本論文は、「Spray Combustion and Turbulence Interaction(噴霧燃焼と乱流との相互作用)」と題し、噴霧燃焼現象の解明を目的として、特に乱流特性の変化が噴霧燃焼に与える影響について調べた結果をまとめたものであり、9章からなっている。 第1章は、「序論」で、噴霧燃焼に関する研究の必要性ならびに乱流との相互作用に着目した理由について述べ、本研究の位置づけを行っている。 噴霧燃焼は、液体燃料を用いる種々のエンジンや燃焼器で広く用いられている燃焼形態である。噴霧燃焼は、噴霧の噴射、分散、蒸発、混合および燃焼という多数のプロセスから構成される複雑な現象であり、解決すべき問題が多数残されている。特に噴霧噴射時に必ず発生する乱流の影響は重要であるにもかかわらず未解明な点が多く、本研究ではこの点の解明を主眼とした。 第2章は、「実験装置」で、本研究で用いた噴霧燃焼装置について述べている。 条件を的確に制御し、種々の計測を正確に行うために、装置はシンプルなものとした。噴霧は2流体ノズルで発生させ、ノズル直後に種々のグリッドサイズの金網を挿入することで乱れの特性を変化させた。燃料は、噴霧燃焼器で広く使われているケロシンを用いた。 第3章は、「乱流特性の測定」で、装置で発生させた乱流特性の測定結果について述べている。 熱線流速計による測定結果を解析すると、本装置においては、挿入する金網のメッシュサイズを小さくすると、金網でのエネルギー損失が増加するため平均流速と乱流強度が減少するが、乱れの空間スケールはほとんど変化しないことが明らかになった。 第4章は、「乱流特性の変化が噴霧中の燃料液滴のサイズおよび空間分布に及ぼす効果」で、噴霧中の液滴の測定結果について述べている。 レーザーシートを用いたミー散乱光の観測およびPDPA装置(フェーズドップラー粒径・粒子速度測定装置)による測定結果によると、金網のメッシュサイズを小さくすると、液滴の粒径分布には大きな変化は無いが、液滴数密度は減少する。これは蒸発が促進されていることを示している。さらに、液滴数密度の時間変動に着目すると、メッシュサイズが大きくなると液滴数密度分布の不均一性が強まること、すなわち液滴が集合し高濃度液滴群(Cluster)の形成が促進されることが明らかになった。 第5章は、「乱流特性の変化が温度および濃度分布に及ぼす効果」で、形成される噴霧火炎の温度分布および化学種濃度分布の測定結果について述べている。 金網のメッシュサイズが小さくなると、火炎長さが増大し、半径方向分布において中心軸付近で温度、酸素濃度が低下する。これは、気体燃料の火炎に類似しており、液滴の蒸発が促進された影響であると推定される。 第6章は、「燃料液滴と流れの変動との相互作用」で、乱流が液滴分散および蒸発に与える影響について論じている。 まず、流れの変動に対する液滴の追従性を、流れ場の代表時間と液滴の応答時間を計算して評価した。その結果、今回の実験におけるいずれの条件においても、液滴の応答時間は流れ場の代表時間より2桁以上小さく、液滴は流れにほぼ追従することになり、乱流特性の変化が液滴分散に与える影響について説明できない。そこで、乱流は渦流であることに着目し、旋回流への粒子の追従性について検討した。旋回流への液滴の追従性は、遠心力と抵抗力の比である遠心ストークス数を導入して整理した。これによると、金網のメッシュサイズが大きくなると乱流強度が増大するため遠心ストークス数が大きくなり、液滴は渦流に追従せず渦の外側に集中することになる。これは高濃度液滴群の形成を促し液滴の蒸発を阻害すると考えられ、実験での測定結果と一致する。 第7章は、「乱流がGroup Combustion Numberに及ぼす効果」で、液滴群燃焼状態を表すパラメータであるGroup Combustion Numberを見積もった結果について述べている。 PDPAにより計測した高濃度液滴群の発生状態から、Group Combustion Numberの見積もりをおこなった。その結果、金網のメッシュサイズが大きくなるとGroup Combustion Numberが大きくなる、すなわち高濃度液滴群の燃焼への寄与が強くなる傾向があることが確認できた。 第8章は、「結果の一般性について」で、温度、圧力、燃料の種類が変化した場合における、本研究結果の適用可能性について論じている。 第9章は、「結論」で、本研究の結果を総括している。 以上要するに、本研究では、噴霧燃焼と乱流との相互作用について調べ、乱流特性の変化が液滴の挙動および燃焼状態に及ぼす影響を詳細に明らかにするとともに、液滴の渦流れへの追従性の変化という新しい視点を導入することにより噴霧燃焼における液滴分散のメカニズムを解明することに成功している。この結果は、噴霧燃焼装置の性能向上および最適制御をするための基礎資料として有効であり、燃焼学ならびに化学システム工学の進展に貢献するところ大である。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認める。 |