方法と結果1.cDNA cloningとmonoclonal抗体作製 実験動物及び様々な培養細胞を用いて本酵素の機能を解析するために、まず、rat及びmouseのII型PAF-AHのcDNA cloningを行った。すでに得られているヒトII型PAF-AHとの相同性を利用し、cDNAライブラリのscreening及びRT-PCR、5’Race法を用いて、rat II型PAF-AHのcDNAをcloningした。また、ESTに登録されたmouseのcloneからの情報を利用し、PCR法を用いてmouse II型PAF-AHのcDNAも得た。Rat及びmouseのII型PAF-AHはヒトII型PAF-AHとは約80%の相同性を示し、セリンエステラーゼのコンセンサス配列及びN末端のミリスチン酸結合モチーフなどII型PAF-AHの一次構造上の特徴がすべて保存されていた。また、ヒトII型PAF-AHの大腸菌recombinantタンパクを抗原として用い、様々なmonoclonal抗体を作製した。その中で、ヒトからmouseまで様々な動物種のII型PAF-AHに反応するmonoclonal抗体を単離する事ができた。
2.DTNB非感受性の変異タンパクの作製と解析 タンパク精製の時からII型PAF-AHはその活性がDTNBに感受性を示していたので、種間保存されているcysteine残基をserineに変えた様々な変異タンパクを作製し、DTNBに対する感受性の原因のcysteine残基を調べた。その結果、ratタンパクの83番目のcysteine残基の変異タンパクがDTNBに対する感受性を示さなくなった事が分かりII型PAF-AHのDTNBに対する感受性はCys83に起因している事が明らかになった。
図2.Cys83はDTNBに感受性を示す原因Cys残基である3.II型PAF-AHのアセチルトランスフェラーゼとしての機能解析 米国のLeeらにより、rat腎臓の膜画分にPAFのアセチル基を他のリゾリン脂質に転移する活性がある事が最近報告された(図3)。私はII型PAF-AHがrat腎臓に高く発現する事を観察していたので、本酵素がPAFのアセチル基の転移活性を持つか調べた。
図3.アセチルトランスフェラーゼ活性 LysoPEplasmalogenをacceptorとして用い、rat II型PAF-AHの大腸菌recombinantタンパクのアセチルトランスフェラーゼ活性を測定した。同時に細胞内PAF-AHのもう一つのアイソフォームであるI型の触媒サブユニット(1及び2)に対しても同様の実験を行った。その結果、II型PAF-AHだけがアセチルトランスフェラーゼとしての活性を有する事が明らかになった(図4)。さらに、Leeらが部分精製したアセチルトランスフェラーゼ標品はII型PAF-AHのmonoclonal抗体と反応した。これらの結果からアセチルトランスフェラーゼの本体が細胞内II型PAF-AHである事が明らかになった。
図4 II型PAF-AHだけがアセチルトランスフェラーゼとしての活性を有する4.アセチルハイドロラーゼとアセチルトランスフェラーゼ活性の分離 II型PAF-AHがアセチルハイドロラーゼとアセチルトランスフェラーゼの2つの活性を合わせ持つ事が分かったので、次に、様々な変異タンパクを作製し、2つの活性が分離できるかを調べた。その結果、2番目のGlyをAlaに変換したもの、120番目のCysをSerに置き換えたものは、アセチルトランスフェラーゼ活性だけがそれぞれ約50%低下した。さらに、両方を変えた変異タンパクではアセチルトランスフェラーゼ活性だけが約80%低下した。一方、アセチルハイドロラーゼの活性中心である236番目のSerをCysに変えた変異タンパクではアセチルトランスフェラーゼ活性も完全に失活した。以上の結果から、2つの酵素活性は活性中心は共通であるが、活性を示すのに必要な残基はある程度異なることが示唆された。特に、2番目のGlyをAlaに変換すると、ミリスチン酸が結合できなくなる事から、N末端のミリスチン酸がアセチルトランスフェラーゼ活性の発現に関与する事が示唆された(図5)。
図5.Mutationによるアセチルトランスフェラーゼ活性の変化5.Intactな培養細胞を用いたアセチルトランスフェラーゼ活性の検討 IntactなCHO細胞に放射標識したアセチル基を持つPAFを与えると、数時間以内に細胞内にPAF以外の新たな特定の脂質が標識される事が分かった。さらにII型PAF-AHを過剰発現させたIntactなCHO細胞に放射標識したアセチル基を持つPAFを与えると、数時間以内に細胞内にPAF以外の新たな特定の脂質が標識される事が分かった。さらにII型PAF-AHを過剰発現させたCHO細胞を用いると、その脂質の標識が大幅に増加された(図6)。これらの結果から、CHO細胞に取り込まれたPAFから細胞内のある脂質(acceptor)にアセチル基がdirectに転移される事、さらにこの反応がII型PAF-AHによって行われている事が示唆された。すなわち、intactな細胞においてもII型PAF-AHのアセチルトランスフェラーゼ活性が機能している事が分かった。
さらに、培養CHO細胞を細胞密度を低く培養した時とconfluentになった状態においてはPAFからのアセチル基を受け取る脂質が異なることが分かった(図7)。興味深いことに、細胞密度の増加に伴いアセチル基のacceptor脂質が変化する事と平行してII型PAF-AHの膜画分での増加が観察された。このように細胞がconfluentになりcontant inhibitionがかかった状態において、II型PAF-AHが膜画分へ移行する現象は、他の細胞種、例えば、Hela細胞、RBL-2H3細胞などでも観察された。
図表図6.IntactなCHO細胞を用いたアセチルトランスフェラーゼ活性 / 図7.細胞密度による細胞内アセチルトランスフェラーゼのacceptorの変化と膜画分の増加5.Rat腎臓内II型PAF-AHの分布 ヒト、ウシ、rat及びmouseにおけるII型PAF-AHの組織分布を調べた結果、これらの種に共通して、skeletal muscleでは発現が非常に低く、反対に腎臓では発現が高かった。そこで、rat腎臓におけるII型PAF-AHの分布を、得られたmonoclonal抗体を用いて免疫染色で調べた。その結果、II型PAF-AHは腎臓の中でも特に遠位尿細管の上皮細胞に高く発現している事が分かった。さらに、抗GBM(glomerular basement membrane)血清を投与し、CGN(crescentic glomerulonephritis)を誘導した腎炎モデルratの腎臓では、遠位尿細管の空が大きくはる現象に伴い、II型PAF-AHの発現もより高くなり、その発現範囲も広くなっていた。