(1)各群の臨床データ 各群の割合はI群が2例(8.0%)、II-1群が4例(16.0%)、II-2群が5例(20.0%)、III-1群が7例(28.0%)、III-2群が3例(12.0%)、IV群は4例(16.0%)であった。平均発病年齢は17.6才(13-27才)、平均初診年齢は22.0才(15-36才)、平均観察期間は3.6年(1-7年)であり、最終調査時における平均罹病期間は7.8年(1-21年)であった。初期分裂病症状の平均有症状数は4主徴10症状のうち3.8個(1-6個)、初期分裂病症状30種のうち7.9個(2-14個)であった。
(2)各群の臨床精神病理学的特徴
A. I:顕在発症群 初期段階において2例ともに多彩な体験症状を呈し、特異的四主徴は4種にわたって存在した。2例ともに二重心による自己分離感が体感異常とともに認められ、また現実感喪失も共通していた。2例の主たる違いとして、症例1では聴覚性気付き亢進に関係被害念慮が伴う傾向があり、症例2では緊迫困惑気分に発する症状群が顕著であった。症例1は幻覚妄想状態、症例2は緊張病状態へと進展したが、顕在発症前は2例ともにII-2群に属していた。
B. II-1の持続(情意減弱がない)群 特異的四主徴は3-6種を有し、それらは常態化していた。自生体験、気付き亢進、漠とした被注察感のいずれもしばしば認められ、緊迫困惑気分は1例のみに認められた。他の初期分裂病症状のなかでは離人症・現実感喪失の持続が2例、即時理解・判断の障害、即時記憶の障害が3例に認められた。薬物への反応は全体としてやや良好であったが、転帰は2例で軽快、2例では不変であり、諸症状は長期にわたって持続した。
C. II-2:持続(情意減弱が緩徐に進行した)群 特異的四主徴の点ではII-1群とほぼ同様であった。離人症の持続や即時理解・判断の障害、即時記憶の障害もII-1群と共通であった。特徴として2例に学童期よりのAndersseinの自覚、また2例に自他境界の障害が認められた。薬物への反応は大半の例で特異的四主徴にはやや良好であったが、離人症などのその他の初期分裂病症状は必ずしも改善せず、主訴は4主徴から離人症や自他境界の障害といった他の症状へと次第にシフトした。いずれの例においても長期経過の中の情意減弱の進行とともに社会機能水準が漸次低下した。
D. III-1:治癒・寛解(情意減弱がない)群 思春期の比較的急性の発病が特徴的であった。病像は特異的四主徴が中心であり、とくに自生体験の活発化による発病例が多かった。また、7例中6例に緊迫困惑気分を認めた。このように横断的病像は特異的四主徴を前景に呈する典型的な初期分裂病の病像であった。4主微以外では即時理解・判断の障害、即時記憶の障害と面前他者に関する注察・被害念慮が多かった。薬物治療への反応が良好であり、症状消失後は社会機能も病前に回復した。
E. III-2:治癒・寛解(情意減弱が残存した)群 III-1群と同様に思春期の比較的急性の発病であり、また初診時の病像もIII-1群と同様なものであったが、寛解後に軽度の情意減弱が出現、以後持続した。この情意減弱は患者に自覚され訴えられることもあれば、訴えられないが客観的に観察されたこともあった。
F. IV:情意減弱急速進行群 病像は初期分裂病の典型例とは最も異なるものであった。初期分裂病としては寡症状性であり、なかでも緊迫困惑気分は認められなかった。発病初期よりアンヘドニアや妄想的不安を認めた。妄想的不安は自生体験を一次症状とする二次的なものであり、明確な妄想へと発展することはなかった。薬物療法がほぼ無効であり、情意減弱が比較的急速に進行し、一部の例では破瓜型に特徴的な表出症状が出現した。それに伴い初期分裂病症状も妄想的不安も自発的にさほど訴えられず治療標的ではなくなるという陳旧化ないし背景化が認められた。