学位論文要旨



No 114841
著者(漢字) モスレミ・ナイニ・ハッサン
著者(英字)
著者(カナ) モスレミ・ナイニ・ハッサン
標題(和) 異形管成形用ロールの設計手法に関する研究
標題(洋)
報告番号 114841
報告番号 甲14841
学位授与日 2000.02.10
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4563号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木内,学
 東京大学 教授 中桐,滋
 東京大学 教授 谷,泰弘
 東京大学 助教授 柳本,潤
 東京大学 助教授 吉川,暢宏
内容要旨

 金属板材の二次加工技術として重要なロールフォーミング加工は,板材の成形法として大きな役割を果たしており,その製品は土木・建築・船舶・航空機・自動車・住宅・電気製品などの分野において広範な用途に供されている.現在,その応用範囲はますます拡大しつつあるが,成形技術としてみるとき,そこには数多くの問題が残されており,それらの多くは製品の形状不良の防止や寸法精度の高度化の要求と結びついている.円管(素管)から異形管への再成形プロセスに関する数値変形解析の事例は少なく技術的に未検討の問題も多い.また,ロールの設計には様々な手法が用いられてはいるが,いずれも汎用的な手法といえるものではない.このような異形管への再成形プロセスの設計には,まず,成形時の素管変形挙動の解明が不可欠である.再成形プロセスにある素管横断面の変形形状並びに各部のひずみ履歴・応力分布等を差分的有限要素法を用いて新しい理論解析手法あるいはシミュレーション技術を開発する.素管の単位長さを対象として,平面ひずみ状態を仮定する.また中・薄肉素管を考え,せん断変形の影響は無視する.素管周方向の曲げ変形及び伸縮変形を主体に考えて,また肉厚方向応力分布を考慮し,解析を行う.解析に際して,Fig.1に示すようにy,z軸,,t軸を定め,紙面に垂直にx軸をとる.素をとる.素管(円管)横断面の中心cを通る直線によりnp個の要素に分割する.境界点(分割節点)を中央より1,2,3,...i,i+1,...np+1,分割された要素を要素1,2,...i,...npと名づける.更にFig.1に示すように要素iを層状の微小要素に分割し,素管内面より1,2...j,...ntの番号を付け,各微小要素の肉厚をti,1,ti,2,...,ti,j,...,ti,ntとする.境界iの中央の位置を座標(yi,zi)で表し,境界iと素管(円管)横断面の中心cを結ぶ直線がz軸となる角を傾斜角をiとする.

Fig.1 The cross section of the pipe and the divided elements

 この場合,Fig.2に示すように素管(円管)横断面から要素iを取り出し考える.要素iの分割節点iに働く単位長さ当たりの周方向力,合せん断力をそれぞれFi,Vi,分割節点i+1に働くものをFi+1,Vi+1,要素i外表面に垂直に働くロールから接触圧力をPiとし,前述のように素管の内表面には圧力が作用していないとする.

Fig.2 Peripheral and radial forces and peripheral moments acting on the element i

 解析では,境界変位,境界力,接触圧力の増分を未知数とする連立一次方程式を解く.更に、実際の再成形のように接触点が多数ありそれが連続的に移動し,肉厚の変化を考慮したより正確な接触モデルとなっている.そこで,本手法では以下に述べる接触モデルを提案する.得られた各増分を用いて各要素のひずみ増分,応力増分等を計算する.それに基づいて素管横断面の変形挙動を系統的に把握し,各場合の再成形条件が素管の変形挙動・製品の形状・寸法,再成形中各種の形状不良の発生,などに与える影響を明らかにする.

 更に,拡張整備した解析法による逆行過程および順行過程の解析結果を利用し,ロールの設計法を開発し,複雑な異形管成形用のロールの設計への適用を図っている.このロールの設計手法は一般的ではないので,逆行過程の解析を統一的に実行し得る手法を整備し,ロールの設計や工程設計に役立てることができる.いま,実際の再成形と同じく円管から異形管に成形する過程を順行過程と名付ける.異形管の内面側から変位量を付与して円管に戻していく過程を逆行過程と名付ける.Fig.3に順行・逆行過程の概念を示す

Fig.3 Schematic illustration of(a)forward deformation and(b)backward deformation

 逆行過程および順行過程の解析手法により再成形の全過程における各スタンドに配置するロールの形状を決定するための統一的な手法について検討する.開発した設計手法の適用事例として,再び円管(素管)から凹形管,凸形管,双菱形管への再成形プロセスについて一連の解析とロールの設計を行う.再成形プロセスにおけるロール段数の決め方には,いまだ確固とした手法がなく,各ロール設計メーカーは,それぞれの経験とノウハウにより決めている,素管材質,肉厚,製品寸法,製品横断面形状の複雑さ,製品の要求品質,などにより,必要なロール段数は大きく変わる.本設計法を用いて,素管から異形管への再成形プロセスに必要な成形段数,ロール形状,ロール配置を求めた.更に,素管周方向の縮み変形の設定指針については,現在のところ明確ではないが,本逆行過程の解析により,素管周方向の縮み変形を予測することができた.全スタンドのロール形状についても,同様に解析を行い,ロール形状を決定する.Fig.4には,凹形管について,逆行過程の最も適切と考えられる段階に達した時点での管断面形状を示す,Fig.5に逆行解析と順行解析を繰り返し,許容できる各成形段階ごとの横断面形状を示す.

Fig.4 Pipe’s cross-sectional profiles in backward deformation analysis from"channel-type"cross section to round cross section / Fig.5 Pipe’s cross-sectional profiles in the forward deformation from the round cross section to"channel-type"cross section

 この分野の今後の発展に大きく寄与するものと期待される.それ以前のロールの設計は,経験的知識を基に行われており,試行錯誤の繰返しを通して,所要の製品の成形加工を可能とするロールの形状・寸法を求める作業が行われてきた.そのため,ロールの設計には,多くの時間と労力を要している.

審査要旨

 本論文は、異形管成形ロールの設計手法に関する研究成果をとりまとめたものである.

 第1章は、序論であり、ロール成形の概要、異形管への再成形プロセスの概要、異形管への再成形プロセスの研究動向、本研究の目的並びに本論文の構成について示してある。

 第2章では、円管から異形管への再成形プロセスにおける管横断面の変形挙動を一般的に解析し得る手法について検討し、有限要素法と差分法を組合わせた簡便且つ汎用性の高い2次元弾塑性解析手法を提案している。本解析法では、平面ひずみ条件を仮定し、成形中の素管と成形ロールとの接触状態の変化を取扱うために新たな接触モデルを導へしている。更に、開発した方法を用いて円管から基本的な異形管への再成形について、一連の具体的な解析を行い、短時間で解析できることを明らかにしている。その手法の要点は「管断面の変形解析が、分割節点力、接触圧力の増分と分割節点変位増分との連立一次方程式を解く問題に帰着できた」ことであるといえる。

 第3章は、拡張し整備した数値解析手法を利用し、4ロールによる円管から正方形管または十字形管への再成形プロセスについて解析を行い、各場合の再成形条件が素管の変形挙動、製品の形状・寸法、成形中の周方向縮み率、増肉率、素管横断面の各部に作用する無次元化曲げモーメント、単位長さ当たりの無次元化成形荷重、などに与える影響について検討している。更に、溝形2ロールによる円管(素管)から角管への再成形プロセスについても解析し、それらの結果が実測結果とよく一致することを示し、提案した解析手法の妥当性を確認している。

 第4章は、開発した解析法を用いて円管から異形管への再成形プロセスについて逆行過程および順行過程の解析を統一的に実行し得る手法を整備し、ロールの設計や工程設計に役立つようにした成果について述べている。再成形プロセスにおけるロール段数およびロール形状の決め方には、いまだ確固とした手法がなく、各ロールメーカーは、それぞれの経験に頼っている。素管材質、肉厚、製品寸法、製品横断面形状の複雑さ、製品の要求品質、などにより、必要なロール形状と段数は大きく変る。本設計法を用いて、素管から異形管への再成形プロセスに必要な成形段数、ロール形状、ロール配置を決定し得ることとなり、実生産の大幅な合理化を達成できると考えられる。更に、円管から凹形管への再成形プロセスを考え、一連の解析結果を用いてロール設計を行った結果についても示している。

 第5章は、開発した設計手法の適用事例として、円管から凸形管への再成形プロセスを考え、提案したルールを整備しつつ、必要な成形段数、ロール形状、ロール配置を求めた結果とその妥当性について述べている。

 第6章は、開発した設計手法の更なる適用事例として、円管から双菱形管への再成形プロセスを考え、計算時間を短くするために、提案した解析手法を更に改良している。それらを通して、素管から双菱形管への再成形に必要な成形段数、ロール配置、ロール形状を求めた結果と実生産に用いられているロールとの比較を示し、本設計手法により、ロールの使用方法を大きく改善できることを示している。

 第7章は、結論として、上述の研究の成果と今後の検討課題について示している。

 以上、本研究は、円管から複雑な異形管への再成形プロセスについて新たな設計手法を提案しており、その成果は非常に有効と考えられ、この分野の学問的技術的発展に貢献するところ大と考えられる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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