銀河・銀河団には10万度から1億度の高温ガス(X線ガス)が存在していることが、X線観測衛星「あすか」などによって観測されている。我々の銀河系にも、銀河中心・銀河ハロー・銀河面(天の川)などに高温ガスが分布している。しかし、その起源や振舞いについてはまだ分かっていないことが多い。例えば、銀河面付近(|銀経|40°,|銀緯|1-2°)で、銀河面X線放射(Galactic Ridge X-ray Emission=GRXE、図1)と呼ばれる強いX線放射(3-10keV)が、「てんま」・「ぎんが」・「あすか」などによって観測されている(小山ら1986,1989,山内ら1996)。明るさはLX(2-10keV)〜(1-2)×1038erg sec-1である。このX線は主に0.8keVの低温成分と7keVの高温成分からなっている。このうち低温成分は超新星の集合で説明できる。しかし高温成分は、そのスペクトル・明るさ・分布のスケールハイトなどから、点源の重ね合わせでは説明できないことが「あすか」の観測で分かっている(金田ら1997)。また、高温成分はガス圧や重力では銀河面付近に閉じ込めることができないことや、もし磁場がないとすると熱伝導ですぐに(103-4年)冷えてしまうはずであるということも問題である。高温ガスは加熱されてから〜105.5年経っていることが、X線のライン強度から分かっているからである。 図1:X線観測衛星EXOSATによって観測された銀河面からのX線分布。1億度の高温ガスの生成と銀河面付近への閉じ込めの原因については不明である(Warwickら1988より)。 星間空間には、平均して数マイクロガウスの磁場が存在している(図2)。銀河系では磁場は渦巻の腕に沿って銀河面にほぼ平行に分布している。磁場は、星や星間雲の形成・分布に大きな影響力を持っている。というのは、星間ガスのほとんどは、プラズマ状態になっているため、磁場と一緒に動くからである。このように磁場が大きな役割を果たす状況は、太陽表面や地球磁気圏によく似ている。太陽表面では強い磁場が活動し、太陽フレアや太陽ジェットなどの爆発現象を引き起こしている(横山・柴田1994)。原因は「磁気リコネクション」(磁力線がつなぎ変わることで、このとき磁気エネルギーが瞬間的に熱に変わる)と呼ばれる現象で、X線観測衛星「ようこう」によって観測されている。このような太陽表面の磁場活動は、地球上の磁気嵐やオーロラの原因にもなる。もしこのような「磁場による加熱」が銀河でも起っていれば、1億度の高温ガスが作り出される可能性がある(牧島1994)。 図2:星間磁場。銀河は磁場で満たされている。向きの違う磁場どうしがぶつかって、「磁気リコネクション」を起こす可能性がある。そこで、黒枠で囲んだような状況を想定して、2次元シミュレーションを行なった。実際の3次元空間では少しでも向きが違えば磁気リコネクションは起こる。 そこで、星間磁場のリコネクションで磁気エネルギーを解放することで星間プラズマを7keVに加熱するという定量的なシナリオを作った(田沼ら1999)。磁気リコネクションは、超新星爆発などによって磁場どうしが押しつけられて引き起こされる(図3)。加熱されたガスは磁場によって長期間(〜105.5年)閉じ込められる。この時、もし星間磁場が局所的にBlocal〜30Gに強められたところでリコネクションが起きると、kT-より8keVの高温成分が生成できる。平均的な磁場の強さを(B)〜3Gとすると、Blocal〜30Gの磁場の体積フィリング・ファクターは(B)/Blocal〜3/30=0.1である。リコネクションがGRXE低温成分中で起こるとすると、Blocal〜30Gの磁場の磁気圧力とガス圧の比は(ガス圧/磁気圧)〜0.2である。これは等価磁場よりも強いが、局所的には現れることが3次元シミュレーションから示唆されている(松元ら1998)。しかし、磁場分布の細かい構造は、観測で調べるのはむつかしい。今後、銀河全体を扱う数値シミュレーションや磁場分布の詳しい観測を行なって確認する必要がある。 図3:超新星に伴う磁気リコネクション。2次元シミュレーションでは、簡単のため、反平行な一様磁場が超新星爆発によって押しつけられる状況を調べる。超新星が向きの違う磁場を押しつけ、磁気リコネクションを起こす。そして高温ガスが生成される。加熱されたガスは磁場によって閉じ込められる(磁気アイランド)。 このシナリオを確かめるため、実際の銀河の物理量を使って2次元の非線型MHD数値シミュレーションを行なった。簡単のために、初期条件として、平行な一様磁場とそれに反平行の一様磁場を置き、一様温度・MHD圧力平衡のガスで満たされた領域を設定した。簡単のため、重力・回転・熱伝導・放射冷却などの効果は無視した。そして電流シート付近で超新星爆発をおこした。この種のシミュレーションとしては、世界で最も高い分解能と広い計算領域を設定した。その結果、境界条件の影響を排除でき、リコネクションそのものの素過程の時間発展を詳細に追うことができた。電気抵抗は、異常抵抗モデル(横山と柴田1995)を仮定した。 超新星爆発によって互いに反平行の磁場どうしが押しつけられる(6×104年)が、すぐにはリコネクションはおこらなかった。そして爆発のショック波通過後しばらく経った後(6×106年)に、以下の順に磁気リコネクションを起こした:テアリング不安定→電流シートthinning→スィート(1958)-パーカー(1963)型の穏やかなリコネクション→スィート-パーカー型の薄い電流シート中における再度のテアリング不安定→ペチェック型(1964)の激しいリコネクション。この結果、磁気アイランド(プラズモイド)の内部や電流シート付近で強いX線を出すことが分かった(図4)。また、温度はnkT〜、磁気エネルギー解放率は|dEmag/dt|()Aと超新星爆発のエネルギーにはほとんど依存せず、最初に仮定した磁場の強さによって決まることが分かった。その結果、Blocal〜30Gに局在した磁場が磁気リコネクションを起こすと高温プラズマ(7keV)を生成できることが分かった。その後、繰り返し発生する磁気アイランドが、加熱されたガスを磁場によって長期間閉じ込めることが分かった。 図4:X線強度(と磁力線と速度ベクトル)分布の時間変化。初期の磁場はy=0をはさんで反平行に与えた。超新星は(0、140)pcにおいた。磁気リコネクションによって高温ガスが作られ、強いX線を放射することが分かった。1pcは3.26光年(30兆km)。重力・放射・熱伝導の効果は入っていない。 本論文で提案した、銀河面(や銀河中心・ハロー)における星間ガスの磁気的な加熱の証拠が、Astro-E・AXAF(Chandra)・XMM衛星などによって観測される可能性がある。あるいは、磁気的な加速の証拠が、電波や光・赤外線で観測される可能性がある。 |