学位論文要旨



No 114767
著者(漢字) 周,成
著者(英字)
著者(カナ) シュウ,セイ
標題(和) バルクMAによる機能性合金の創製とその応用
標題(洋)
報告番号 114767
報告番号 甲14767
学位授与日 1999.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4537号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 相澤,龍彦
 東京大学 教授 梅田,高照
 東京大学 教授 木村,薫
 東京大学 助教授 市野瀬,英喜
 東京大学 助教授 近藤,高志
内容要旨

 機能性合金の中には、従来の溶製鋳造法による作成困難なものが少なくない。特に、ナノ構造を有する2次粒子が母相中に微細分散したナノグラニュラー材料は、気相合成による製造にも困難が伴うため、固相での創製プロセスを開発する必要がある。

 本論文では、反復塑性変形・流動による混合・微細化、合金化を指導原理とする新しい機械的合金化手法としてのバルクMA法を用い、ナノグラニュラー材料の固相創製、成形加工法を開拓することを目的とする。対象材料として、ナノ積層構造およびナノグラニュラー構造で巨大磁気抵抗(GMR)を示すCo-Cu系を選択し、元素混合粉末からのナノグラニュラー材料の固相創製、成形加工法を研究した。内容は大別して5つよりなる。

 第1はバルクMAを用いての元素混合粉末からのナノグラニュレーション・プロセスの解明であり、XRD、磁化測定により、バルクMAにおける反復サイクル数増加に伴うCu(Co)不規則固溶体の創製、超常磁性状態の創出を発見した。特に超常磁性相を出発とするナノグラニュラー材料創製は、本アプローチが最初である。第2はアニーリングによる磁気特性回復現象の解明であり、出発材料のサイクル数に応じて磁化回復温度が低減し、より低い温度でのアニーリングで磁化が回復することを見出した。特に興味深い点として、磁性回復は、磁化回復で記述されるCoクラスターのCu母層中へのナノ析出と保持力回復で記述される残留Coクラスターの成長との競合プロセスとして考えられることである。

 第3は透過電子顕微鏡などを利用した微細組織観察、Coクラスター径の解析であり、磁気特性回復より求めたCoクラスター径がほぼ実際の微細組織内のCoクラスター径を表現していることを確認した。なお、Cu母中にナノ分散したCo粒子径を直接観察することは難しく、EELSスペクトル差を利用する方法ならびに統計平均化を利用する方法を提案し、その有用性を確認した。また母相中にナノ析出するCoクラスターは母相と同様のFCC構造であり、磁気特性回復に伴うなの析出はコヒーレントであることも確認した。第4はナノ析出条件のGMRからの検討であり、バルクMA条件、保持温度、保持時間を変化させて、より高いGMRを達成する条件を探査した。その結果、Coクラスター成長が顕著にならない磁気回復温度近傍の低温アニーリング条件が最適であることが推察された。特に、磁化回復が優先し、保持力回復が生じていない温度領域での最適化が望まれる。第5はGMRに関する磁気異方性の制御性に関する検討であり、そのために新たに冷間-熱処理-温間圧延によるナノグラニュラー・シート材料成形法を開発し、相対密度95%T.D.以上のバルクサンプルの創製に成功した。圧延平行方向のGMR値に比較して圧延直交方向のGMR値は約20%大きくなることを確認した。現行のシート圧延における圧下率が45%程度であることを考えると、Coクラスターの扁平化は大きく進展しないものと考えられ、CIP-CPPの差異ほどにはGMRに差が生じないものと推察される。

 以上より、バルクMAを基調とする固相創製法ならびに材料成形加工法により、ナノ構造を有する相が微細分散し、GMRならびに磁気抵抗異方性などナノ構造固有の機能性をも有するナノグラニュラー材料を、種々の形態のバルク体試料として生産できることが明らかにした。

審査要旨

 機能性合金の中には、従来の溶製鋳造法による作成が困難なものが少なくない。特に、ナノ構造を有する2次粒子が母相中に微細分散したナノグラニュラー材料は、気相合成による製造にも困難が伴うため、固相での創製プロセスを開発する必要がある。本論文では、反復塑性変形・流動による混合・微細化、合金化を指導原理とする新しい機械的合金化手法としてのバルクMA法(Bulk Mechanical Alloying)を用い、ナノグラニュラー材料の固相創製法、成形加工法の開拓を目的とする。対象材料として、人工格子に代表されるナノ積層構造およびナノグラニュラー構造で巨大磁気抵抗(GMR)を示すCo-Cu系を選択し、元素混合粉末からのナノグラニュラー材料の固相創製、成形加工を研究している。論文は8章よりなる。

