまとめたものである。 第1章は「Introduction(序論)」であり、本研究の目的と課題を明らかにし、本論文の構成を示している,マイクロ/ナノマニピュレーションがロボットの新しい分野として必要であることを示し、AFMを用いることがその一つのアプローチであることを述べている。また、今後の発展方向および応用分野に関しても言及している。 第2章は「Tele‐Micro/Nanomanipulator System Setup(遠隔マイクロ/ナノマニピュレーションシステム)」と題し、本研究の中心となるTele-Micro/Nanomanipulator Systemの概要を示し、マイクロサイズを対象としたSystemIおよびナノサイズを対象とし仮想現実感技術を用いたSystemIIの構成に関して述べている。 第3章は「System Part I: Micro/Nano World(システムI:マイクロ/ナノ世界)」と題し、マイクロ/ナノ世界で観測器及びマニピュレータとなるAFMの原理を解説し、マイクロ/ナノレベルでの力の計測、ナノレベルでの精密な位置決め及び本研究でのAFMを用いたマニピュレーションに関して述べている。 第4章は「System Part II:Macro World(システムII:マクロ世界)」と題し、遠隔制御で重要な課題であるオペレータへの感覚の提示に関して述べている。マイクロ/ナノ世界を視覚化し、力の感覚をフィードバックするハプティックタイプのシステムを提案している。 第5章は「System Part III:Macro to Micro/Nano World(システムIII:マクロ世界からマイクロ/ナノ世界へ)」と題し、第3章および第4章を結ぶ異なるスケール間での遠隔制御に関して述べている。マイクロ/ナノ世界の知見を基に仮想インピーダンスを用いた制御系を提案している。 第6章は「Application I:Tele-Touching to Surfaces at the Micro/Nano Scale(応用I:マイクロ/ナノスケールでの表面との遠隔接触)」と題し、AFMのカンチレバーと表面との間に働くVan der Waals Forces,Capillary Forces,Electrostatic Forces等を正確にモデリングしシミュレーションを行っている。また、接触時におけるモデルを幾つか検討し、シミュレーションおよび実験からMDモデルを採用している。さらに、これらのモデルを用いて視覚および力覚に働きかける仮想現実感シミュレータを構築し、本題のTeleoperated 2-D Micro/Nanomanipulation Using Atomic Force Microscopeを実現し、表面との接触に関して実験を通して検討を行っている。 第7章は「Application II:Controlled Pushing of Micro/Nanoparticles (応用II:マイクロ/ナノ粒子のプッシング制御)]と題し、マイクロ/ナノ粒子をプッシングする際に働く力を正確にモデリングし、2次元で自由に動かすための検討を行っている。実際に直接遠隔制御する方法とタスクベースで遠隔制御する方法を提案し、実験により有効性を示している。更に、視覚とのキャリブレーション、トライボロジーに関して詳細な検討を行っている。 第8章は「Conclusion(結論)」であり、本研究で得られた成果をまとめ、残された問題と今後の研究方向を述べている。 以上を要するに、本論文はAFMをナノ世界におけるロボットマニピュレータとして用いることを提案し、人間が存在するマクロ世界とナノ世界を結ぶテレマニピュレーションに関するモデリングを定量的に行いAFMマニピュレータを使ってマイクロ/ナノレベルでの力フィードバックを用いた表面接触、マイクロ粒子の2次元操作を実現したものであり、電気工学特にロボット工学に貢献すること大である。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |