本論文は6章からなり、第1章は中央海嶺研究の背景、第2章は南西インド洋海嶺での観測、第3章は地震学的手法による速度構造解析、第4章は地震学的データと重力のデータとを統合した地殻構造解析、第5章は地震活動、第6章は以上を総合して、南西インド洋海嶺における、超低速拡大海嶺の実態の解明とその形成過程について論じている。 中央海嶺における地形、地殻構造は、海底拡大速度に大きく依存し、さまざまな形態のセグメント構造を形成することが知られている。しかし拡大速度が極めて遅い南西インド洋海嶺や北極海嶺では、地理的条件のため調査例が少ない。 本研究では中央海嶺の構造様式を知る上で重要な、超低速拡大海嶺における地殻形成過程の情報を得るため、南西インド洋海嶺ジョーダンセグメント(拡大速度14mm/yr)において、自己浮上型海底地震計を利用し、制御震源による構造探査と自然地震観測を行った。論文提出者は、観測計画の立案、観測の実施、データ解析を行った。また海底地震観測と同時に行ったマルチナロービームによる海底地形観測のデータ、ならびに船上重力観測データを併せて用いることにより、ジョーダンセグメントの3次元地下構造を求めた。 まず、制御震源を用いた地震学的な方法で地殻構造を求めた。次に、重力・海底地形データを用いて、3次元的な地殻構造モデルを求めた。その結果は、地殻のもっとも厚いセグメント中央部においても、地殻は5km程度にしかならない。本研究によって超低速拡大海嶺では始めて地殻の厚さが求められた。 このような地殻が薄いという事実から、ジョーダンセグメントにおいては周辺のセグメントと同様、テクトニックな活動が支配的であるものと考えられる。特に、セグメント端部は、地殻の厚さも極めて薄く高速度異常を示し、地震活動が海底下10kmにまで達しており、テクトニックな活動が顕著である。一方、軸に直行する方向における地殻の厚さの変化は、セグメント沿いの構造の変化から予想される間欠的なメルトの供給が、空間的のみならず時間的にも変化することを示している。 一方、セグメント中央部最浅部の低速度は、火成活動により形成された空隙率の大きな物質と解釈することができる。これは地質学的スケールで見たときの「現在」において、メルトの供給あるいは集積があったものと考えられる。このことはセグメント中央部における岩石採取データや、今回の観測で同時に行われた深海曳航型サイドスキャンソナーによる詳細な表層部の構造と矛盾しない。 また、セグメント中央部直下においては海底下5-7kmに顕著な地震活動が認められた。これらの活動は典型的な本震-余震型をしており、マグマやメルトなどによる応力場の変化により発生したとは考えにくい。低速拡大海嶺で、テクトニクス性のマントル地震が報告されたことはこれまで無く、本研究によって発見された重要な知見のひとつである。 低速拡大海嶺である大西洋中央海嶺においても、セグメント中央部で海底下7kmに達する活動の報告はなく、現在メルトが存在しているとは考えにくい。このことは海嶺軸直交方向にみられる消長の歴史と同じように、いまはジョーダンマウンテンズを形成した火成活動が、活発な段階を終えつつあるということを示している。このような急速なメルトの消失を、急速なメルトの上昇による結果と考えると、他の中央海嶺におけるセグメントと比較して極めて急傾斜なジョーダンマウンテンズの比高を説明することができる。 以上の結果は海嶺とリソスフェアーの形成過程についての新しい知見を与えた。したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 |