動物の初期発生過程では、セカンドメッセンジャーの働きが重要と考えられる。本研究の第1部では、セカンドメッセンジャーの一つであるcGMPのアナログの8-Br-cGMP(Br-cGMP)と、対照としてcAMPのアナログの8-Br-cAMP (Br-cAMP)を用い、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)胚を嚢胚(stage10)から尾芽胚(stage22)まで処理し、その発生に対する影響を検討した。Br-cGMP処理では、頭尾軸の湾曲、体長の縮小をした奇形胚が、Br-cAMPでは、後脳の肥大した胚が、いずれも濃度依存的に生じた。このような形態異常を起こす最も効果的な時期は、嚢胚形成期か、それとも神経胚形成期かを調べるため、胚をstage10からstage14あるいは、stage14からstage22に分けて処理した結果、後者の場合に強い作用がみられ、これらアナログの作用が主として、神経胚形成期(stage14-22)に強く現れることが示された。 組織切片を調べた結果、正常胚と比較してBr-cGMP処理胚では、脊索の直径が太く、脊索細胞の数が多く、その空胞化の程度が小さく、細胞間には未消化の卵黄と思われる顆粒が多数あり、分化の遅れがみられた。また、沿軸中胚葉の形成、分化の遅れも観察された。Br-cAMP処理胚では、後脳が肥大していることが観察された。このことからBr-cGMPは脊索や筋肉等の中胚葉形成に、Br-cAMPは、神経系の形成にそれぞれ選択的に影響を与えていることが示唆された。 HPLCにより胚の酸可溶性分画を調べた結果、アナログが胚に取り込まれていることが観察され、高濃度のアナログが、cGMPやcAMPの正常な機能を阻害していることが予想された。この結果から、Br-cGMPは、膜を透過し細胞内に入り、細胞内のcGMP依存性のシグナルを上昇させると考えられた。従って、cGMPが、Xenopus胚発生過程の嚢胚形成から神経胚形成にかけて特に重要な働きをすることが示唆された。 cGMPが、Xenopus初期胚に存在することは、既に、報告されているが、それを合成する酵素であるグアニル酸シクラーゼ(以下GC)に関する報告はこれまでほとんどなされていない。第1部で述べたBr-cGMPによる形態形成異常を理解するためにもGCに関する知見が必要と考えられた。そこで、第2部では、Xenopus初期胚形成におけるGCの関与を明らかにし、セカンドメッセンジャーの働きを理解する手段の一つとして、GCのクローニングおよびその発現解析を試みた。 ラットGCをプローブとしてXenopus尾芽胚cDNAをスクリーニングしたところ、2つのクローンが単離された。これらのクローンは、ラットGCとホモロジーが高く、細胞内領域、細胞外領域、および、これらを分けるtransmembrane領域が含まれていると推定された。また、推定細胞外領域には、N-linked glycosylation sitesも認められた。このことから、これら2つのクローンを、レセプター型GCと推定し、XGC-1とXGC-2と名付けた。 ノザンブロット解析により種々の組織での発現を調べると、XGC-1mRNAは、組織全般的に存在しており、スプライシングバリアントによるものと思われる4.3kbおよび3.7kbのシグナルが検出された。XGC-2のmRNAは、肺、心臓、筋肉にXGC-1mRNAの場合より強いシグナルが検出された。XGC-2の場合も、スプライシングバリアントによるものと思われるmRNAの分子量の違いが認められ、肺と心臓と筋肉で4.1kbと3.8kb、脳と卵巣で3.9kbと3.3kbの2種類、その他の組織では3.9kbの1種類のシグナルがみられた。 同様に初期発生段階の胚を解析すると、XGC-1では4.3kbと3.7kbのシグナルが検出され、これらが胞胚期に既に発現していることから、この遺伝子産物はmaternal mRNAとして存在していると考えられた。XGC-2のmRNAは、嚢胚形成以降検出され、その発現は発生と伴に急激に増加した。このシグナルは、3.9kbであった。 以上から、初期胚では、レセプター型GCが、何らかの役割を果たしている可能性が示唆された。また、得られた2種類の遺伝子は、発生段階および成体組織によって発現の特異性が認められることなどから、機能においても相違があるのではないかと推察された。 将来的には、whole mount in situ hybridizationをおこない、GCの空間的発現を調べ、GCのoverexpressionなどの手法を用いその機能を推定し、また、それぞれのGCのリガンドについても調べ、最終的には、GCとアナログで得られた結果との相関関係を調べ、Xenopus発生過程におけるcGMPとGCとの役割を明らかにすることが課題である。 |