学位論文要旨



No 114930
著者(漢字) 幸村,琢
著者(英字)
著者(カナ) コウムラ,タク
標題(和) 筋骨格系モデルを用いた人体動作の生成・変形
標題(洋) Creating and Retargetting Motion by the Musculoskeletal Human Body Model
報告番号 114930
報告番号 甲14930
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第3694号
研究科 理学系研究科
専攻 情報科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 西田,友是
 東京大学 教授 坂村,健
 東京大学 教授 池内,克史
 東京大学 助教授 今井,浩
 埼玉大学 助教授 近藤,邦雄
内容要旨

 人体の動きをコンピュータグラフィクスで生成する方法は従来、動きのパラメタを手動で設定するか、モーター制御と同じ方法を用いるかのどちらかであった。それらは、人体の筋肉や骨格を考慮していないため、不自然な動作が生成されることが多かった。しかし、今後、人体の動きの生成や解析は、CGやロボティックス、仮想現実感や、エルゴノミクスの分野において、需要がますます高まっていくことに対応するため、人体の筋肉や骨格などの内部構造を反映した手法が望まれていた。

 本論文では人体の筋骨格系モデルを用いて人間の動作データを生成/変形するための手法を提案している。筋肉のデータ(筋肉の付着位置・筋線維の長さ・筋肉の平均断面積等)としてはバイオメカニクスの分野で公表されて解剖学的なデータを用いた。各筋肉には実験的に正当性が示されているHillの筋肉モデルを用いている。更にGiatにより提案されている筋肉の疲労・回復のモデルをHillのモデルと組み合わせている。

 まず、筋骨格系モデルの有効性を示すためにモデルの動作能力を計算、可視化するための手法を提案する。まず各関節がある姿勢でどれ位のトルクや各加速度を発揮できるか、続いて、足といった体の末端部が三次元空間内で各方向にどれだけの大きさの力(最大可動力)や加速度(最大加速度)を出力することができるかを計算・可視化する手法を提案している。その際、各筋肉がどれだけの力を発揮しているかも同時に算出される。結果を可視化する際に各筋肉がどれだけ力を発揮しているかも見てわかるようになっている。可視化された動作能力を実際の人間のデータと比較することにより、筋骨格モデルの妥当性を確認している。

 次に筋骨格系モデルと最適化を組み合わせることにより、キーフレームを指定することによって人間の動作を自動的に作成したり、モーションキャプチャー等の装置を用いて得た実際の人間の動作データを変換したりする方法を提案する。その際、姿勢のバランスが保たれることも考慮に入れている。本手法を用いることにより、力学的、かつ生理的に妥当な動作を生成することができる。、筋肉のパラメータを変化させることにより、与えられた動作から徐々に疲労していったときの動作やけがしたときの動作、筋力の違いなど生理的な要因による動作の変化をシミュレートすることができる。

 具体的には、まずキーフレームから動作を作成した例としては立上り動作、キック動作がある。このような動作を作成する際既存のキーフレームアニメーションでは非常に不自然な動作が作成され得るが、本手法では自然な動作が得られる。また、Giatの疲労・回復モデルを用いて、徐々に疲れていくキック動作を生成したり、膝の伸筋である中間広筋、内側広筋、外側広筋のHillの筋肉モデルのパラメータを変化させることにより、怪我した立上り動作を生成した。次にモーションキャプチャーで得た動作を変形しているが、その際、歩行動作とキック動作を使っている。歩行動作ではまず、片足の筋肉全部の収縮部で最大発揮可能な力を弱めることにより、片足をひきずる歩行動作をオリジナルの歩行動作から作成した。次に、重力の方向を変化させることにより坂道を登る歩行動作を作成した。キック動作ではGiatのモデルを用いて徐々に疲れていく動作を作成したり、足にゴムチューブをつけた時の動作を作成した。

 本手法は人間モデルのインバースキネマティクス、動作の補間、リターゲッティング等に用いることができる。将来課題としては筋骨格モデルの体系を変化させ、一つの動作から様々な体型の人間の動作を作成することが挙げられる。

審査要旨

 本論文は,人体の動きの生成の新しい手法について論じている。その目的は、人体の動きを、人間の内部構造に基づいてシミュレーションする方法を確立することである。

 近年、CG、ロボティックス、仮想現実感の研究において、人体の動きへの関心が高まりつつある。そのような動作データを生成/編集する方法としてモーションキャプチャーシステム、力学アニメーション、インバースキネマティクス等の手法が用いられてきた。しかし、その際、骨格や筋力などの人間の内部構造を考慮に入れた上で動作データを扱う手法がなかった。そのため、疲労や怪我といった生理的な要因による動作の変化をシミュレートすることができなかった。

 本論文では人体の筋骨格系モデルを用いて人間の動作データを生成/変形するための手法を提案する。

 まず、筋骨格系モデルの有効性を示すためにモデルの動作能力を計算、可視化するための手法を提案する。可視化された動作能力を実際の人間のデータと比較することにより、モデルの妥当性を確認することができる。

 次に筋骨格系モデルを用いることにより、キーフレームを指定することによって人間の動作を自動的に作成したり、モーションキャプチャー等の装置を用いて得た実際の人間の動作データを変換したりする方法を提案する。

 本手法を用いることにより、力学的、かつ生理的に妥当な動作を生成することができる。各筋肉にはHillの筋肉モデルを用いており、筋肉のパラメータを変化させることにより、与えられた動作から徐々に疲労していったときの動作やけがしたときの動作、筋力の違いなど生理的な要因による動作の変化をシミュレートすることができる。

 本手法は人間モデルのインバースキネマティクス、動作の補間、リターゲッティング等に用いることができる。

 審査担当者は,以上のような理由により,本論文は博士(理学)の学位論文として充分な内容を持つものであると一致して判定した。

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