機能性合金の中には、従来の溶製鋳造法による作成困難なものが少なくない。特に、ナノ構造を有する2次粒子が母相中に微細分散したナノグラニュラー材料は、気相合成による製造にも困難が伴うため、固相での創製プロセスを開発する必要がある。 本論文では、反復塑性変形・流動による混合・微細化、合金化を指導原理とする新しい機械的合金化手法としてのバルクMA法を用い、ナノグラニュラー材料の固相創製、成形加工法を開拓することを目的とする。対象材料として、ナノ積層構造およびナノグラニュラー構造で巨大磁気抵抗(GMR)を示すCo-Cu系を選択し、元素混合粉末からのナノグラニュラー材料の固相創製、成形加工法を研究した。内容は大別して5つよりなる。 第1はバルクMAを用いての元素混合粉末からのナノグラニュレーション・プロセスの解明であり、XRD、磁化測定により、バルクMAにおける反復サイクル数増加に伴うCu(Co)不規則固溶体の創製、超常磁性状態の創出を発見した。特に超常磁性相を出発とするナノグラニュラー材料創製は、本アプローチが最初である。第2はアニーリングによる磁気特性回復現象の解明であり、出発材料のサイクル数に応じて磁化回復温度が低減し、より低い温度でのアニーリングで磁化が回復することを見出した。特に興味深い点として、磁性回復は、磁化回復で記述されるCoクラスターのCu母層中へのナノ析出と保持力回復で記述される残留Coクラスターの成長との競合プロセスとして考えられることである。 第3は透過電子顕微鏡などを利用した微細組織観察、Coクラスター径の解析であり、磁気特性回復より求めたCoクラスター径がほぼ実際の微細組織内のCoクラスター径を表現していることを確認した。なお、Cu母中にナノ分散したCo粒子径を直接観察することは難しく、EELSスペクトル差を利用する方法ならびに統計平均化を利用する方法を提案し、その有用性を確認した。また母相中にナノ析出するCoクラスターは母相と同様のFCC構造であり、磁気特性回復に伴うなの析出はコヒーレントであることも確認した。第4はナノ析出条件のGMRからの検討であり、バルクMA条件、保持温度、保持時間を変化させて、より高いGMRを達成する条件を探査した。その結果、Coクラスター成長が顕著にならない磁気回復温度近傍の低温アニーリング条件が最適であることが推察された。特に、磁化回復が優先し、保持力回復が生じていない温度領域での最適化が望まれる。第5はGMRに関する磁気異方性の制御性に関する検討であり、そのために新たに冷間-熱処理-温間圧延によるナノグラニュラー・シート材料成形法を開発し、相対密度95%T.D.以上のバルクサンプルの創製に成功した。圧延平行方向のGMR値に比較して圧延直交方向のGMR値は約20%大きくなることを確認した。現行のシート圧延における圧下率が45%程度であることを考えると、Coクラスターの扁平化は大きく進展しないものと考えられ、CIP-CPPの差異ほどにはGMRに差が生じないものと推察される。 以上より、バルクMAを基調とする固相創製法ならびに材料成形加工法により、ナノ構造を有する相が微細分散し、GMRならびに磁気抵抗異方性などナノ構造固有の機能性をも有するナノグラニュラー材料を、種々の形態のバルク体試料として生産できることが明らかにした。 |