本論文は3章からなり、第1章ではペースメーカー電位再分極相に関与するK電流の解析について、第2章では終神経GnRH細胞におけるGnRHペプチドによるペースメーカー活動の修飾について、第3章ではGnRHペプチドによる終神経GnRH細胞ペースメーカー活動の修飾メカニズムについて述べられている。 脊椎動物の中枢神経系には、従来ペプチドホルモンとして発見されたゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)を産生する複数のGnRH神経系が存在するが、その一つに属する終神経GnRH神経系はホルモン作用は持たずに何らかの神経修飾作用を持つと考えられている。また、その神経修飾作用には、それらが示す規則的自発発火(ペースメーカー活動)の頻度やパターンが重要であり、この活動がホルモン・神経伝達物質等により修飾されることで環境の変化が行動の長期的変化等を引き起こすと考えられている。本論文は、終神経GnRH細胞のペースメーカー活動の生成機構とその修飾機構を明らかにすることを目的としている。 第1章では,テトラエチルアンモニウム感受性K電流が終神経GnRH細胞のペースメーカー電位再分極相の形成に最も寄与する電流成分であることを示した。従来の知見とこの結果より終神経GnRH細胞が示すペースメーカー活動の基本的ペースの形成メカニズムが明らかになった。そこで第2章ではどのような物質がペースメーカー活動の発火頻度や発火パターンを変化させうるのかを検索し、終神経GnRH細胞自身が分泌するGnRHと同一分子種であるサケ型GnRHが終神経GnRH細胞のペースメーカー活動に影響を及ぼすことを発見した。この修飾は一過性の発火頻度の減少と続く持続性の発火頻度上昇から成っており、終神経GnRH細胞表面に存在するGタンパク質共役型GnRH受容体の活性化がペースメーカー活動の修飾を引き起こす細胞内情報伝達機構を賦活化する引き金となっていることを示唆する結果が得られた。第3章では、この終神経GnRH細胞ペースメーカー活動の二相性修飾に関与する細胞内メカニズムを調べた。その結果、終神経GnRH細胞ペースメーカー活動の二相性の修飾現象では、細胞自身から分泌されたGnRHにより終神経GnRH細胞膜上に存在するGタンパク質共役型GnRH受容体が活性化されることによって、まず細胞内ストアからCaが放出され、Ca依存性K電流が活性化してペースメーカー活動の過分極相が増強されることで初期相の一過性発火頻度減少を起こし、次にCa電流が増加してペースメーカー活動の脱分極相を増強することで続く後期相の発火頻度上昇を起こす、という機構が示唆された これらの論文の各章で示された研究成果は脊椎動物一般のGnRH神経系の機能を理解する上で大変重要な知見であり、論文提出者の研究成果は博士(理学)の学位を受けるにふさわしいと判定した。 なお、本論文第1章〜第3章は、岡良隆との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 |