学位論文要旨



No 114803
著者(漢字) 李,岩
著者(英字)
著者(カナ) リー,イェン
標題(和) 乾式脱硫プロセスにおける石膏生成に関する研究
標題(洋) Study on the Formation of CaSO4 in Dry Flue Gas Desulfurization Process
報告番号 114803
報告番号 甲14803
学位授与日 1999.11.18
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4556号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 定方,正毅
 東京大学 教授 幸田,清一郎
 東京大学 教授 柳沢,幸雄
 東京大学 教授 藤元,薫
 東京大学 助教授 堤,敦司
内容要旨

 石炭燃焼から排出されるSOxは地球環境や人間の健康への影響が懸念されている。このためSO2を除去するための脱硫装置の開発が進められてきた。開発されてきた湿式脱硫装置は高効率にSO2を除去できる。しかしながら、この湿式脱硫プロセスはコストが高くシステムが複雑になる。また、大量の水を消費するため排水処理を必要とする。水資源が少ない地域の場合、この湿式脱硫プロヤスの導入は不適当である。このような地域では、湿式脱硫プロセスにかわり乾式脱硫プロセスによる石炭燃焼ガス脱硫が有望である。しかしながら、乾式脱硫プロセスの適用には副産物の利用と、添加する脱硫剤の利用効率に関して改善が必要である。乾式脱硫には脱硫剤としてSO2吸収性のあるCaOあるいはCa(OH)2を添加する。これらはSO2と反応してCaSO3もしくはCaSO4となり副産物として排出される。CaSO4は石膏として他の産業に利用可能であるがCaSO3は再利用ができないため、積極的にCaSO4を生成する必要がある。このためCaSO4生成メカニズムを理解することは重要である。もう一つの課題として脱硫剤であるカルシウムの利用率向上が挙げあれる。副生石膏の高効率生成のために、高いカルシウム利用率の脱硫剤を開発することが重要である。

 本研究は、乾式脱硫プロセスから有用な石膏生成に関する研究である。研究の目的一つは乾式脱硫プロセス中のCaSO4生成のメカニズムを調べることである。二番目はSO2除去用の高い活性を有する脱硫剤を開発することである。本研究の成果として乾式脱硫プロセスの脱硫剤の利用率の改善を行った。また乾式脱硫プロセスにおけるSO2除去率、カルシウム利用率および最適の操作パラメーターを予測するため、モデリングを行いコンピュータによるプログラムを作成した。

 研究の内容は以下の通りである。

1.乾式脱硫プロセスにおける石膏生成メカニズム及び主要な脱硫反応の速度論に関する研究。

 Fig.1に反応装置を示す。CaO粒子を石英ウールに分散させし、バスケットに設置した。反応ガスSO2/SO3を50cc/minで流し、サンプル重量の時間変化(Fig.2)から反応速度決定した。

図表Fig.1 Schematic diagram of thermogravimetric balance with quartz bucket filled with quartz wool and CaO particles / Fig 2 Measured mass/initial mass of the sample for the reaction between CaO and SO2(1837ppm in N2)

 生成物をFTIRで分析した結果をFig.3に示す。FTIR分析結果により、300℃から600℃までの温度範囲においてCaOとSO2の反応生成物にCaSO4およびCaSO3の両方が存在することが判った。CaSO4の生成については、次の2つの経路があることがわかった。

 

Fig.3 IR absorption spectra of the reaction products of CaO+SO2(1834ppm m N2)at the temperature(a:300℃;b:450℃;c:600℃ and d:reaction product oxidized 1.5 bour by pure O2 after the reaction of CaO+SO2 at 450℃)

 R2の反応は従来この温度域では進行しないとされていたが、本研究により反応が進むことがわかった。また反応温度を上げると、CaSO4の生成割合が高くなることがわかった。R1,R2の反応速度をFig.4とFig.5に示す。CaOとSO3から生成したCaSO4の反応速度の温度依存性をFig.6に示す。

Fig.4 Arrbenius plot for the measured K of the reaction SO2+CaO=CaSO3図表Fig.5 Arrhenius plot for the measured K of the reaction CaO+SO3=CaSO4 / Fig.6 Arrhenius plot for the measured K of the reaction 2CaSO3+SO2=2CaSO4+1/2S2

