学位論文要旨



No 114829
著者(漢字) 任,哲弘
著者(英字)
著者(カナ) イム,チョルホン
標題(和) 葉の形状の構造的特徴に基づく分類法
標題(洋) A Classification Method of Leaf Shapes Based on Their Structural Properties
報告番号 114829
報告番号 甲14829
学位授与日 2000.01.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第3674号
研究科 理学系研究科
専攻 情報科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小柳,義夫
 東京大学 教授 平木,敬
 東京大学 教授 西田,友是
 東京大学 教授 池内,克史
 東京大学 助教授 今井,浩
内容要旨

 物体の形状の分類法は多く存在し様々な物体に応用されている。植物の形状の分類には幾つかの応用が考えられる。例えば、植物の形状を索引とする植物のデータベースは教育用の目的、生態調査、新しい種の発見に使用する事が出来る。植物の幾つかの部分の形状を分類に使う事が出来、葉の輪郭の形状もその多様性から植物の分類に使用する事が出来る。

 葉はその付け根から分岐した互いに重なり合う小葉により構成される。各小葉は一つの頂点を持ち、楕円状になっている。よって葉は一つの多角形から対称に突き出た三角形状の破片により構成されているとも考えられる。破片の形状は多様であり細かいぎざぎざである鋸歯がその輪郭上に多く存在する。この様な形状の複雑性に加えてその形状は同じ種に属するものでもばらつきがある。破片は大まかな形状は似ていても、隣り合う破片が成す角度、大きさ、相対的位置そして詳細な形状にはばらつきがある。鋸歯の形状は同じ葉に属するものでもばらつきがあり、同じ種の葉でもその数は一定ではない。小葉はその葉脈に対し基本的には対称であるが、その先の部分は環境に応じて曲がっている事がある。この様な階層的構成要素の存在やばらつきのため、構成要素のばらつきが蓄積し、結果として現れる葉の輪郭は複雑で大きなばらつきがある。

 今までの方法においてこの複雑性とばらつきは葉の形状の構造を全く考慮に入れず扱われ、葉の分類は輪郭対輪郭の比較により試みられて来た。一般的な複雑でばらつきのある閉曲線を仮定し、多重解像度解析により比較に最も適した輪郭のスケールが決められた。最も適したスケールは、そのスケールで選ばれた形状特徴のばらつきと分類能力に基づき決められる。その結果輪郭の低解像度における形状的特徴の一部が表現法に基づき比較的ばらつきが小さくある程度分類能力があるので、分類の為に使われて来た。したがって大きな凹凸の特徴が分類の為に選ばれる。この事実は幾つかの問題を引き起こす。葉の形状のばらつきにより、分類の為の特徴を低解像度で選定する過程において、重要な特徴が失われる事があり、不必要な特徴が選ばれる事もある。比較的小さい大きさの破片や輪郭上の凸凹等がその様な特徴となる。また低解像度における特徴の限られた部分のみ使用しているので、分類が十分出来ない。例えば破片の詳細な形状は分類に有用であるが、其々の表現法によるとばらつきが大きくなるので無視されている。高解像度で得られる特徴も分類に使用できるが、それらも表現法によればばらつきが大きいので無視されている。葉の輪郭上の鋸歯はこの様な特徴である。

 葉の形状は対称でこの対称性は分類に有用であるが、葉の形状の構造を仮定していないので、その対称性は使われていない。

 この様な問題を取り扱う為に本論文では葉の形状の構造的特徴に基づいた分類法を提案する。葉の輪郭の複雑性は階層的に表現される。葉は大局的な構造と形状、局所的詳細な形状、そして鋸歯の形状の三階層で表現される。分類の為の形状的特徴はこの様な葉の輪郭の階層的成分を検出する事で求められる。よって其々の成分のばらつきは独立に扱われ、それぞれの構成要素のばらつきの葉の形状の記述に対する影響は効果的に減ぜられる。葉の形状の対称性は破片を検出するのに使われる。対称性は破片を検出する際の制限として使われる。

 葉の形状のばらつきは統計的に表現する事が出来る。しかし葉の構成要素の大きな変形により生ずるばらつきも存在する。葉の先の部分は環境に応じて曲がる事があるので破片の形状は大きく変形し葉の形状の記述に影響を及ぼす。葉の形状の記述のばらつきを減ずる為には、変形した形状を元の変形していない形状に修正する事が望まれる。本論文では葉の形状の構造に基づいた葉の形状の正規化法を提案する。まず其々の破片の輪郭における互いに対称な点の対を求め、この対に基づき破片の軸を求める。この軸を真直にする事で破片は元の変形していない形状に正規化される。この葉の形状の正規化により葉の葉脈の変形の葉の形状の記述への影響を抑える事が出来る。以前の方法では葉の構造を無視していたので、このような正規化は不可能であった。

 葉の形状はその表現法に基づき階層的また統計的に分類される。曲率スケール空間画像を用いた方法の実験結果と本論文で提案した方法を用いた実験結果を比較する事により階層的分類法の有効性を証明する事が出来た。また正規化法を用いた分類法は正規化法を用いない分類法に比べ良い結果を示す事も証明する事が出来た。

