3-1.高速遠心圧縮機の低流量域特性実験 実験装置 実験に用いた遠心圧縮機(三菱TD13型)と壁静圧の計測位置を図1に示す。圧縮機のシュラウド壁には、静圧孔を8ケ所設けた。失速とサージを確認するために、impeller前・(1),(2)とdiffuser throat・(5),(6)には各々周方向に2ケ所、他は、impeller出口・(3)、diffuser入口・(4)、diffuser出口前・(7)、及びscroll部・(8)である。実験は回転数が30,000rpmと50,000rpmで、diffuserのベーンがFP(Flat Plat)とDCA(Double Circular Arc)で行った。供試遠心圧縮機の圧力-流量特性を図2に示すが、圧縮機の運転範囲はDCAベーンの方がFPベーンより少し拡がっている。回転做が30,000rpmの場合、ゆっくり失速、サージの順に入る。しかし、回転数50,000rpmの場合の不安定現象は異なっている。FPベーンの場合、失速とmild surgeが最初に出現した後すぐサージに入るが、DCAベーンの場合、失速とmild surgeは出現せず、直接サージに入ることが観察された。
解析波形 回転数30,000rpmのFPベーンの場合、流量が0.2のときの波形(測定位置:(4))とそのFFT解析結果を図3に示す。流量が0.22近辺になると失速が出現し始め、その後、徐々にその現象が増加して行く。流量が0.19になると、実験装置全体が約12.7Hzで振動を始め、サージが発生する。
図表図1供試遠心圧縮機と壁静圧測定位置 / 図2圧力-流量特性図 / 図3シュラウド壁面静圧変動とFFT分析結果 カオス解析と失速相図 SVD法では、時系列データのサンプリングを行う際のWindow長さ:wとサンプリング間隔:sの選択がアトラクタの特徴を捉えるため重要であり、経験的に、主要な成分の2倍程度のサンプリング周波数が良いとされる。図4にSVD解析結果を示す。流量が0.198の場合の3ケ所((3),(5),(7))で計測した圧力を使った。図4に示すように、(7)位置ではノイズの様相を示すが、(3)、(5)位置では失速の特徴である空間的拡がりが認められる。このように、失速の相図の特徴は、計測位置でのS/N比(Signal to noise ratio)に依存するが、計測位置を適当に選択すれば、Phase portrait reconstruction法で失速を認識できることが分かった。
失速の形成過程 さらに、失速の動的過程を追うため、流量を0.225近辺から、流量調整弁にて流量を序々に減少させ、その時のdiffuser入口・(4)の圧力を連続的に計測した。この時系列データを用いて求めた失速の変化過程の相図を図5に示す。相図を見るとAのノイズのような形から、徐々に一定の形を形成した後、最後にはQの形を示し、強い失速のアトラクターを示すようになる。
サージの相図 回転数50,000rpmのFPのベーンの場合、流量が0.55の場合の4ケ所((1),(3),(5),(7))で計測した圧力を使って、サージの相図を構築した。その結果を図6に示す。Impeller inletでの相図はサージの特徴、"knee"と準周期現象を表現したが、他の位置ではclassic surge(失速とサージ)を表現している。
図表図4 失速のアトラクター / 図5 失速形成時の変化過程のアトラクター / 図6 サージのアトラクター 基本相図とその相関次元 失速とサージの相図は低次元で表現できるが、実際に最も重要なのは失速近傍での非線形の解析である。軸流圧縮機では、Dayらの指摘するように、失速が発生する前には、二種類の波長(即ち、動翼通過周波数および回転周波数を基準とするもの)をもつ擾乱が出現する。圧縮機の失速を正確に予知するためには、このような擾乱を捉えなければならない。
以下に、SVD法と相関次元法を圧縮機の全流量範囲で適用し圧縮機の非線形特性を調べた結果を述べる。全流量範囲にわたり意味を持つ解析は、波長の短い擾乱まで対象とする基本相図を取り扱う必要がある。
回転数30,000rpmのFPベーンの場合の圧縮機の基本相図を図7に示す。圧縮機の非線型特性を三次元の相図であまり表現できない、即ち、圧縮機の状況をシステムの相図より判断することが困難なことがわかる。しかし、そうした場合でも、correlation integralと空間距離rの関係を示す曲線は、図8の通り失速に近づくと右側に移ることが分かった。例えば、空間距離rを2-4の一定値に選択すると、流量に対するcorrelation integralは、図9に示すように失速に向かうと減少するので、これを判定に用いればと良い。失速近傍のcorrelation integralを図10に示す。(流量は計測できなかったが、流量弁を1.3%ぐらい絞りながら計測したものである。)図9と図10を比べると、correlation integralが-3以下になると、圧縮機は危険な状態に入っていることが分かる。
図7 圧縮機の基本相図図表図8 流量によるcorrelation integral曲線 / 図9 流量によるcorrelation integral分布 / 図10 失速近傍のcorrelation integral分布