 第1章は序論であり、巨大磁気抵抗効果、GMRを発現する材料系の特徴、GMRの異方性についてサーベイを行うとともに、固相材料創製法として機械的合金化(Mechanical Alloying)に関する研究の動向についてまとめ、バルクMA法の長所について一般的な視点から記述している。第2章はバルクMA法による強制固溶体の作製である。バルクMAを用いての元素混合粉末からのナノグラニュレーション・プロセスの解明を目的として、XRD、磁化測定により、バルクMAにおける反復サイクル数増加に伴うCu(Co)不規則固溶体の創製、超常磁性状態の創出を発見している。特に液体窒素温度においても保持力を喪失する、超常磁性相を固相材料創製で発現できること、その超常磁性相を出発としてナノグラニュラー材料創製法を設計できるのは、本アプローチが最初である。第3章はナノ分散型合金の作製であり、保持温度を変化させたVSMならびに保持時間をパラメータとしたアニーリングにより、磁気特性回復現象を実験的に記述している。前述しているように、バルクMAにおける単調な微細混合化・合金化に対応して、サイクル数に応じて磁化回復温度は低減し、より低い温度でのアニーリングで磁化が回復することを見出している。特に興味深い点として、磁性回復は、磁化回復で記述されるCoクラスターのCu母相中へのナノ析出と保持力回復で記述される残留Coクラスターの成長との競合プロセスとして考えられることであり、バルクMAによる微細組織・保持温度によって磁性回復挙動は比較的大きく変化することを明らかにしている。第4章はナノ分散合金の巨大磁気抵抗効果であり、ナノ析出条件のGMRからの検討を行っている。バルクMA条件、保持温度、保持時間を変化させ、より高いGMRを達成する条件を探査し、その結果、Coクラスター成長が顕著にならない磁化回復温度近傍の低温アニーリング条件が最適であることを示している。特に、磁化回復が優先し、保持力回復が生じていない温度領域での最適化が望まれるとしている。第5章はCo粒子の電子顕微鏡観察であり、透過電子顕微鏡などを利用した微細組織観察、Coクラスター径の解析を中心に研究を行っている。その結果、磁気特性回復より求めたCoクラスター径が、ほぼ実際の微細組織内のCoクラスター径を表現していることを明らかにしている。なお、Cu母中にナノ分散したCo粒子径を直接観察することは難しく、統計平均化を利用する方法ならびにエネルギーフィルター電子顕微鏡観察法を提案し、その有用性を確認している。また母相中にナノ析出するCoクラスターは母相と同様のFCC構造であり、磁気特性回復に伴うナノ析出はコヒーレントであることも明らかにしている。第6章は磁気抵抗効果の異方性であり、GMRに関する磁気異方性の制御性を明らかにするために、新たに冷間-熱処理-温間圧延によるナノグラニュラー・シート材料成形法を開発し、相対密度95%T.D.以上のバルクサンプルの創製に成功している。圧延平行方向のGMR値に比較して圧延直交方向のGMR値は約20%大きくなることを確認している。現行のシート圧延における圧下率が45%程度であることを考えると、Coクラスターの扁平化は大きく進展しないものと考えられ、一般的に指摘されているCIP-CPPの差異ほどにはGMRに差が生じないものと推察している。第7章は考察であり、ナノグラニュラー材料を含む、ナノ構造を有する機能性合金の生産技術としてのバルクMA法、ならびにGMRに与えるプロセス効果に関して総合的な検討を加えている。第8章は総括である。

 以上、機能性合金の1つであるナノグラニュラー材料を固相で生産し得る手法として、バルクMAを基調とする固相創製法ならびに材料成形加工法を新しく開発し、Coクラスターがナノ構造を有する相としてCu母相中に微細分散するバルク材料を創製できること、そのバルク材が他のプロセスで得られると同等あるいはそれ以上の巨大磁気抵抗値を示すこと、ならびに強加工を含む材料成形加工により、磁気抵抗異方性の創出などナノ構造固有の機能性をも付与できることなどを明らかにしており、材料プロセス工学に寄与するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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