内容要旨 | | 近年,米国や日本など先進諸国において,供給連鎖(機能連鎖,情報連鎖,資源連鎖の集合体)の組み替え,すなわちSCM(Supply Chain Management)と関連して,ビジネス・ロジスティクスが脚光をあびている.現実に,ビジネス・ロジスティクスは,企業間の「連合」,企業間の「提携」,企業間の「統合」など,企業間関係の革新を伴って,供給連鎖の組み替えの原動力になっている. ビジネス・ロジスティクスを原動力として,企業間関係の革新を実現し,供給連鎖の組み替えに注力している企業の業績は,ほぼ例外なく急激に向上している.なぜこれらのビジネス・ロジスティクスを導入している企業の業績が向上するのであろうか. 本論文では,SCM(Supply Chain Management)の進展を踏まえて,ビジネス・ロジスティクスの現状およびその企業業績に及ぼす効果について,具体的な事例に基づいて分析した. 本論文の構成は.次のとおりである. 第1章では,本論文における問題意識および研究課題を記述した.具体的な研究課題としては,下記の作業仮説を設定し,その検証を試みることに主眼をおいた. -作業仮説:ビジネス・ロジスティクスの形態の違いが,ビジネス・ロジスティクスの企業業績に及ぼす効果を規定する. 第2章では,本論文の分析枠組みの設定を兼ねて,ビジネス・ロジスティクスの基本概念について考察した. 第一に,ビジネス・ロジスティクスの定義を試みた.すなわち,CLM(Council of Logistics Management:米国ロジスティクス管理協議会)の定義に準拠して,「ビジネス・ロジスティクスとは,顧客のニーズを満たすために,原材料,半製品,完成品およびそれらの関連情報の算出地点から消費地に至るまでのフローとストックを効率的かつ費用対効果を最大ならしめるように計画,実施,統制することである」と定義して議論を進めた. 第二に,米国および日本におけるビジネス・ロジスティクスの発展経緯について考察した.その結果,ビジネス・ロジスティクスの発展の原動力は,規制緩和の進展と情報通信技術の進展の2つであることが明らかになった. 第三に,ビジネス・ロジスティクスの基本機能について考察した.ビジネス・ロジスティクスの基本機能は,供給連鎖を組み替えて,供給連鎖の効率性および費用対効果を最大ならしめることである.なお,本論文では,供給連鎖を機能面からみた場合,(1)調達,(2)製造,(3)マーケティング,(4)物流,(5)顧客サービスの5つを主要機能とした. 第四に,ビジネス・ロジスティクスの基盤としてのネットワークについて考察した.供給連鎖は通常,複数の組織(企業など)にまたがる場合が多いので,組織間ネットワークの構築および運用が極めて重要であることが判明した. 第五に,ビジネス・ロジスティクスの形態について考察した.本論文では,ビジネス・ロジスティクスの対象である供給連鎖の範囲の広狭とビジネス・ロジスティクスの基盤としてのネットワーク(情報ネットワーク,資源ネットワーク)の種類によって,ビジネス・ロジスティクスの形態を,(1)形態I:部分/クローズド,(2)形態II:全体/クローズド,(3)形態III:全体/オープン,(4)部分/オープン,の4つの形態に分類した. 第3章では,第2章で考察したビジネス・ロジスティクスの基本概念と分析枠組みに基づいて,ビジネス・ロジスティクスの現状について5つの観点から考察した. 第一に,ビジネス・ロジスティクスの基盤であるネットワーク(情報ネットワークおよび物流ネットワーク)の現状について考察した.情報ネットワークと物流ネットワークは,ビジネス・ロジスティクスの最大の基盤であるにもかかわらずその整備が遅れている. 第二に,ビジネス・ロジスティクス機能の現状について考察した.調達機能については,原材料,半製品,完成品の調達先および調達方法の多様化などが進展している.製造機能については,生産-販売モデルから受注-生産モデルへの移行など,従来とはその様相が大きく変化しつつある.マーケティング機能については,ワン・トゥ・ワン・マーケティングなど個客(顧客)ニーズの重視が目立つ.物流機能では,物流機能のアウトソーシングが図られている.顧客サービス機能については,「顧客満足」の充足が大きな経営課題になるに伴って,顧客サービス機能が極めて重視されるようになりつつある. 第三に,ビジネス・ロジスティクス戦略の現状について考察した.ビジネス・ロジスティクス戦略の中で最も高度とされている「攻撃型-巻込み/インテグレーション型」戦略を採用できる企業は,花王などまだ数少ない. 第四に,ビジネス・ロジスティクス部門の現状について考察した.現状では,ビジネス・ロジスティクス部門の形態は各社各様に異なっている.しかし,近年では,ロジスティクス・センターが次第に定着しつつある. 第五に,ビジネス・ロジスティクスに影響を与える外的要因について,(1)ビジネス・ロジスティクス業界,(2)ビジネス・ロジスティクスに関する行政施策,(3)商慣行,の3点について考察した.その結果,業界別の事業法が多大な影響を与えていることが判明した. 第4章では,ビジネス・ロジスティクスの4つの形態((1)形態I:供給連鎖の部分/クローズド→M社,(2)形態II:供給連鎖の全体/クローズド→花王,(3)形態III:供給連鎖の全体/オープン→ミスミ,(4)形態IV:供給連鎖の部分/オープン→ユニック)ごとに,事例研究を行なった.事例研究では,それぞれの企業について,企業の概要,ビジネス・ロジスティクス基盤,ビジネス・ロジスティクス機能,ビジネス・ロジスティクス戦略,ビジネス・ロジスティクス部門,ビジネス・ロジスティクスに影響を与える外的要因について考察した. 第5章では,ビジネス・ロジスティクスの企業業績に及ぼす効果について考察した. 第一に,ビジネス・ロジスティクスの企業業績に及ぼす効果を分析するための枠組みを設定した. 第二に,ビジネス・ロジスティクスの費用面での効果について分析した.その結果,物流費の低減,調達コストの低減などの効果に加えて,統合,提携,連合など企業間関係の革新を伴って供給連鎖の組み替えを行なうことにより,「取引コスト」(情報コスト,決済コスト,在庫コスト)の低減を中心としたコスト低減効果が得られていることが明らかになった. 第三に,ビジネス・ロジスティクスの便益面での効果について分析した.便益面での効果としては,ビジネス・ロジスティクスを原動力として,統合,提携,連合など企業間関係の革新を伴って,供給連鎖の組み替えを行なうことにより,産業フロンティアの拡大,事業構造の変革,競争優位の確立,消費時点情報の掌握,需要・供給の調整,財貨の円滑な移動,新事業創出,新業態開発などの効果が得られている.その結果,売上,利益の増大に寄与していることが明らかになった. 第四に,ビジネス・ロジスティクスの企業業績に及ぼす効果の要因について分析した.具体的には,効果の主な要因として,(1)情報の連結,資源連結を可能ならしめるビジネス・ロジスティクス基盤,(2)統合・一元化された機能,(3)「他との差異」を追及する戦略,(4)販売・物流・生産情報を統合するビジネス・ロジスティクス部門,の4つについて考察した. 第五に,ビジネス・ロジスティクスの企業業績に及ぼす効果を疎外する要因について分析した.効果を疎外する要因として,(1)ビジネス・ロジスティクス基盤としてのネットワークの整備の遅れ,(2)ビジネス・ロジスティクス機能の不全,(3)ビジネス・ロジスティクス戦略の不全,(4)ビジネス・ロジスティクス部門の不備,(5)ビジネス・ロジスティクスに影響を与える外的要因の不備,(6)ビジネス・ロジスティクス・ネットワークの構築主体の不全,の6点をあげることができる. 第6章では,第一に,はじめに設定した作業仮説(ビジネス・ロジスティクスの形態の違いが,ビジネス・ロジスティクスの企業業績に及ぼす効果を規定する)に対する検証結果を要約した. (1)ビジネス・ロジスティクスの形態I(部分/クローズド)に属する企業では,ビジネス・ロジスティクスの費用面での効果はほとんど得られていない.また,便益面でも,新業態の開発など"新たな価値の創造"に失敗している. (2)ビジネス・ロジスティクスの形態II(全体/クローズド)に属する企業では,ビジネス・ロジスティクスの費用面での効果として,物流費の低減が共通している.また,便益面での効果としては,供給連鎖の組み替えによって,新業態の開発や新事業の創出など"新たな価値の創造"によって,売上および利益の増分が見込まれている. (3)ビジネス・ロジスティクスの形態III(全体/オープン)に属する企業では,ビジネス・ロジスティクスの費用面での効果として,情報コスト,在庫コストなど「取引コスト」の低減による企業業績への寄与が見られる.また,便益面での効果としては,新業態の開発や新事業の創出など"新たな価値の創造"によって,売上および利益の増分がすでに現実のものになっている. (4)ビジネス・ロジスティクスの形態IV(部分/オープン)に属する企業では,ビジネス・ロジスティクスの費用面での効果として,情報コスト,在庫コストなど「取引コスト」の低減が図られている.また,便益面での効果としては,新業態の開発や新事業の創出など"新たな価値の創造"によって,売上および利益の増分がみられる. このように,ビジネス・ロジスティクスの4つの形態ごとに考察した結果,ビジネス・ロジスティクスの形態の違いが,ビジネス・ロジスティクスの企業業績に及ぼす効果を規定するという作業仮説は,妥当性を有するといえよう. 第二に,企業業績を規定する要因としてのビジネス・ロジスティクスの位置付けについて,他の機能との関連性について考察した. 第三に,ビジネス・ロジスティクス指標の整備などビジネス・ロジスティクスに関する中長期的な研究課題について論述した. 以上 |