本論文は,人体の動きの生成の新しい手法について論じている。その目的は、人体の動きを、人間の内部構造に基づいてシミュレーションする方法を確立することである。 近年、CG、ロボティックス、仮想現実感の研究において、人体の動きへの関心が高まりつつある。そのような動作データを生成/編集する方法としてモーションキャプチャーシステム、力学アニメーション、インバースキネマティクス等の手法が用いられてきた。しかし、その際、骨格や筋力などの人間の内部構造を考慮に入れた上で動作データを扱う手法がなかった。そのため、疲労や怪我といった生理的な要因による動作の変化をシミュレートすることができなかった。 本論文では人体の筋骨格系モデルを用いて人間の動作データを生成/変形するための手法を提案する。 まず、筋骨格系モデルの有効性を示すためにモデルの動作能力を計算、可視化するための手法を提案する。可視化された動作能力を実際の人間のデータと比較することにより、モデルの妥当性を確認することができる。 次に筋骨格系モデルを用いることにより、キーフレームを指定することによって人間の動作を自動的に作成したり、モーションキャプチャー等の装置を用いて得た実際の人間の動作データを変換したりする方法を提案する。 本手法を用いることにより、力学的、かつ生理的に妥当な動作を生成することができる。各筋肉にはHillの筋肉モデルを用いており、筋肉のパラメータを変化させることにより、与えられた動作から徐々に疲労していったときの動作やけがしたときの動作、筋力の違いなど生理的な要因による動作の変化をシミュレートすることができる。 本手法は人間モデルのインバースキネマティクス、動作の補間、リターゲッティング等に用いることができる。 審査担当者は,以上のような理由により,本論文は博士(理学)の学位論文として充分な内容を持つものであると一致して判定した。 |