本論文は「SiC繊維強化Ti-15-3基複合材料の高温疲労破壊機構に関する研究」と題し、9章から構成されている。近年、連続SiC繊維強化Ti-15-3合金マトリックス複合材料は高温構造材料への適用が考えられており、切り欠きのない構造部材の高温疲労特性を把握することが急務になっている。本論文では前記複合材料の550℃付近での複合材料の微視的疲労損傷の理解と疲労寿命の推定方法の確立を試みたものである。 第1章では、現在までに高温用構造部材への使用を目的として研究・開発されてきたSiC繊維強化Ti合金基複合材料の特徴および力学特性を示した。特に疲労特性に関する現状を詳細に説明するとともに、現状での問題点を明らかにし、本論文の目的を明確にしている。 第2章では、複合材料の高温疲労過程中に生じる微視損傷過程を走査型電子顕微鏡を用いてその場観察した。同時に、ヒステリシス曲線の除荷弾性率の変化に着目し、巨視的損傷挙動の評価を行った。これらの結果を融合し、巨視的挙動を微視的破壊挙動から説明することを試み、その関連性を明確にした。また、界面の摩耗現象が試験温度によって異なることや550℃での疲労寿命は室温よりも長くなるという新しい現象も見い出している。 第3章では、第2章で観察された繊維の破断部近傍の有限要素法解析を行い、初期疲労過程でマトリックス中に発生するき裂の進展に対する、マトリックスの塑性変形挙動および界面滑りの影響について解析した。その結果から、界面せん断滑り応力が小さくなると、き裂先端部でのマトリックス塑性ひずみの蓄積が減少することにより、マトリックスき裂発生寿命が向上することを明らかにした。同時に、界面滑り長さが負荷繰り返し数の増加に伴って長くなる現象がマトリックスき裂成長の防止に有効に作用していることを明らかにした。 第4章では、高温疲労による界面滑りで生じた磨耗粉の組成を電子線マイクロアナライザーを用いて調べ、それがSiC繊維上に施されているコーティング層の磨耗によるものであることを証明した。さらに、界面磨耗は疲労繰り返し数の増加に伴い進展し、破断繊維近傍には粒子状と糸くず状の磨耗粉の混合したものが観察され、滑り端部近傍では粒子状の磨耗粉のみが認められることを初めて明らかにした。そして、この結果は、滑り界面での相対滑り長さに大きく依存することを証明した。 第5章では、第4章で明らかとなった界面磨耗現象の機構をさらに詳細に検討するため、疲労後の試験片から磨耗した繊維を抽出し、原子間力顕微鏡を用いて繊維表面の様子を観察し、界面で生じたコーティング層の疲労磨耗機構を検討した。その結果、繊維破断近傍でのアブレシブ磨耗が生じるためのプロセスゾーンが存在すること、界面磨耗の進行は界面滑り長さを増加させる作用があることを明らかにした。これらの現象を、界面の表面形態から解析的に求め、界面せん断滑り応力との関連性を定量的に示した。 第6章では、SiC繊維からのラマンスペクトルピークの応力依存性を利用して疲労試験前後の繊維応力分布を求めた。実験的に求めた繊維軸方向の応力分布は理論的に考えられる分布と良く一致した。この結果を用いて、繊維軸方向の応力分布を求め、理論解との併用により、界面せん断滑り応力が測定可能であることを示した。この測定方法の確立により、磨耗形態が異なる繊維位置での滑り長さを推定することが可能となった。 第7章では、複合材料の界面せん断応力の温度依存性を調べ、高温疲労損傷した界面の力学特性の評価を行った。まず、室温から高温までの界面せん断力学特性を評価するために走査型電子顕微鏡内で高温中その場観察できるプッシュアウト装置を新たに開発した。高温では界面での繊維半径方向の界面圧縮応力が減少するためにせん断滑り応力は減少すること、疲労前に比べ高温疲労後の界面せん断滑り応力は滑り界面に生じる摩擦の影響で小さくなることを実験的に明らかにした。これらの結果を用いて、前章までに得られた微視損傷機構についての定量的解釈を可能にしている。 第8章では、複合材料中に亀裂が発生、進展する微視破壊過程を第2章から第7章で得られた知見をもとにモデル化し、複合材料の疲労寿命予測を行うための理論を構築した。構築した理論は実験から求められる複合材料の疲労寿命を説明することを可能にした。この理論により、複合材料の実用に重要な疲労寿命を界面せん断滑り応力の変化と構成素材の特性のみから予測することが始めて可能になった。 第9章は総括であり、本論文で得られた結果をまとめている。 以上を要するに、本論文では、SiC繊維強化Ti-15-3基複合材料の高温疲労に関して、その微視、巨視損傷機構、界面磨耗機構および界面の力学特性の定量評価を行い、その結果をもとに、高温疲労寿命の予測を理論的に可能にしたものであり、複合材料工学に関する学問分野の進歩発展に寄与するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |