修士(工学)松浦一哲提出の論文は、「渦構造と衝撃波の複雑干渉及びその解析手法に関する研究」と題し、7章より構成されている。 渦と衝撃波の干渉は、ジェット騒音のメカニズムとして、また圧縮性乱流の重要な要素である衝撃波-乱流干渉の単純化された問題として研究がなされてきた。特に単純化された理想的な干渉(例;平面衝撃波と円柱渦の二次元的な干渉等。以下「単純干渉」と呼ぶ)の研究では、散乱音波の発生や衝撃波の枝分かれ反射構造等の現象が明らかにされた。一方、圧縮性乱流の理解、あるいは空力騒音問題等への工学的応用という立場からは、より複雑な干渉場に関する研究が必要となるが、このような流れ場では様々な圧縮性波動の干渉がおこり、解析が困難となるため、既存の研究は未だ単純干渉の域を出ていない。 著者は、本研究で、上記の単純干渉に対して「圧縮性波動を伴うより現実的な渦を扱う」及び「比較的単純な連続・複合干渉を扱う」の2点において、より現実に近い複雑干渉問題を設定し、これらを実験、数値計算の両面から研究することで、複雑干渉場に関する知見を得ることを目的とする。その際、上記の解析の困難を克服する手法の研究に特に重点を置き、その方法として「物理量の時間変化量の可視化」を提案し、その有効性を確認している。 第1章は、序論である。渦構造と衝撃波の複雑な干渉の理解が必要となっている現状が述べられており、従来の単純化された渦と衝撃波の干渉の理解から、さらに複雑な干渉形態の理解が必要であることが述べられている。この現象は本質的に非定常な現象であり、その理解においては、解析手法が本質的に重要であることが述べられている。 第2章では実験の概要が述べられている。実験では、再現性のよい衝撃波管を用い、シュリーレン法、マッハツェンダー干渉計、レーザーホログラフィー干渉計など様々な可視化法を適用して、渦-衝撃波の干渉形態の解明を行うことが述べられている。 第3章では、数値計算の概要が述べられている。より複雑な干渉形態を解明するにあたり、実験的手法のみでは限界があり、数値解析を併用する必要があることが述べられ、適用された計算手法が説明されている。 第4章では、現象の理解のために新たな可視化法が提案されている。即ち、この現象においては波動が支配的役割を果たすところから、物理量の時間変化量を可視化することにより、波動の伝搬挙動を明瞭に可視化できることが述べられている。その際、単純な時間偏微分量に着目する場合のみならず、流体的時間微分量に着目した場合も考察され、両者の得失について考察が述べられている。 第5章では、2様の干渉形態についての結果と考察が述べられている。一つは、ステップ背後に衝撃波通過の際生じる渦と反射衝撃波との干渉であり、他はへルムホルツ共鳴器へ入射する衝撃波が内部で生成する渦と反射衝撃波との干渉である。実験結果と数値解析結果の一致は良好である。まず、第1の応用例について、本論文で提案された可視化法が従来の手法に対して優れており、特に干渉により生じた波動を的確に捉えられる事が述べられている。続いて、本可視化手法を適用して明確となった干渉形態の様態について述べられている。第2の応用例は、第1の例よりさらに複雑であるが、これについても本可視化手法を適用することにより、干渉のあらましが明確にされている。第1、2の応用例を通して、干渉のあらましは、基本的に単純干渉で得られている機構の組み合わせとして理解されうることが述べられている。 第6章は、まとめであり、第7章は、結論が述べられている。 以上要するに、本論文は渦構造と衝撃波の複雑な非定常干渉について、新たな可視化法を提案し、その優位性を示すと同時に、渦-衝撃波の非定常な干渉形態の詳細のあらましを明確にし、それらが単純干渉の機構の組み合わせとして理解できることを示しており、その成果は流体工学上貢献するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |