学位論文要旨



No 114753
著者(漢字) シッティ,メティン
著者(英字) Sitti,Metin
著者(カナ) シッティ,メティン
標題(和) 原子間力顕微鏡を用いたマイクロ/ナノ・テレマニピュレーション・システムに関する基礎研究
標題(洋) Teleoperated 2-D Micro/Nanomanipulation Using Atomic Force Microscope
報告番号 114753
報告番号 甲14753
学位授与日 1999.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4523号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 橋本,秀紀
 東京大学 教授 中谷,一郎
 東京大学 教授 池内,克史
 東京大学 教授 荒川,泰彦
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 助教授 堀,洋一
 東京大学 講師 年吉,洋
内容要旨

 本論文の主眼は、マクロ世界とマイクロ/ナノ世界の間に存在する、マニピュレーションとインタラクションにおける障壁の高さを下げることを目的として、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)を用いた、マイクロ/ナノ粒子の遠隔操作型2次元プッシングとマイクロ/ナノスケールでの接触インタラクションにある。この目的のために遠隔マイクロ/ナノマニピュレーションというシステムを提案する(図1)。このシステムでは、AFMをマイクロ/ナノマニピュレータとして、さらには、3次元ナノスケールのトポロジーセンサー、あるいはマイクロ/ナノカセンサとして利用する。AFMとして、開構造のAFMシステムをピエゾ抵抗カンチレバーとセンサ集積の閉ループXYZポジショナーとを用いて自作した。システムのマクロ世界の部分では、バーチャル・リアリティを基礎とした視覚および力覚提示ユーザインタフェースが利用される。これによって、AFMのカンチレバーの動作は直接遠隔操作制御、あるいはタスクに基づいた遠隔操作制御によって制御される。AFM走査データの画像はインタラクティブに提示される。さらに、自作した1自由度ハプティック・デバイスは、実時間マイクロ/ナノスケール力覚/触覚フィードバックとAFMカンチレバーの動作コマンドの生成のために用いられる。マクロ世界とマイクロ/ナノ世界の間を結ぶために、スケーリング効果とバンド幅効果を考慮に入れた、スケールド・バイラテラル遠隔操作制御系を提案する。これらの制御系では、バーチャル・インピーダンスと力覚反射位置サーボ制御系アプローチを用いる。力と位置の情報に対してスケーリング・ファクタの選択方法を提案する。

図1 テレ・マイクロ/ナノマニピュレーション・システム構成。

 AFMカンチレバーの探針を使うことで、機械的な接触、プッシュ/プル、カット、ドリルなどいくつかの1次元、2次元マニピュレーションがマイクロ/ナノスケールで可能となる。遠隔マイクロ/ナノマニピュレーション・システムではプッシング操作と接触インタラクションに焦点をあてる。これらの応用のために、連続体の力学モデルを用いた、AFMの動的モデルと制御やマイクロ/ナノスケールの力のモデリングを提案する。マイクロ/ナノ粒子のプッシングは2つの観点で利用される。それは、試料上の粒子の2次元位置決めと組み立てと粒子と試料の間のインタフェースのトライボロジー的性質である。プッシング実験として、金でコーティングされた2、1、0.48マイクロメータ・サイズのラテック粒子がシリコン試料上におかれ、ラテック粒子とシリコン試料との間の摩擦を伴う挙動を大気中で観察する。純粋な滑べり、スティックスリップ、回転のような異なる挙動も観測される。さらに、切断力の精密な値が測定される。接触実験では、シリコンあるいはマイカ表面上の選択した点の遠隔コンプライアンス・フィードバックとシリコン・エッチング模様の遠隔触覚フィードバックが実現される。これらの実験から、本システムがマイクロ/ナノスケールでのプッシングと接触という応用に対して有効であること、さらにはモデル化されたダイナミクスと力が実験結果と一致することが示せた。

