光子はQEDにおいては、構造を持たないゲージボゾンとして知られている。しかし、その一方で、不確定性原理によりクォーク・反クォーク対にゆらぐことが可能であり、さらにグルーオン放射、クォーク・反クォーク対分裂が起こり得る。その結果、光子はクォークやグルーオンといったパートンの源として考えることができ、ハドロンのようにパートン描像により記述することができる。 27.5 GeV電子・820 GeV陽子衝突型加速器であるHERAにおいては、電子がQ2(光子のもつ移行運動量の自乗の負数)がほぼ0の実光子を放射し、それが陽子と散乱することにより光生成反応が起こる。終状態に高い横運動量をもつ粒子を生成するハードな光生成反応は、光子内部、陽子内部のパートンの間での散乱として記述される。そのため、ハードな光生成反応により光子内部のパートン分布を探ることができると期待される。 今までは主に、電子・陽電子散乱での二光子反応により光子の内部構造の研究が行なわれてきたが、現段階ではまだ実験誤差が大きく、十分理解されているとは言い難い状況である。光生成反応を通して、二光子反応とは別の角度から光子のパートン分布を探るのは有用なことであると考えられる。 そのような反応の一つとして終状態に高い横運動量をもった光子が生成するprompt photon生成があげられる。Prompt photon生成の例は図1に示されている。(a)は直接光子反応の例で、光子そのものが陽子内部のクォークと反応し、終状態には、光子とジェットが観測される。一方(b)は光子分解反応の例で、光子内部のパートンが陽子内部のパートンと反応する。この場合も、終状態に光子とジェットが観測される。この光子分解反応を通して光子内部の構造を探ることになるが、今回、解析に用いた運動学領域での断面積からは、特にクォーク分布に関する情報を得ることができると期待される。光生成反応では、より断面積の大きなジェット生成についての研究が広く行なわれているが、それに対してprompt photon生成の研究の利点として、破砕化による影響が極めて小さいことがあげられる。 図1:Prompt photon生成過程のファインマン図。(a)直接光子反応(b)分解光子反応。 解析を行なう上での重要なポイントは、バックグラウンドの除去である。主なバックグラウンドはジェットの破砕により生じるパイオンやエータのような中性中間子によるものである。これらの中性粒子がまわりに他の粒子を伴って生成することが多いのに対して、prompt photonは他の粒子からは分離されて生成する傾向が強い。この特徴から、光子のまわりに他の粒子からのエネルギーが少ない(この解析ではある領域内に10%以下)ことを要求してバックグラウンドの削減を行なうが、ジェット生成の断面積が大きいために、シグナルと同程度の数のバックグラウンドが最終サンプルの中に残ってしまう。 今解析においては、カロリメターに落ちた光子のエネルギーのパターンを調べることで、これらのバックグラウンドとシグナルとの分離を行なった。光子のエネルギー全体と最も大きいエネルギーを落としたカロリメターセルでのエネルギーの比,fmax,を用いて分離を行なった。モンテカルロ事象を用いた結果、光子、パイオン、エータ中間子を足し合わせることでデータのfmax分布をうまく再現できることがわかった。また、この分布から、明らかに光子からの寄与があるということを見ることができた。 実際には、fmax>0.75を満たす割合をモンテカルロ事象を用いて、光子、パイオン、エータ中間子についてそれぞれ求め、データにおいて同条件を満たしている事象の割合との比較を行い、方程式を解くことによりprompt photonシグナルの数を求めた。 さらに得られた分布に対し、アクセプタンスを補正した後に、-0.7<<0.9、>5 GeV、0.22<1 GeV2でのisolated prompt photon(<10%)の断面積を得た。HERAにおけるprompt photonの微分断面積の測定は初めてである。図2に得られた断面積(a)d/dと(b)d/dを示す。GSとGRVという代表的な光子のパートン分布を用いて計算されたNLO QCD理論計算の結果と比較してある。 図2:測定されたprompt photon断面積d/dとd/d。2つの理論グループによる計算結果が示されている。実線(GRV)と破線(GS)は異なる2種類の光子のパートン分布を用いた場合の計算結果を示す。 得られた断面積d/dは前方では理論計算と一致するが、後方では理論計算より高めであるという傾向がみられた。この傾向は、低いyでより強くみられた。横運動量d/dの傾きは理論計算とよい一致を示した。 |