審査要旨

 本論文は6章から成り、第1章では葉の形状の分類の問題点を提示し、第2章では植物の葉の構造と形状の基本構造を述べ、第3章では葉の輪郭の表現法を提示し、第4章では階層構造に基づく分類法を提案し、第5章では実際のデータによりこの分類法の性能を従来の方法と比較し、第6章では結論について述べている。

 従来から、物体の形状の分類法は多く存在し様々な物体に応用されている。特に植物の形状の分類には幾つかの応用が考えられ、例えば、植物の形状を索引とする植物のデータベースは教育用の目的、生態調査、新しい種の発見に使用する事が出来る。植物の幾つかの部分の形状を分類に使う事が出来、葉の輪郭の形状もその多様性から植物の分類に使用する事が出来る。

 本論文では形状を階層構造に基づいて分析している。葉はその付け根から分岐した互いに重なり合う小葉により構成される。各小葉は一つの頂点を持ち、楕円状になっている。よって葉は一つの多角形から対称に突き出た三角形状の破片により構成されているとも考えられる。破片の形状は多様であり細かいぎざぎざである鋸歯がその輪郭上に多く存在する。この様な形状の複雑性に加えてその形状は同じ種に属するものでもばらつきがある。破片は大まかな形状は似ていても、隣り合う破片が成す角度、大きさ、相対的位置そして詳細な形状にはばらつきがある。鋸歯の形状は同じ葉に属するものでもばらつきがあり、同じ種の葉でもその数は一定ではない。小葉はその葉脈に対し基本的には対称であるが、その先の部分は環境に応じて曲がっている事がある。

 この様な階層的構成要素の存在やばらつきのため、構成要素のばらつきが蓄積し、結果として現れる葉の輪郭は複雑で大きなばらつきがある。今までの方法においてこの複雑性とばらつきは葉の形状の構造を全く考慮に入れずに扱われ、葉の分類は輪郭対輪郭の比較により試みられて来た。従来、一般的な複雑でばらつきのある閉曲線を仮定し、多重解像度解析により比較に最も適した輪郭のスケールを決定することにより、輪郭の低解像度における形状的特徴の一部が表現法に基づき比較的ばらつきが小さく、ある程度分類能力があるので、分類の為に使われて来た。したがって大きな凹凸の特徴が分類の為に選ばれる。しかしこの手法は幾つかの問題を引き起こす。葉の形状のばらつきにより、分類の為の特徴を低解像度で選定する過程において、重要な特徴が失われる事があり、不必要な特徴が選ばれる事もある。比較的小さい大きさの破片や輪郭上の凸凹等がその様な特徴となる。また低解像度における特徴の限られた部分のみ使用しているので、分類が十分出来ない。例えば破片の詳細な形状は分類に有用であるが、其々の表現法によるとばらつきが大きくなるので無視されている。高解像度で得られる特徴も分類に使用できるが、それらも表現法によればばらつきが大きいので無視されている。例えば、葉の輪郭上の鋸歯はこの様な特徴である。

 この様な問題を取り扱う為に本論文では葉の形状の構造的特徴に基づいた分類法を提案している。葉の輪郭の複雑性は階層的に表現され、葉は大局的な構造と形状、局所的詳細な形状、そして鋸歯の形状の三階層で表現される。分類の為の形状的特徴はこの様な葉の輪郭の階層的成分を検出する事で求められる。よって其々の成分のばらつきは独立に扱われ、それぞれの構成要素のばらつきの葉の形状の記述に対する影響は効果的に減ぜられる。葉の形状の対称性は破片を検出するのに使われる。対称性は破片を検出する際の制限として使われる。

 葉の形状のばらつきは統計的に表現する事が出来るが、葉の構成要素の大きな変形により生ずるばらつきも存在する。葉の先の部分は環境に応じて曲がる事があるので破片の形状は大きく変形し葉の形状の記述に影響を及ぼす。葉の形状の記述のばらつきを減ずる為には、変形した形状を元の変形していない形状に修正する事が望まれる。本論文では葉の形状の構造に基づいた葉の形状の正規化法を提案している。まず其々の破片の輪郭における互いに対称な点の対を求め、この対に基づき破片の軸を求める。この軸を真直にする事で破片は元の変形していない形状に正規化される。この葉の形状の正規化により葉の葉脈の変形の葉の形状の記述への影響を抑える事が出来る。以前の方法では葉の構造を無視していたので、このような正規化は不可能であった。

 本論文では、葉の形状をその表現法に基づき階層的また統計的に分類した。従来の曲率スケール空間画像を用いた方法の実験結果と本論文で提案した方法を用いた実験結果を比較する事により階層的分類法の有効性を証明する事が出来た。また正規化法を用いた分類法は正規化法を用いない分類法に比べ良い結果を示す事も証明する事が出来た。

 本研究は、西田博文、國井利泰との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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