学位論文要旨



No 115070
著者(漢字) 前川,清人
著者(英字)
著者(カナ) マエカワ,キヨト
標題(和) オオゴキブリ類の分子系統進化学および生物地理学的研究
標題(洋) Studies on Molecular Phylogeny and Biogeography of Blaberid Cockroaches
報告番号 115070
報告番号 甲15070
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第3834号
研究科 理学系研究科
専攻 生物科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 松本,忠夫
 東京大学 教授 石川,統
 東京大学 助教授 藤原,晴彦
 東京大学 助教授 上島,励
 滋賀県立大学 助教授 近,雅博
内容要旨

 ゴキブリ目5科約4千種のうち、亜社会性(家族性)を獲得したものは、北米・北ユーラシアのキゴキブリ科4種と、アジア・オセアニア域のオオゴキブリ亜科(オオゴキブリ科)の一部に見られる。両者とも、朽木等の極めて閉鎖的環境下に生息するため社会性が発達したとされ、その類似した特質や形態は生活環境の類似による平行進化であるとされる。オオゴキブリ亜科は、キゴキブリ科が数種しかいないのに比べその種数は約170種と多く、社会性の程度や食性に分類群間で違いがある事が知られている。特に、オーストラリア固有のモグラゴキブリ族は、全て地中に住み、リター食性で、母親が長期にわたり若虫の保護を行うなどの特徴的な生態を持ち、別亜科にするべきとの報告もある。またオオゴキブリ亜科は、古くから生物地理学的な興味を多く集めてきた東南アジア島嶼域に広く分布しているが、これまで包括的かつ系統学的な解析は全く行われてこなかった。従って、この分類群は系統情報に基づく生態特性の進化過程の考察や地理的分布の解析の好材料になりうると考えられる。

 本研究は、オオゴキブリ亜科の各分類群に関し、分子系統学的に様々なレベルでの信頼性の高い系統関係を推定し、各分類群の生態特性や分布様式の進化過程を総合的に考察する事を目的とした。Part Iでは、オオゴキブリ亜科の高次系統を明らかにするため、ゴキブリ目及び近縁分類群の系統関係、更にキゴキブリ科との関係も考察するため、ゴキブリ目全5科の系統関係を解析した。Part IIでは、オオゴキブリ亜科が属するオオゴキブリ科に注目し、より詳細に本亜科の系統的位置を考察した。その上でモグラゴキブリ類との系統関係を考察し、属間・種間の分子系統樹を構築する事で、食性や生息場所などの生態特性の進化過程の推察及び生物地理学的な議論を展開する事を試みた。Part IIIでは、多地域の標本を得たオオゴキブリ亜科の2属を用いて種間あるいは同種地域間の系統解析を行い、昆虫類の分子系統地理学的研究が殆どなかった琉球列島周辺と東南アジア域において、古地理学的仮説に基づき分散パターンを考察した研究を行った。

Part Iゴキブリ目の高次系統およびオオゴキブリ類の系統的位置

 シロアリ・ゴキブリ・カマキリの3目は網翅目と一括される事もあり、近縁群とされているがその系統関係は明らかでない。直翅系昆虫と呼ばれる7目(上記3目とナナフシ目・ガロアムシ目・直翅目・ハサミムシ目)の各数種を用い、ミトコンドリアCOII遺伝子全長の解析を行った。コドン3番目の変異は飽和している可能性が示唆されたので、解析から除き系統樹を構築した結果、従来の形態に基づく分類と一致して((ゴキブリ+シロアリ)+カマキリ)が示された。また解剖学的研究からも示されていたように、ガロアムシ目はこの3目に近縁である事が示唆された。これらの分類群に注目して包括的に分子系統学的解析を行った研究はこれまでなく、非常に重要な報告であるといえる。

