本論文は、「A Framework for Intelligent Workflow Management」、知的なワークフロー管理の枠組と題し、英文で書かれ9章からなる。ビジネスの諸活動をコンピュータで支援するシステムを構成する場合、従来は、それぞれの個別目的に合わせてコンピュータを組み合わせて設計することが多く、要素システムの間で交わされるメッセージ内で用いる用語の不一致は、設計時に固定して一意に定めることによって対処するのが普通であったため、拡張性に乏しく、また設計が困難であった。本論文は、こういう状況を抜本的に改善することを目的に、より高レベルなビジネスプロセスの記述からシステムを設計する手法を論じたものである。 第1章「Introduction and Overview」は、本研究の目的をまとめたものである。 第2章「Contextual Background」は、ビジネスを取り巻く現状をサーベイしたもので、インターネットの発達によるネットワーク化社会、特に企業活動がネットワーク化されていること、また、ビジネスプロセスの刷新を目指した再構築化などについて述べるとともに、現状の技術や理論として、ワークフロー管理技術、ERPソフトウエア、及び知識工学の現状をまとめている。 第3章「Related Research」は、本論文に直接関係の深い他の研究をまとめたもので、知識共有の研究では、分散人工知能、エージェント、エンタープライズプロジェクト、KSE、知識コミュニティ、FIFAなどの研究を取り上げ、分散オブジェクトの研究では、CORBAとOMA、エンタープライズJava Beansを取り上げている。しかし、これらはいずれも、要素技術であったり、概念としての研究であり、ビジネスプロセスを実現するための総合的且つ具体的なシステムからは程遠いものであることを述べている。 第4章「Workflow Management」では、本論文で用いる用語を定義し、システム設計時、システム利用時、それぞれにおけるワークフロー管理に必要な機能を明らかにするとともに、システムの参照モデルを定義している。すなわちシステムは、ワークフローの定義モジュール、ワークフローデータベース、ワークフロー実行サービス、管理システムなどからたり、ワークフロー実行サービスの中は、ワークフロー解釈システムと、相互運用性支援システムとから構成される。 第5章「System Model」は、本論文で提案しているシステムの全体像を与えたもので、抽象レベルによって上位から、ワークフロー層、知識共有層、ワークフロー要素層の3層構造からなるシステムである。これらの層それぞれはまた、それを実現する機能レベルによって、システム定義、抽象マシン、実装の3つに分けられている。 第6章「Definition Language and Tools」は、提案システムの定義機能について述べたもので、その最も抽象レベルの高いワークフロー定義では、ワークフローをサブワークフローの組み合わせとして記述し、サブワークフロー自身は幾つかのアクティビティによって表現される。次の抽象レベルにおける記述は、知識共有のレベルであるが、そこでは、知識保持者間の会話の記述、知識自身の記述、知識や通信が基づいている概念の記述を行いオントロジーが用いられ、これによって、各サブシステム間で交わされるメッセージ内で用いられる用語の統一が明示的になり、システム全体のコンシステンシが保ち易くなっている。また、最も抽象レベルの低いワークフロー要素管理の記述では要素インタフェースと名前の定義が行われる。 第7章「The Abstract Machine Specification」は、システム定義で定義されたワークフローを解釈実行するための環境で、多くのモジュールそれ自身、及びそれらの機能とインタラクションを記述する。この部分の最も抽象度の高いレベルは、ワークフロー実行システムで、ワークフロー解釈システム、ワークフローストア、要素マネージャなどからなる。これらの動作は、実際上は、複数の通信しあうエージェントによって実現され、それらのエージェントは要素プローカー仕様によって規定される。 第8章「Comparison」は、筆者の提案システムと、他の研究や技術との比較を行ったもので、他の研究は単なる概念的な提案で、本提案のようにシステム実装まで可能なシステムとなっていないこと、また、それらは単なる要素技術であり、本提案システムで利用する下位の技術であることなどを明らかにし、本研究のユニークな点を主張している。 第9章「Summary and Conclusions」は、この論文の要約と結論である。 以上、これを要するに本論文は、ビジネスプロセスをコンピュータや通信ネットワークで支援するシステムを構築する場合、それをワークフローシステムと捉え、ビジネスプロセスの内容に近い高レベルな記述からスタートしてシステマッティックに設計する手法を与えたもので、情報工学上貢献する所少なくない。 よって、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |