本論文は"Study on the Formation of CaSO4 in Dry Flue Gas Desulfurization Process"(和訳「乾式脱硫プロセスにおける石膏生成に関する研究」)と題し、途上国に適合する新規乾式脱硫プロセスの開発を目的とし、高活性を有する新規脱硫剤の開発を行った研究をまとめたもので6章から成る。 第一章は本論文の研究の背景と既往の研究について概説を行った上で、本論文の研究目的とその構成を示している。 第二章においては乾式脱硫プロセスにおける石膏生成メカニズムを調べている。反応生成物をFTIRで分析した結果、300℃から600℃までの温度範囲でのCaOとSO2の反応生成物にCaSO4およびCaSO3の両方が存在することを示した。CaSO4の生成については、SO2(g)+CaO→CaSO3(R1)及び2CaSO3+SO2(g)→2CaSO4+1/2S2(g)(R2)の反応経路があることがわかった。R2の反応は従来この温度域では進行しないとされていたが、本研究により反応が進行することがわかった。 第三章においては主要な脱硫反応の速度論に関する研究を行っている。脱硫剤粒子を石英ウールに分散させ、熱天秤のバスケットに設置し、反応ガスSO2及びSO3を供給し、サンプル重量の時間変化から反応速度を決定した。R1,R2の反応速度及びCaOとSO3から生成したCaSO4反応速度の温度依存性を調べている。本研究により150℃から600℃までの広い温度範囲で主要な脱硫反応の速度が得られている。 第四章においては高いカルシウム利用率を実現できる新規脱硫剤の開発を行っている。この脱硫剤は、フライアッシュとCaO粒子を室温で短時間に水と混合させて、混合物を30分間乾燥させることで生成した。本脱硫剤のカルシウム利用率を調べた結果、カルシウム/フライアッシュの脱硫剤は酸化カルシウムのみに比べて利用率は明らかに上昇した。そこで本脱硫剤中Ca(OH)2の利用率、構造変化、反応生成物について検討した結果、フライアッシュが存在すると、Ca(OH)2微粒子がフライアッシュ粒子の表面に付着することがEDXとSEM写真により確認されている。 カルシウム利用率に対するCaOとフライアッシュの割合及びCaOとフライアッシュの粒径の影響について調べている。その結果、フライアッシュの粒径がカルシウム利用率に影響を及ぼさないこと、CaO粒子は小粒子の方が、カルシウム利用率が高いことがわかった。生成物をFTIRで分析した結果、本研究で作成した新しい脱硫剤の使用によりCaSO4を高効率で生成できることがわかった。すなわち、フライアッシュの表面上で生成されたCaSO3の方が純粋なCa(OH)2粒子の内部で生成されたCaSO3より容易に酸化することがわかった。更に、カルシウム利用率に対する石炭燃焼ガス中のCO2及び水蒸気の影響を調べている。その結果、乾式脱硫プロセスにおいて300℃が最適脱硫反応温度であることが明らかになった。 第五章においては新規乾式脱硫プロセスの設計を行っている。プロセス設計に先立ち、SO2除去率とカルシウム利用率に関して、本脱硫剤粒子の転化率をモデル計算から求めている。モデルとして、脱硫剤粒子は、緻密構造を持つCa(OH)2超微粒子(一次粒子)が多数凝集した粒子と仮定した(グレインモデル)。本モデルから計算されるカルシウム利用率と実験結果が一致したことから本モデルの妥当性が示されている。本モデルを用いて、新規脱硫剤を用いた場合のSO2除去率とカルシウム利用率の導出を行っている。反応装置として、固体粒子とガスの流量が一定で、かつ粒子は単一の大きさを持ち反応器内で逆混合している、流動層反応器を想定した。最後に本研究で提案する新規乾式脱硫プロセスを50MW級発電所に導入した場合の、SO2除去率及びカルシウム利用率を見積もるための計算プログラムを作成し評価を行っている。 第六章の結言において本論文の總括を行っている。 以上、本研究は乾式脱硫プロセスにおける石膏生成の反応経路に関して新たな知見を与えるとともに、これまでより高い脱硫率及び石膏生成率を実現できる新規脱硫剤を開発した点で環境工学及び化学システム工学の発展に寄与するところが少なくない。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |