統計力学における代表的な2次元可解格子模型であるABF模型は、その臨界指数が共形場理論の予想と一致することが確かめられている。具体的にはABF模型はparameter rによって指定される模型のfamilyであり、各模型はcentral charge c=1-の共形場理論で記述される。これは共形場理論のアイデアから自然に期待された結果であったが、その後の研究はABF模型の一点関数がVirasoro代数の指標を用いて書かれることまで明らかにした。一点関数は温度に依存しているので、これは模型が臨界点を外れたところでも"共形場理論的な構造"を持つことを意味する。この構造は次のようなものであることが最近の研究で分かった。すなわち、ABF模型のcorner transfer matrixのspectrum generating algebraが上記のcentral chargeを持つVirasoro代数のq-変形(q-Virasoro代数)x,rであり、半無限の転送行列と(anti-)kinkの生成消滅演算子がq-Virasoro代数のprimary場である。(qはABF模型の温度に対応するparameterであり、=-qo)またq-Virasoro代数のscreening currentは楕円代数Uq,pを成しており、この代数は楕円量子群とzero modeの代数{P,Q|[Q,P]=1}のtensor積として構成できる。この量子群の頂点作用素が前述のprimary場であり、半無限の転送行列はtype I、(anti-)kinkの生成消滅演算子はtype IIと呼ばれる頂点作用素になっている。 このような最近の結果を出発点に3通りの方向へ研究を進めた。各章はそれぞれ一つの投稿論文に対応している.但し本論文では投稿論文を発展させた未発表の結果も含んでいる. Free field approach to dilute AL models dilute AL模型はABF模型と同じuniversality classに属する2次元可解格子模型である。但しABF模型は共形場理論の可積分摂動の観点からは12-摂動であるが、dilute AL模型は13-摂動なので後者からはABF模型とは異なるq-変形を施されたVirasoro代数が得られると予想される。また対応する量子群もこの模型では()である点が異なる。 我々はまず()からdilute AL模型の頂点作用素の自由場表示を構成し、それを用いてn点関数の積分表示を与えた。さらにscaling limitをとる事によりq-Knizhnik-Zamolodchikov(q-KZ)方程式の|q|=1における解を構成した.自由場によって構成されるFock空間はそのままではcorner transfer matrixの固有ベクトルの空間よりも大きいのでBRST-cohomologyで商空間をとることが必要である。この模型ではがtwistedされたaffine Lie環であることからからの拡張が非自明であり、Feigin-Odesskii代数に帰着させることで解決した。。これは今までにあまり知られていない現象で問題が難しくなっている。 次に頂点作用素の合成によりq-Virasoro代数x,r()を構成したが、これは予想通りABF模型のものとは異なる交換関係を満たす事が分かった。またこのq-Virasoro代数は、2次元可積分な場の理論の模型でありdilute AL模型の連続極限と考えられるBullough-Dodd modelのangular quantizationから導かれた代数とも一致する。 q-Virasoro代数のcurrentが頂点作用素の合成により与えられるということは、currentがbreather(kinkとanti-kinkの束縛状態)の生成消滅演算子になっていることを意味する。またL=3の場合に、この模型はmagnetic Ising模型に等価なのでscatteringにE8的な構造があることが知られている。我々は高次のcurrent T(n)(z),を定義し、E8的な構造を8種類のbreatherの生成作用素の交換関係として構成してみせた。(T(1)(z)は元々のcurrentであり、T(n)(z)はT(1)(z)を合成することにより得られる。)すなわちf(n,m)(z)などを有理関数として という関係式が成り立ち、比f(n,m)(z2/z1)/f(m,n)(z1/z2)はscaling limitでmagnetic Ising模型のS行列Sn,m(1-2)と一致する。(iはzlのscaling limit)さらに次のような種類の関係式も八つ成り立つ これは解析的Bethe仮説法で研究されているE8型のT-systemの式と酷似しており、q-Virasoro代数のcurrentがaffine量子群の指標と酷似した関係式(dressed vacuum form)を満たすというABF模型における指摘とも合致する結果である。 Free field realiztion of vertex operators for level two modules of Uq 投稿論文では量子群Uq(sl2)のlevel 2表現の頂点作用素をbosonとfermionを用いて具体的に構成した。付随する有限次元表現はspin 1と1/2が有り得るが特に1/2の時にはfermionの部分はRamond sectorとNeveu-Schwartz sectorを結ぶfermion emission operatorのq-変形になっており興味深い。論文出版後更に、Uqの結果をもとに楕円量子群(sl2)のlevel 2表現とその場合の頂点作用素に対しても自由場表示を得た。これにはがUqのHopf代数としての構造を捻る事で得られるquasi-Hopf代数であることを用いた。 冒頭で述べたABF模型の代数的構造を、k回fusionしたABF模型に対して考える.対応するCFTはであり、screening currentはUq,p,のlevel k表現を与えている.従ってわれわれが自由場表示したの頂点作用素はq-変形されたN=1 super CFTのprimary場であると考えられる。現在、ABF模型とdilute AL模型に倣って、これを合成することでq-変形されたN=1 superconformal algebraを求めているが最終的な結果を得るまでに至っていない。ここでは現状報告をしておく。 Correlation functions of the XYZ model with a boundary XYZ模型については対応する楕円量子群Aq,p(sl2)が提唱されているものの、自由場表示が良く分からない為にXXZ模型とUqの場合のように対称性を用いて模型を解くには至っていない。しかし最近intertwining vectorを用いたface-vertex対応によりXYZ模型をABF模型にmapすることで、間接的にXYZ模型を自由場表示しn点関数を求めることが成された。この手法を片側のみ可解な境界を持つ半無限のXYZ模型 に適用し相関関数の積分表次式を求めた。可解な境界はboundary Yang-Baxter equationを満たすK-matrixにより定式化されるが、我々はboundary Yang-Baxter equationの一般解で三つのparameterを持つK-matrixに対して結果を得た。三つのparameterは境界のspinにかける,y,z方向の外場に対応している。従来の可解な境界に対する頂点作用素を用いた研究では(自由場表示を用いて解かれたXXZ模型、ABF模型に対しても、q-KZ型の方程式を解くことで相関関数を求めたXYZ模型に対しても)対角成分のみを持ち一つしかparameterをもたないK-matrixの場合しか扱われていなかった。このK-matrixはABF模型のK-matrixからintertwining vectorを用いて構成される。また上述したq-KZ equatjonによる結果は我々の積分表次式の特殊化により得られることも確かめた。 |