審査要旨

 本論文は「Teleoperated 2‐D Micro/Nanomanipulation Using Atomic Force Microscope(原子間力顕微鏡を用いたマイクロ/ナノ・テレマニピュレーション・システムに関する基礎研究)」と題し8章からなっており、測定器として使われているAFM(原子間力顕微鏡)をナノ世界におけるロボットマニピュレータとして用いることを提案し、人間が存在するマクロ世界とマイクロ/ナノ世界を結ぶテレマニピュレーションを提案しシュミレーション及びAFMマニピュレータを使ってマイクロ/ナノレベルでの表面接触、マイクロ/ナノ粒子の2次操作を実現した研究をまとめたものである。

 第1章は「Introduction(序論)」であり、本研究の目的と課題を明らかにし、本論文の構成を示している,マイクロ/ナノマニピュレーションがロボットの新しい分野として必要であることを示し、AFMを用いることがその一つのアプローチであることを述べている。また、今後の発展方向および応用分野に関しても言及している。

 第2章は「Tele‐Micro/Nanomanipulator System Setup(遠隔マイクロ/ナノマニピュレーションシステム)」と題し、本研究の中心となるTele-Micro/Nanomanipulator Systemの概要を示し、マイクロサイズを対象としたSystemIおよびナノサイズを対象とし仮想現実感技術を用いたSystemIIの構成に関して述べている。

 第3章は「System Part I: Micro/Nano World(システムI:マイクロ/ナノ世界)」と題し、マイクロ/ナノ世界で観測器及びマニピュレータとなるAFMの原理を解説し、マイクロ/ナノレベルでの力の計測、ナノレベルでの精密な位置決め及び本研究でのAFMを用いたマニピュレーションに関して述べている。

 第4章は「System Part II:Macro World(システムII:マクロ世界)」と題し、遠隔制御で重要な課題であるオペレータへの感覚の提示に関して述べている。マイクロ/ナノ世界を視覚化し、力の感覚をフィードバックするハプティックタイプのシステムを提案している。

 第5章は「System Part III:Macro to Micro/Nano World(システムIII:マクロ世界からマイクロ/ナノ世界へ)」と題し、第3章および第4章を結ぶ異なるスケール間での遠隔制御に関して述べている。マイクロ/ナノ世界の知見を基に仮想インピーダンスを用いた制御系を提案している。

 第6章は「Application I:Tele-Touching to Surfaces at the Micro/Nano Scale(応用I:マイクロ/ナノスケールでの表面との遠隔接触)」と題し、AFMのカンチレバーと表面との間に働くVan der Waals Forces,Capillary Forces,Electrostatic Forces等を正確にモデリングしシミュレーションを行っている。また、接触時におけるモデルを幾つか検討し、シミュレーションおよび実験からMDモデルを採用している。さらに、これらのモデルを用いて視覚および力覚に働きかける仮想現実感シミュレータを構築し、本題のTeleoperated 2-D Micro/Nanomanipulation Using Atomic Force Microscopeを実現し、表面との接触に関して実験を通して検討を行っている。

 第7章は「Application II:Controlled Pushing of Micro/Nanoparticles (応用II:マイクロ/ナノ粒子のプッシング制御)]と題し、マイクロ/ナノ粒子をプッシングする際に働く力を正確にモデリングし、2次元で自由に動かすための検討を行っている。実際に直接遠隔制御する方法とタスクベースで遠隔制御する方法を提案し、実験により有効性を示している。更に、視覚とのキャリブレーション、トライボロジーに関して詳細な検討を行っている。

 第8章は「Conclusion(結論)」であり、本研究で得られた成果をまとめ、残された問題と今後の研究方向を述べている。

 以上を要するに、本論文はAFMをナノ世界におけるロボットマニピュレータとして用いることを提案し、人間が存在するマクロ世界とナノ世界を結ぶテレマニピュレーションに関するモデリングを定量的に行いAFMマニピュレータを使ってマイクロ/ナノレベルでの力フィードバックを用いた表面接触、マイクロ粒子の2次元操作を実現したものであり、電気工学特にロボット工学に貢献すること大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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