繊維強化樹脂複合材料(FRP)においては,シランカップリング剤を含む繊維表面処理の選択が、繊維と樹脂の界面での有効な応力伝達および最終的な複合材料特性に重要な因子である。しかしながら、界面特性が応力伝達および複合材料特性に及ぼす影響については十分に明らかにされていないのが現状である。とくに、繊維表面処理は界面強度を変化させるばかりでなく、繊維強度も変化させることから、複合材料特性の向上を目ざした表面処理の最適化は困難な問題である。 本研究では、5種類の異なる繊維表面処理を施したガラス繊維(GF)を用いて、ガラス繊維/エポキシ複合材料(GFRP)の力学特性に及ぼす繊維/樹脂界面と繊維強度の影響を系統的に調べるとともに、GF単繊維埋込みエポキシ試験片(Single Fiber Composites,SFC)の引張り負荷中の繊維の多重破断プロセスの実験結果を理論モデルを用いて解析することにより、複合材料中の単繊維強度値とそのばらつきを求めた。さらにこの結果を用いて一方向GFRP複合材料の引張強度を予測し、複合材料引張強度と界面強度や界面損傷形態や繊維強度との関係を求めることにより、GFRPの力学特性に及ぼすGF/樹脂界面と繊維強度の影響を系統的に明らかにすることにより、表面処理の最適化の方法を示した。 第1章では,GFRPの繊維表面処理、繊維/樹脂界面に関するこれまでの基礎研究の概要とその問題点を解説し、本研究の目的を述べた。 第2章では、Micro-droplet法を用いて、GF/樹脂界面強度に及ぼす繊維表面処理の効果を調べた。界面せん断強度は処理剤の種類に大きく依存する。エポキシシラン処理したGFはエポキシ樹脂と反応してGF/樹脂界面に大きな接着性が生じる。アクリルシラン処理したGFはエポキシ樹脂と反応しないが、繊維表面の湿潤性を改善するため、界面強度も向上する。しかし、アミノシランや集束剤、潤滑剤を含む混合物については、GF/樹脂界面に大きな接着性が生じない。さらに、界面せん断強度への温度の影響が処理剤によって、異なることを明らかにした。 第3章では、同じくMicrodroplet法を用いて、GF/樹脂界面強度に及ぼす物理吸着シランと化学吸着シランの影響を調べた。エポキシシラン剤について高い界面強度を与える最適濃度が存在すること、および、物理吸着シランと化学結合シランを区別して最適化を行う必要性を明らかにした。 第4章では、異なる表面処理を施した繊維を用いたSFCの引張り負荷中の繊維の多重破断プロセスを実験的に求めるとともに、Curtinの理論モデルによるシミュレーションを行うことにより単繊維の多重破断プロセスを解析する新たな方法を提案した。これにより、GF/樹脂界面強度や繊維強度のWeibullパラメータの効果を直接的に表現することが可能となった。 第5章では、第4章で提案した方法を用いて、5種類の異なる表面処理を施したGFの、複合材料中の単繊維強度値とそのばらつきを求めた。図1にその例を示す。このようにして求めた値は、従来多く行われてきた単繊維引張り(Single Filament Tention,SFT)試験結果にWeibull分布を仮定して求めた値に比べ、繊維表面処理や繊維長さの効果は同様な傾向を示すものの、かなり低いことを明らかにした。 図1 実験の繊維破断数と解析の繊維破断数 第6章では、SFC試験で用いたと同じ繊維界面処理を施した繊維を用いた一方向GFRP複合材料を作製して、その繊維方向引張実験を行い、最終引張強度(UTS)と界面せん断強度や繊維強度のWeibullパラメータとの関係を考察した。表1に引張強度に及ぼす表面処理の効果を示す。アクリルシランを用いた一方向複合材の方が、最も高い界面せん断強度をもつエポキシシランを用いた一方向材よりも引張強度が高いことがわかる。これは、アクリルシランを用いると、繊維破断時に隣接する樹脂の破断とともに隣接繊維の界面剥離が生じることにより応力集中緩和されるというSFCを用いた観察結果により説明できる。 表1 一方向GFRP複合材料のUTS測定値と予測値 また、一方向GFRP複合材料のUTSに及ぼす繊維表面処理の効果を直接的に表すパラメータとして、次に示す新しいパラメータRefを提案した。Refは複合材料中の繊維強度の効率を表すパラメータであり、Vfは繊維含有率であり、fは平均繊維強度であり、UTSは測定されたUTS値である。 このパラメータを用いることにより、図2に示すように、GFRPの繊維強度の効率が界面強度に対して最大値を示すことがわかる。 図2 FRPに繊維強度の効率におよぼす界面強度の影響 第7章では、第6章の実験結果をともに、一方向GFRP複合材料のUTSをCurtin-Takeda理論モデルを用いて解析した。同モデルでは、繊維強度Weibullパラメータと臨界繊維長さcより、一方向複合材料の臨界損傷寸法と全複合材料中のリンク寸法を求め、無次元化複合材料特徴強度mnと臨界繊維強度cにより、最終強度UTSは次式により与えられる。 5章で求めたSFT実験値とSFC実験値から求めた臨界繊維強度scより、Curtin-Takedaモデルに基づいて求めたUTSの解析結果を表1に示す。本論文で提案したSFC実験値を用いることにより、従来のSFT実験値を用いた場合に比べて大幅な改善が明らかとなった。しかしながら、界面せん断強度が低い材料に関しては、予測値は実験値より高く見積もることを明らかにした。図3に繊維体積含有率Vfの変化の効果を表す予測値と実験結果を示す。SFC実験値を用いたCurtin-Takedaモデルによって予測したUTSは、従来までの方法に比べて極めて優れた予測結果を与えることが明らかとなった。 図3 繊維含有率Vf一方向複合材料の最終強度(預測と実験結果) 第8章は本論文の総括であり、各章で得られた結果をまとめた。 以上をまとめると、本研究では、GF単繊維埋込みエポキシ試験片の引張り負荷中の繊維の多重破断プロセスの実験結果を理論モデルを用いて解析することにより、複合材料中の単繊維強度値とそのばらつきを求め、この結果を用いて一方向GFRP複合材料の引張強度を予測し、複合材料引張強度と界面強度や界面損傷形態や繊維強度との関係を求めることにより、GFRPの力学特性に及ぼすGF/樹脂界面と繊維強度の影響を系統的に明らかにすることにより、表面処理の最適化の方法を示した。 |