学位論文要旨



No 115010
著者(漢字) 山田,知朗
著者(英字)
著者(カナ) ヤマダ,トモアキ
標題(和) 南西インド洋海嶺ジョーダンマウンテンズの地殻構造と地震活動
標題(洋)
報告番号 115010
報告番号 甲15010
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第3774号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 平田,直
 東京大学 教授 玉木,賢策
 東京大学 助教授 藤本,博巳
 東京大学 教授 金沢,敏彦
 東京大学 教授 笠原,順三
 東京大学 助教授 篠原,雅尚
内容要旨

 中央海嶺における地形、地殻構造は、海底拡大速度に大きく依存し、さまざまな形態のセグメント構造を形成することが知られている。しかし拡大速度が極めて遅い南西インド洋海嶺や北極海嶺では、地理的条件のため調査例が少ない。本研究では中央海嶺の構造様式を知る上で重要な、超低速拡大海嶺における地殻形成過程の情報を得るため、南西インド洋海嶺ジョーダンセグメント(拡大速度14mm/yr)において、自己浮上型海底地震計を利用し、制御震源による構造探査と自然地震観測を行った[図1]。また海底地震観測データと同時に行ったマルチナロービームによる海底地形データ、ならびに船上重力観測データを併せて用いることにより、ジョーダンセグメントの3次元地下構造を求めた。

図1 観測点配置。南西インド洋海嶺東部のジョーダンセグメントにおいて海底地震観測を行った[図左下]。10台の海底地震計を+印の場所に設置し、測線I,II,IIIの三測線上でエアガンによる発振を行った[図右上]。発振後、5.5日(2台)および50-60日(4台)の自然地震観測を行い、回収した。

 制御震源を用いた波線追跡[図2]と重力データによると、地殻のもっとも厚いセグメント中央部においても、地殻は5km程度にしかならない。このような地殻が薄いという事実からは、ジョーダンセグメントにおいては周辺のセグメントと同様、テクトニックな活動が支配的であるものと考えられる。特に高速度異常を示し、地震活動が海底下10kmにまで達するセグメント端部は、地殻の厚さも極めて薄くなっており、テクトニックな活動が顕著である。一方、軸に直行する方向における地殻の厚さの変化は、セグメント沿いの構造の変化から予想される間欠的なメルトの供給が、空間的のみならず時間的にも変化することを示している。

図2 波線追跡による地殼構造。セグメント中央部最浅部に低速度領域がある。また、セグメント端部から中央部に向かって急激に深くなる、モホと考えられる反射面が存在する。

 一方、セグメント中央部最浅部の低速度は、火成活動により形成された空隙率の大きな物質と解釈することができる。これは地質学的スケールで見たときの「現在」において、メルトの供給あるいは集積があったものと考えられる。このことはセグメント中央部における岩石採取データや、今回の観測で同時に行われた深海曳航型サイドスキャンソナーによる詳細な表層部の構造と矛盾しない。しかしセグメント中央部直下においては海底下5-7kmに顕著な地震活動が認められた[図3]。これらの活動は典型的な本震-余震型をしており、マグマやメルトなどによる応力場の変化により発生した物とは考えにくい。また低速拡大海嶺である大西洋中央海嶺においても、セグメント中央部で海底下7kmに達する活動の報告はなく、現在メルトが存在しているとは考えにくい。このことは海嶺軸直交方向にみられる消長の歴史と同じように、いまはジョーダンマウンテンズを形成した火成活動が、活発な段階を終えつつあるということを示している[図4]。このような急速なメルトの消失を、急速なメルトの上昇による結果と考えると、他の中央海嶺におけるセグメントと比較して極めて急傾斜なジョーダンマウンテンズの比高を説明することができる。