 生成物に与えるAL2O3の影響を脱硫剤[3CaO・Al2O3を用いて測定した。Fig.7の分析結果により[3CaO・Al2O3]脱硫剤を用いた時は生成物が100%CaSO4になる。従ってAl2O3はCaSO4生成に影響があることが明らかになった。

Fig.7 IR absorption spectra of the absorbent prepared(a)and reaction products of CaO Al3O2+SO2+O2(b),CaO+SO3+O2(c) at the temperature 300℃ with the concentration O2/(12%)and SO2(4450ppm in N2)
2.高いCaO利用率の脱硫剤の開発

 フライアッシュとCaOから乾式脱硫プロセスに適合する安価な脱硫剤の開発した。この脱硫剤は、フライアッシュとCaO粒子を室温で短時間に水と混合させて、混合物を30分間乾燥させることで生成した(表1)。この脱硫剤のCaO利用率を調べた結果、CaO/フライアッシュの吸収剤はCaOのみに比べて利用率は明らかに上昇した(表2)。

Table 1.The preparation processes of sorbent / Tab.2 The conversion rate of CaO in sorbent for the reaction of CaO+SO2+O2[450℃,90min]

 そこで脱硫剤中CaOの利用率、構造変化、反応生成物について検討した。CaOを水に混合させると粒径が減少したため、高いCaO利用率が得られた。フライアッシュが存在すると、CaO微粒子がフライアッシュ粒子の表面に付着した。この現象はEDX(表3)とSEM写真(Fig.8)に確認された。

Fig.8 SEM pictures of fly ash particles and 4# sorbent particlesTab.3 EDX analysis results for the concentration on surface of fly ash and sorbent particles

 CaO利用率に脱硫剤のCaOとフライアッシュの割合の影響を調べた。脱硫剤中のCaO重量比率が50%、CaO利用率は約60%が達成された。しかしながら脱硫剤中のCaO重量比率が25%以下では、CaO利用率が向上がみられなかった。生成物はFTIR分析によって調べた結果をFig.9に示す。4#の脱硫剤では温度450℃で、SO23671ppm O2 5%の条件で反応させた場合、CaSO4が生成物中に約60%であることが分かった。温度600℃でCaSO4への転化率は100%だった。これら分析結果より、本研究で作成した新しい脱硫剤の使用により高い反応温度でCaSO4を効率的に生成できることがわかった。フライアッシュの表面上で生成されたCaSO3の方がCaO粒子の内部で生成されたCaSO3より容易に酸化することができる。

Fig.9 IR absorption spectra of reaction products of SO2(3671ppm)+O2(5%)with CaO in sorbent 4# and pure CaO particles at reaction temperature of 300℃,450℃ and 600℃

 次にCaO利用率に対するCaOとフライアッシュの粒径の影響について調べた。表4の結果は、フライアッシュの粒径はCaO利用率に影響を及ぼさないことが判った。一方CaO粒子は小さい方が、CaOの利用率が高いことが判った(表5)。小さいCaO粒子では大きなBETの表面積を有り、細孔容積も大きいため、これが高いCaO利用率の向上に結びついたと考えられる。

Tab.4 Effect of fly ash particle size of on calcium utilization rateTab.5 Effect of CaO particle size on calcium utilization rate in sorbent after reacted with SO2(3671ppm)+O2(5%)at 450℃ with 90 min
3.乾式脱硫プロセスの設計

 上記1,2の成果を元に、新規乾式脱硫プロセスの設計を行った。プロセス設計に先立ち、SO2除去率とCaO利用率に関して、本脱硫剤粒子の転化率をモデル計算から求めた。モデルとして、脱硫剤粒子は、緻密構造を持つCaO超微粒子(一次粒子)が多数凝集した粒子と仮定した(グレインモデル)。このモデルから計算されるCaO利用率と実験結果が一致したことから本モデリングは正しいと考えられる。このモデリングを元に、本脱硫剤を用いた場合のSO2除去率とCaO利用率の導出を行った。反応条件として、固体粒子とガスの流量一定、かつ粒子は単一の大きさを持ち反応器内で逆混合されている流動層反応器を考えた。

 最後に本研究で提案する新機関式脱硫プロセスを50MW級発電所に導入した場合の、SO2除去率及び最適操作パラメータを見積もるための計算プログラム(CFB-FGD)を作成し評価を行った。

