高エネルギーガンマ線天文学は、特にガンマ線による空気シャワーが大気中で発する光を地上に置かれた望遠鏡で検出する方法で近年急速に発展している。地球大気に突入した高エネルギー粒子または光子は空気シャワーを生成しその進行方向にチェレンコフ光を放出する。このチェレンコフ光を集光することにより、空気シャワーのイメージをとらえ一次宇宙線の到来方向、成分、エネルギーを決定することができる。イメージング法と呼ばれるこの方法は高エネルギーガンマ線の観測に威力を発揮し、この分野の急速な発展をもたらした。これにより、超新星残骸や活動銀河中心核からの高エネルギーガンマ線が確認されている。 活動銀河はその中心に108〜109の超巨大ブラックホールが存在すると考えられている。周りのガスや星がこのブラックホールに落ちて行くことによりこの周りに高速に回転する降着円盤が形成され、その降着円盤と直行する方向に相対論的なジェットが放出されている。ブラックホールのごく近傍ではジェット中にある電子が相対論的エネルギーまで加速され、それに伴い莫大なエネルギーを放出していると考えられている。 1996年夏からアメリカユタ州に3m口径の望遠鏡を7台建設し、近傍の活動銀河中心核のサーベイ観測を行った。観測を開始して間もなく、近傍の活動銀河中心核Mrk501からのTeVガンマ線フレアーの検出に成功した。97年3月に始まったこの前例のない明るさのガンマ線フレアーは、その強度を大きく変動させながら約半年にわたり全天で最も明るいガンマ線源として輝き続けた。この150時間に及ぶ観測データを詳細に解析し、観測されたガンマ線の強度、エネルギー分布を調べた。 この結果、 ・観測されたガンマ線のスペクトラムは折れ曲がっており単純な巾関数では説明出来ない。 ・人工衛星により、同時に観測されたX線領域の結果と比較すると、ガンマ線とX線の強度は一致して変動している。 ・X線と比べてガンマ線の強度は大きく変動しており、数日から数十日のスケールで10倍以上の変動を繰り返している。 ・ガンマ線の強度の変動に対し、スペクトラムの構造に変動が見られない。 ことが確認された。 図1:活動銀河中心核Mrk501からのガンマ線フレアーを解析した結果。左図はMrk501を中心とし、天球上4度×4度の範囲で有意性の分布を示している。Mrk501からのガンマ線が30の有意性で検出されている。右図はガンマ線の微分エネルギースペクトラムを計算した結果。複数の望遠鏡を使ったステレオ解析と個々の望遠鏡を独立に解析したモノラル解析の結果をプロットしている。スペクトラムは折れ曲がっており、単純な巾関数では説明できない。曲線は指数関数のカットオフを仮定した巾関数でフィットした結果を示している。図2:左図はX線とガンマ線の観測結果を自己シンクロトロンコンプトン散乱モデルによりフィットした結果。X線のデータはRXTEの観測結果の内4日分を使用した。ガンマ線の観測結果は97年全体の平均スペクトラムと観測された日毎のガンマ線検出頻度からそれぞれの日のスペクトラムを推定した結果。曲線はモデルから予想される光子の放射エネルギー分布を示している。右図は銀河間背景赤外線の吸収によるガンマ線の光学的厚さの1027Hzを基準とした相対値を推定した結果。曲線は、理論から予想されるそれぞれの赤方変移の天体までの光学的厚さ。 このフレアーの特性を調べるため、X線天文衛星RXTEの観測結果と合わせ、放射機構モデルの計算を行った。放射機構は、X線をシンクロトロン放射により放出している高エネルギー電子がそのシンクロトロン光子と衝突し逆コンブトン散乱を起こすことによりガンマ線を放射しているとする自己シンクロトロンコンプトンモデルを採用した。この結果、 ・放射領域の半径は約0.025pcであり中心核のごく近傍である。 ・ジェットは中心核から遠ざかるにしたがって減速している。 ・観測されたガンマ線のスペクトラムに変動が見られないことは、放射モデルと誤差の範囲で一致する。 ・観測されたスペクトラムの折れ曲がりは、銀河間背景赤外線による吸収とモデルから予想される放射領域でのガンマ線のエネルギー分布からほぼ完全に説明できる。 ことが分かった。さらにこのモデルから予想される放射領域でのガンマ線のエネルギー分布と、観測されたガンマ線のルミノシティーから、銀河間背景赤外線による吸収の相対量を推定した。この結果は、星の明りとダストによる再放射から予想される背景赤外線の量と良く一致している。銀河間背景赤外線は、人工衛星、気球を用い直接測定が行われているが、銀河系、検出器、地球からのバックグラウンドに阻まれ、上限と下限のみが求められている。本論文で用いたデータのみから絶対量を求めることは出来ないが、銀河間背景赤外線の測定として現在唯一の結果である。 |