図3 セグメント中央部の地震活動時空間分布。セグメント中央部においても地震活動は極めて活発であり、マントル領域で発生しているものと考えられる地震も存在する。活動様式は中央海嶺で一般にみられるような群発型ではなく、むしろ内陸地震の典型である本震-余震型に近い。図4 ジョーダンセグメントの地殻構造と地震活動。a.) 海嶺軸直交方向(拡大方向)断面。地殻の厚さの変化から、メルト供給に時間的変化があることが予想される。b.) 海嶺軸沿い断面。平均的地殼に較べて地殻は薄い。その中でもセグメント端は特に地殻が薄く、最浅部に高速度域が存在する。対照的に、セグメント中央最浅部には低速度域が存在する。また、セグメント中央部にみられる震源の下限はマントルにまで達している。地殻の厚さの変化と全体に地殼が薄いということから、メルトの供給はセグメント中央部に集中しているが、極めて間欠的であると考えられる。また海底地形の比高や、低速度域の存在と地震活動の特徴などから、極めて最近までセグメント中央部にメルトの供給があったが、現在は既に供給が絶たれていることが強く示唆される。
審査要旨

 本論文は6章からなり、第1章は中央海嶺研究の背景、第2章は南西インド洋海嶺での観測、第3章は地震学的手法による速度構造解析、第4章は地震学的データと重力のデータとを統合した地殻構造解析、第5章は地震活動、第6章は以上を総合して、南西インド洋海嶺における、超低速拡大海嶺の実態の解明とその形成過程について論じている。

 中央海嶺における地形、地殻構造は、海底拡大速度に大きく依存し、さまざまな形態のセグメント構造を形成することが知られている。しかし拡大速度が極めて遅い南西インド洋海嶺や北極海嶺では、地理的条件のため調査例が少ない。

 本研究では中央海嶺の構造様式を知る上で重要な、超低速拡大海嶺における地殻形成過程の情報を得るため、南西インド洋海嶺ジョーダンセグメント(拡大速度14mm/yr)において、自己浮上型海底地震計を利用し、制御震源による構造探査と自然地震観測を行った。論文提出者は、観測計画の立案、観測の実施、データ解析を行った。また海底地震観測と同時に行ったマルチナロービームによる海底地形観測のデータ、ならびに船上重力観測データを併せて用いることにより、ジョーダンセグメントの3次元地下構造を求めた。

 まず、制御震源を用いた地震学的な方法で地殻構造を求めた。次に、重力・海底地形データを用いて、3次元的な地殻構造モデルを求めた。その結果は、地殻のもっとも厚いセグメント中央部においても、地殻は5km程度にしかならない。本研究によって超低速拡大海嶺では始めて地殻の厚さが求められた。

 このような地殻が薄いという事実から、ジョーダンセグメントにおいては周辺のセグメントと同様、テクトニックな活動が支配的であるものと考えられる。特に、セグメント端部は、地殻の厚さも極めて薄く高速度異常を示し、地震活動が海底下10kmにまで達しており、テクトニックな活動が顕著である。一方、軸に直行する方向における地殻の厚さの変化は、セグメント沿いの構造の変化から予想される間欠的なメルトの供給が、空間的のみならず時間的にも変化することを示している。

 一方、セグメント中央部最浅部の低速度は、火成活動により形成された空隙率の大きな物質と解釈することができる。これは地質学的スケールで見たときの「現在」において、メルトの供給あるいは集積があったものと考えられる。このことはセグメント中央部における岩石採取データや、今回の観測で同時に行われた深海曳航型サイドスキャンソナーによる詳細な表層部の構造と矛盾しない。

 また、セグメント中央部直下においては海底下5-7kmに顕著な地震活動が認められた。これらの活動は典型的な本震-余震型をしており、マグマやメルトなどによる応力場の変化により発生したとは考えにくい。低速拡大海嶺で、テクトニクス性のマントル地震が報告されたことはこれまで無く、本研究によって発見された重要な知見のひとつである。

 低速拡大海嶺である大西洋中央海嶺においても、セグメント中央部で海底下7kmに達する活動の報告はなく、現在メルトが存在しているとは考えにくい。このことは海嶺軸直交方向にみられる消長の歴史と同じように、いまはジョーダンマウンテンズを形成した火成活動が、活発な段階を終えつつあるということを示している。このような急速なメルトの消失を、急速なメルトの上昇による結果と考えると、他の中央海嶺におけるセグメントと比較して極めて急傾斜なジョーダンマウンテンズの比高を説明することができる。

 以上の結果は海嶺とリソスフェアーの形成過程についての新しい知見を与えた。したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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