審査要旨

 本論文は"Study on the Formation of CaSO4 in Dry Flue Gas Desulfurization Process"(和訳「乾式脱硫プロセスにおける石膏生成に関する研究」)と題し、途上国に適合する新規乾式脱硫プロセスの開発を目的とし、高活性を有する新規脱硫剤の開発を行った研究をまとめたもので6章から成る。

 第一章は本論文の研究の背景と既往の研究について概説を行った上で、本論文の研究目的とその構成を示している。

 第二章においては乾式脱硫プロセスにおける石膏生成メカニズムを調べている。反応生成物をFTIRで分析した結果、300℃から600℃までの温度範囲でのCaOとSO2の反応生成物にCaSO4およびCaSO3の両方が存在することを示した。CaSO4の生成については、SO2(g)+CaO→CaSO3(R1)及び2CaSO3+SO2(g)→2CaSO4+1/2S2(g)(R2)の反応経路があることがわかった。R2の反応は従来この温度域では進行しないとされていたが、本研究により反応が進行することがわかった。

 第三章においては主要な脱硫反応の速度論に関する研究を行っている。脱硫剤粒子を石英ウールに分散させ、熱天秤のバスケットに設置し、反応ガスSO2及びSO3を供給し、サンプル重量の時間変化から反応速度を決定した。R1,R2の反応速度及びCaOとSO3から生成したCaSO4反応速度の温度依存性を調べている。本研究により150℃から600℃までの広い温度範囲で主要な脱硫反応の速度が得られている。

 第四章においては高いカルシウム利用率を実現できる新規脱硫剤の開発を行っている。この脱硫剤は、フライアッシュとCaO粒子を室温で短時間に水と混合させて、混合物を30分間乾燥させることで生成した。本脱硫剤のカルシウム利用率を調べた結果、カルシウム/フライアッシュの脱硫剤は酸化カルシウムのみに比べて利用率は明らかに上昇した。そこで本脱硫剤中Ca(OH)2の利用率、構造変化、反応生成物について検討した結果、フライアッシュが存在すると、Ca(OH)2微粒子がフライアッシュ粒子の表面に付着することがEDXとSEM写真により確認されている。

 カルシウム利用率に対するCaOとフライアッシュの割合及びCaOとフライアッシュの粒径の影響について調べている。その結果、フライアッシュの粒径がカルシウム利用率に影響を及ぼさないこと、CaO粒子は小粒子の方が、カルシウム利用率が高いことがわかった。生成物をFTIRで分析した結果、本研究で作成した新しい脱硫剤の使用によりCaSO4を高効率で生成できることがわかった。すなわち、フライアッシュの表面上で生成されたCaSO3の方が純粋なCa(OH)2粒子の内部で生成されたCaSO3より容易に酸化することがわかった。更に、カルシウム利用率に対する石炭燃焼ガス中のCO2及び水蒸気の影響を調べている。その結果、乾式脱硫プロセスにおいて300℃が最適脱硫反応温度であることが明らかになった。

 第五章においては新規乾式脱硫プロセスの設計を行っている。プロセス設計に先立ち、SO2除去率とカルシウム利用率に関して、本脱硫剤粒子の転化率をモデル計算から求めている。モデルとして、脱硫剤粒子は、緻密構造を持つCa(OH)2超微粒子(一次粒子)が多数凝集した粒子と仮定した(グレインモデル)。本モデルから計算されるカルシウム利用率と実験結果が一致したことから本モデルの妥当性が示されている。本モデルを用いて、新規脱硫剤を用いた場合のSO2除去率とカルシウム利用率の導出を行っている。反応装置として、固体粒子とガスの流量が一定で、かつ粒子は単一の大きさを持ち反応器内で逆混合している、流動層反応器を想定した。最後に本研究で提案する新規乾式脱硫プロセスを50MW級発電所に導入した場合の、SO2除去率及びカルシウム利用率を見積もるための計算プログラムを作成し評価を行っている。

 第六章の結言において本論文の總括を行っている。

 以上、本研究は乾式脱硫プロセスにおける石膏生成の反応経路に関して新たな知見を与えるとともに、これまでより高い脱硫率及び石膏生成率を実現できる新規脱硫剤を開発した点で環境工学及び化学システム工学の発展に寄与するところが少なくない。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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