 ゴキブリ目は全5科に分けられているが、その系統関係は、形態・分子両側面からいくつかの仮説が提唱されており未だ明確にされていない。そこで分類群間で配列長の変異が少なく、配列間の比較が容易なCOII遺伝子を用い、変異の飽和の影響も考慮したゴキブリ目科間の信頼性の高い分子系統樹を構築する事を試みた。その結果は、キゴキブリ科とムカシゴキブリ科が祖先的で、オオゴキブリ科+チャバネゴキブリ科のクレードが最も派生的だとする伝統的形態分類を支持した。この系統関係は、これまで提唱されていた分子系統樹では矛盾のあった卵生から卵胎生という繁殖様式の進化からも支持されるもので、ゴキブリ分類学に大きなインパクトを与える報告である。また、キゴキブリとオオゴキブリ亜科の系統関係を初めて分子系統学的に解析し、両者の類似した生態的・形態的特質は独立に獲得された平行進化である事を強く示唆した。

Part IIオオゴキブリ・モグラゴキブリ亜科の分子系統およびその進化

 これまで、オオゴキブリ科の各亜科間の形態に基づく分岐分析学的研究は殆ど行われていない。また分子データ(12S/16SrRNA遺伝子)に基づく系統関係では、オオゴキブリ・モグラゴキブリ亜科を含む一部の亜科が含まれておらず、各配列の比較も曖昧であるという批判も多い。そこで、未解析の亜科分類群の12/16SrRNA遺伝子を解析し、チャバネゴキブリ科を外群としてオオゴキブリ科の全亜科である10亜科間の分子系統解析を行った。その際、ショウジョウバエで報告のある12/16SrRNA遺伝子の二次構造を基に、厳密なアライメントを試みた。その結果、単一の最節約樹が得られ、オオゴキブリ亜科+モグラゴキブリ亜科の単系統性が強く示唆され、これら両亜科に発達した社会構造を持つ分類群が存在する事と合い、最も派生的なグループの一つである事が示された。次に、両亜科の全10属のうち9属20種を用いて、12SrRNA・COII及び核18SrRNA遺伝子に基づき、亜科間及び属間の系統関係を推定した。その結果、両亜科の大きな遺伝的相違は見られず、モグラゴキブリ亜科はオオゴキブリ亜科内に単系統群を構成し、オオゴキブリ亜科の単系統性は示されなかった。従ってモグラゴキブリ亜科は、元々の分類体系であるオオゴキブリ亜科の1族とするのが妥当であると考えられる。更に、クチキゴキブリ属やMiopanesthia属が祖先的分類群であると示され、これらがアジア大陸部を中心に主に東南アジア西部の島嶼域に分布している事から、共通祖先は熱帯アジア大陸起源であろうと推定された。同時に、共通祖先分類群で食材性が獲得された事が最節約的に考察された。モグラゴキブリ亜科の姉妹群であるオオゴキブリ属クレードでは、オーストラリア産のものが他の分類群の姉妹群を構成した。食材性オオゴキブリ属タイプの祖先分類群から、乾燥した環境に適応して地中性でリター食のモグラゴキブリ類祖先分類群が進化してきたと考えられる。

 更に,モグラゴキブリ類全4属約20種,及びそれらとオーストラリアの食材性オオゴキブリ類間の系統関係を12SrRNA・COII及び核ITS1遺伝子に基づき解析したところ、各属の単系統性は支持されず,地理的分布とのよい対応を示し同地域や近隣地域の個体はそれぞれ非常に高い確度で明確な6つのクラスターを構成した。全長が解析されたCOII遺伝子から推定された各クラスター内の各種分岐年代(ショウジョウバエで報告のあるCOII遺伝子のトランスバージョン分岐をキャリブレイションに用いた)は、オーストラリアにおけるユーカリ属(Eucalyptus spp.、これらの落葉はモグラゴキブリ類の主要食物源)の最初の適応放散が起こったとされる鮮新世後期から中新世初期(約3-2千万年前)以降である事が示唆された。また,卵鞘膜の有無や雄生殖器の形態等でも支持されるように、食材性オオゴキブリ類は単系統群を構成せず、ヨロイモグラゴキブリ類により近縁であるオオゴキブリ数種が存在する事が示された。いくつかの分類群では食材性が再び獲得され、地中から材中へ生活場所を戻した事が推定される。

ParT III東・東南アジア域におけるオオゴキブリ亜科分類群の地理的分布と分子系統解析

 昆虫類の分子系統地理学的研究がこれまで殆どなかった琉球列島周辺と東南アジア島嶼域において、多地域の標本を得たオオゴキブリとクチキゴキブリ2属の各種間・同種地域間の解析を、COII遺伝子全長に基づいて行った。日本・台湾産5種の系統樹は地理的分布と非常に良い対応を示し、得られた系統関係と現在の分布パターンから、両属とも大陸南部や台湾方面の南方から陸橋を用いて分散したと考察された。また、トカラ海峡(渡瀬線)南北の個体群の概算分岐年代は、海峡成立時期(約4-5百万年前)にほぼ一致する結果が得られ、海峡以北の個体群は500万年以上前の大陸と陸続きであった時代に南方から分布を拡大してきたグループなのではないかと推定された。

 続いて、東南アジア一帯に広く分布するクチキゴキブリ属に属する25種を解析した。得られた系統樹の中で、古くに分岐したと考えられる種間の系統関係はあまり明確に示されず、本属各種の分岐の初期にほぼ同時に比較的急速な放散が起こった可能性が示唆された。分析に用いた4つの種群のうち、アジア大陸棚上に存在し第三紀には広く陸地化していたとされるスンダ大陸(ボルネオ・スマトラ・ジャワ島及びマレー半島を含む)に主に分布する種群と、始新世末(約3千4百万年前)までにスンダ大陸から分かれたとされるスラウェシ島に固有の種群の単系統性は強く示唆された。クチキゴキブリ属各種の急速な放散は、スンダ大陸が形成されたと考えられている第三紀初期に起こったと推定され、アジア大陸からスンダ大陸にかけての広域な陸地が、本属各種の種分化に大きな影響を与えたと考えられる。また、各種間や種内地域間の分岐年代の推定と古地理学的仮説から、分散や遺伝的な交流を妨げたと考えられる海峡や山脈の形成は、第三紀中期以降に各地域で起こったと考察された。

 本研究により、ゴキブリ類の中でも極めて特殊な食性(食材性)を持つオオゴキブリ類の、様々なレベルにおける信頼性の高い分類体系が提示された。その各分類群は地史的イベントや環境に大きく影響を受けながら東南アジアからオセアニア域一帯に分布を広げることに成功し、一部の分類群は食性を変えることで更に適応放散したと考察される。また、本論文では十分な調査研究ができるまで至らなかったが、このグループには、長期的な一夫一妻制の家族構造を維持するものが知られている。こういった社会構造をはじめとする生態データの多くは一部のものを除き、まだ充分に得られていない状況にある。従ってこの分類群は、将来このような生態情報が更に蓄積されれば,本研究により明らかにされた系統情報を用いることで、一般的に複雑な昆虫の亜社会行動の起源と進化を考察する上で非常に有用なモデルになりうると考えられる。

審査要旨

 本論文は3章(Part IからIII)なり、オオゴキブリ亜科の各分類群に関し、分子系統学的に様々なレベルでの信頼性の高い系統関係を推定し、各分類群の生態特性や分布様式の進化過程を総合的に考察する事を目的としている。

 Part Iでは、オオゴキブリ亜科の高次系統を明らかにするため、ゴキブリ目及び近縁分類群の系統関係、更にキゴキブリ科との関係も考察するため、ゴキブリ目全5科の系統関係を解析している。

 Part IIでは、オオゴキブリ亜科が属するオオゴキブリ科に注目し、より詳細に本亜科の系統的位置を考察している。その上でモグラゴキブリ類との系統関係を考察し、属間・種間の分子系統樹を構築する事で、食性や生息場所などの生態特性の進化過程の推察及び生物地理学的な議論を展開する事を試みている。

 Part IIIでは、多くの地域での標本を得たオオゴキブリ亜科の2属を用いて、種間あるいは同種地域間の系統解析を行い、昆虫類の分子系統地理学的研究が殆どなかった琉球列島周辺と東南アジア域において、古地理学的仮説に基づき分散パターンを考察した研究を行っている。

Part Iゴキブリ目の高次系統およびオオゴキブリ類の系統的位置

 シロアリ・ゴキブリ・カマキリの3目は網翅目と一括される事もあり、近縁群とされているがその系統関係は明らかでない。直翅系昆虫と呼ばれる7目(上記3目とナナフシ目・ガロアムシ目・直翅目・ハサミムシ目)の各数種を用い、ミトコンドリアCOII遺伝子全長の解析を行っている。コドン3番目の変異は飽和している可能性が示唆されたので、解析から除き系統樹を構築した結果、従来の形態に基づく分類と一致して((ゴキブリ+シロアリ)+カマキリ)であることを示している。ガロアムシ目はこの3目に近縁である事を示唆されているが、これらの分類群に注目して包括的に分子系統学的解析を行った研究はこれまでなく、非常に重要な報告であるといえる。

 ゴキブリ目は全5科に分けられているが、その系統関係は、形態・分子両側面からいくつかの仮説が提唱されており未だ明確にされていない。そこで分類群間で配列長の変異が少なく、配列間の比較が容易なCOII遺伝子を用い、変異の飽和の影響も考慮したゴキブリ目科間の信頼性の高い分子系統樹を構築する事を試みている。その結果は、キゴキブリ科とムカシゴキブリ科が祖先的で、オオゴキブリ科+チャバネゴキブリ科のクレードが最も派生的だとする伝統的形態分類を支持している。この系統関係は、これまで提唱されていた分子系統樹では矛盾のあった卵生から卵胎生という繁殖様式の進化からも支持されるもので、ゴキブリ分類学に大きなインパクトを与える報告である。また、キゴキブリとオオゴキブリ亜科の系統関係を初めて分子系統学的に解析し、両者の類似した生態的・形態的特質は独立に獲得された平行進化である事を指摘している。

Part IIオオゴキブリ・モグラゴキブリ亜科の分子系統およびその進化

 これまで、オオゴキブリ科の各亜科間の形態に基づく分岐分析学的研究は殆ど行われていない。また分子データ(12S/16SrRNA遺伝子)に基づく系統関係では、オオゴキブリ・モグラゴキブリ亜科を含む一部の亜科が含まれておらず、各配列の比較も曖昧であるという批判も多い。そこで、未解析の亜科分類群の12/16SrRNA遺伝子を解析し、チャバネゴキブリ科を外群としてオオゴキブリ科の全亜科である10亜科間の分子系統解析を行っている。その際、ショウジョウバエで報告のある12/16SrRNA遺伝子の二次構造を基に、厳密なアライメントを試みている。その結果、単一の最節約樹が得られ、オオゴキブリ亜科+モグラゴキブリ亜科の単系統性が強く示唆され、これら両亜科に発達した社会構造を持つ分類群が存在する事と合い、最も派生的なグループの一つである事が示されている。次に、両亜科の全10属のうち9属20種を用いて、12SrRNA・COII及び核18SrRNA遺伝子に基づき、亜科間及び属間の系統関係を推定している。その結果、両亜科の大きな遺伝的相違は見られず、モグラゴキブリ亜科はオオゴキブリ亜科内に単系統群を構成し、オオゴキブリ亜科の単系統性は示されていない。従ってモグラゴキブリ亜科は、元々の分類体系であるオオゴキブリ亜科の1族とするのが妥当であると考えている。更に、クチキゴキブリ属やMiopanesthia属が祖先的分類群であると示され、これらがアジア大陸部を中心に主に東南アジア西部の島嶼域に分布している事から、共通祖先は熱帯アジア大陸起源であろうと推定している。同時に、共通祖先分類群で食材性が獲得された事を最節約的に考察している。モグラゴキブリ亜科の姉妹群であるオオゴキブリ属クレードでは、オーストラリア産のものが他の分類群の姉妹群を構成していたが、食材性オオゴキブリ属タイプの祖先分類群から、乾燥した環境に適応して地中性でリター食のモグラゴキブリ類祖先分類群が進化してきたと考えている。

 更に,モグラゴキブリ類全4属約20種,及びそれらとオーストラリアの食材性オオゴキブリ類間の系統関係を12SrRNA・COII及び核ITS1遺伝子に基づき解析したところ、各属の単系統性は支持されず,地理的分布とのよい対応を示し同地域や近隣地域の個体はそれぞれ非常に高い確度で明確な6つのクラスターを構成していた。全長が解析されたCOII遺伝子から推定された各クラスター内の各種分岐年代は、オーストラリアにおけるユーカリ属の最初の適応放散が起こったとされる鮮新世後期から中新世初期(約3-2千万年前)以降である事が示唆されている。また,卵鞘膜の有無や雄生殖器の形態等でも支持されるように、食材性オオゴキブリ類は単系統群を構成せず、ヨロイモグラゴキブリ類により近縁であるオオゴキブリ数種が存在する事を示している。そこで、いくつかの分類群では食材性が再び獲得され、地中から材中へ生活場所を戻した事が推定している。

ParT III東・東南アジア域におけるオオゴキブリ亜科分類群の地理的分布と分子系統解析

 昆虫類の分子系統地理学的研究がこれまで殆どなかった琉球列島周辺と東南アジア島嶼域において、多地域の標本を得たオオゴキブリとクチキゴキブリ2属の各種間・同種地域間の解析を、COII遺伝子全長に基づいて行っている。日本・台湾産5種の系統樹は地理的分布と非常に良い対応を示し、得られた系統関係と現在の分布パターンから、両属とも大陸南部や台湾方面の南方から陸橋を用いて分散したと考察している。また、トカラ海峡(渡瀬線)南北の個体群の概算分岐年代は、海峡成立時期(約4-5百万年前)にほぼ一致する結果が得られ、海峡以北の個体群は500万年以上前の大陸と陸続きであった時代に南方から分布を拡大してきたグループなのではないかと推定している。

 続いて、東南アジア一帯に広く分布するクチキゴキブリ属に属する25種を解析している。得られた系統樹の中で、古くに分岐したと考えられる種間の系統関係はあまり明確に示されず、本属各種の分岐の初期にほぼ同時に比較的急速な放散が起こった可能性を示唆している。分析に用いた4つの種群のうち、アジア大陸棚上に存在し第三紀には広く陸地化していたとされるスンダ大陸(ボルネオ・スマトラ・ジャワ島及びマレー半島を含む)に主に分布する種群と、始新世末(約3千4百万年前)までにスンダ大陸から分かれたとされるスラウェシ島に固有の種群の単系統性を強く示唆している。クチキゴキブリ属各種の急速な放散は、スンダ大陸が形成されたと考えられている第三紀初期に起こったと推定し、アジア大陸からスンダ大陸にかけての広域な陸地が、本属各種の種分化に大きな影響を与えたと考えている。また、各種間や種内地域間の分岐年代の推定と古地理学的仮説から、分散や遺伝的な交流を妨げたと考えられる海峡や山脈の形成は、第三紀中期以降に各地域で起こったと考察している。

 以上、本論文により、ゴキブリ類の中でも極めて特殊な食性(食材性)を持つオオゴキブリ類の、様々な分類レベルにおける信頼性の高い分子系統の体系が提示されている。そして、各分類群は地史的イベントや環境に大きく影響を受けながら東南アジアからオセアニア域一帯に分布を広げることに成功し、一部の分類群は食性を変えることで更に適応放散したことを、充分な説得力をもって考察している。

 なお、本論文のPart Iは2編に分かれ、それらは松本忠夫および北出理との共著、であり、Part IIIは2編に分かれ、それらは松本忠夫、北出理、三浦徹、Lo,N.との共著であるが、いずれも論文提出者が主体となって調査、実験および執筆を行ったので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 よって本論文は博士(理学)の学位論文としてふさわしいものであると、審査委員会は認める。

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