内容要旨 | | リモートセンシング衛星の多様化に伴い、分解能やスペクトル特性など異なる特性を持った衛星画像を組み合わせて、地表面に関する情報抽出の精度をいかに向上させるかが大きな研究課題となっている。本論文は土地被覆分類を対象に、高分解能ではあるが観測頻度の低い衛星画像(Landsat TMおよびMSS画像)と、低分解能ではあるが観測頻度の高い衛星画像(NOAA・AVHRR画像)を組み合わせることで分類精度の向上を図る手法を開発することを目的としている。 第1章は研究の背景と目的を述べている。 第2章では,分類手法全般にあてはまる基礎事項について概説した後に,本論文で提案する分類手法を構成する決定木と最尤法の基礎理論を説明した。ついで,広域を対象とした,高・低空間分解能衛星画像を併用した分類に必要とされる要件を整理した。その上で,本論文で提案する分類手法の考え方を以下のように列挙した。 1)低空間分解能画像を優先的に使用し分類していく。 2)(低空間分解能画像)特定のクラスに対して,明瞭に分離可能な特徴を発見したら,高い信頼性を与えて早めに分類する。 3)(低空間分解能画像)明瞭に分離不可能なピクセルについては,分類候補クラスのみ決定し,その後高空間分解能画像を使用して分類を行う。 4)(高空間分解能画像)低空間分解能画像から得られた分類クラス候補を活用し,尤度に基づく分類を行う。 第3章では,多量の多次元データを効率的に処理するために必要な次元圧縮手法について述べている。既存の研究では理論的に証明されていた多次元データの次元圧縮におけるニューラルネットワークの有効性を実際の衛星データ,Landsat TMの6バンドデータの2シーンを使用して検証した。その結果,ニューラルネットワークを利用する手法は、圧縮次元、対象データやニューラルネットワークの構造に応じて,既存の代表的な次元圧縮手法である主成分分析に比べて,その優位性が変化することが示された。加えて,ニューラルネットワークでは計算コストが膨大にかかる点,またその次元圧縮されたデータは明瞭な意味を持たない点を考えると,データの分散を最大にする軸を直交性に基づき順次決定することで得られる座標系により変換され,計算時間も極めて短い主成分分析が,次元圧縮手法としては適切であると提案した。 第4章では,まず,次元圧縮手法としての主成分分析そのものは特徴抽出と同時に誤差除去能力も有していることを示した。AVHRR NDVIの時系列12次元画像を用いて時系列カーブを作成し,カーブが急激に落ち込む部分はくも誤差によるものと仮定して,スプライン関数を用いて内挿することで雲誤差のない時系列カーブを推定した。そして,雲誤差のない時系列カーブと実際の時系列カーブの誤差にランダムに符号を与えることで,平均0となる誤差(ランダム誤差)を含む時系列NDVIデータを作成した。ランダム誤差を含む時系列データから圧縮された第1主成分と雲誤差のない時系列データから計算された第1主成分との相関係数を調べたところ,入力データの次元数に関係なく安定した相関係数を示した。一方,雲誤差のように負の値しか取らない平均0でない誤差が混入していると,次元数が増えるにつれて相関係数が下がり,主成分分析の次元圧縮能力も低減することが定量的に示された。このような雲誤差の影響の存在に注意した上で,時系列データから土地被覆の特徴量を抽出する場合に,時系列データの使用次元数により抽出効果が変化することをKullback-Leibler(KL)情報量を用いて示した。したがって,土地被覆の特徴を抽出する際には,土地被覆クラス間の分離度を定量的に検証した上で,最適な時系列データを選択すべきと提案した。 第5章では,低空間分解能衛星画像に高空間分解能衛星画像を重ね合わせデータレベルを合わせるための手法を提案している。従来は低空間分解能衛星画像上の画素と,対応する高空間分解能衛星画像上の単純な格子状の領域での集計値とを回帰分析し両者の関係を決定していた。これまでも、センサーの指向性を反映してガウス関数を重み関数として使用して集計する手法が提案されていたが,計算コストが多少かかる点や精度の点でその有効性が疑問視されていた。本論文では,ガウス関数を用いて集計する場合と矩形領域で単純に集計する場合の比較を行った。その結果,ガウス関数を用いた集計の有効性を示せた。しかしながら,コンポジットされた低空間分解能画像を用いると,大気状態の差や植生の成育状態の差などの撮影条件の違いが顕著になることから本章で試みたガウス関数を用いる重ね合わせは有意義な意味を持たなくなることが判明した。よって,コンポジットされた画像を用いざるを得ない場合は,撮影日時が近くかつコンポジットされていない画像を用いた元で得られたパラメータを援用すべきであるという提案に至った。 第6章では,テクスチャ解析において,従来のような単にエッジを抽出する手法を拡張し,人為的な特徴として直線に着目した上で,多量な直線的テクスチャの存在と植生指標との関係をモデル化した。そのモデルに基づくテクスチャ解析により抽出された畑領域は,目視判読による結果と比較して,93.5%,81.4%と高い精度で抽出されていることが判明した。つまり,畑領域を自動的に検出できるようになり,今まで専門家によりなされていた目視判読を十分に支援するツールを構築できた。 第7章では,ミクセル問題に対してシミュレーション画像を用いてミクセル発生の仕組みを明らかにした。ミクセルの特徴量の確率密度関数は,被覆の混合比の生起確率を考慮した上で,ピュアピクセルの特徴量を表す確率密度関数の畳込みにより統計的に推定することが可能であることが分かった。その際に,実際の被覆の空間分布に基づき,畳込みにおけるパラメータ空間に制限を設ける必要性を示した。その上で,従来のミクセル分解手法が,低空間分解能画像中でミクセルに転じる領域の特徴量とそれ以外の領域の特徴量を同一視していたのに対して,筆者は両者の確率分布は全く同一ではないという仮定の元に,ミクセル発生モデルを構築し,統計的な枠組みでミクセル分解手法の理論を提案した。提案されたミクセル分解手法はシミュレーション画像のピュアクラス・ミクセルクラスに関するパラメータ推定に適用され,ピュアクラス・ミクセルクラスを含む全クラスの確率密度関数のパラメータを従来の手法に比べて高い精度で推定することができた。特にミクセルクラスの確率密度関数の推定においては,画像中に占有する混合比の推定精度も,推定分布と本来の分布との乖離度も改善され,本来の確率分布により近い推定ができたことを定量的に示すことができた。 第8章では,異なる空間分解能衛星画像を併用する広域土地被覆分類手法を提案している。その際,特に低空間分解能画像に含まれ,分類精度に甚大な影響を与えるミクセルの存在を考慮できるものとした。また、インドシナ半島を対象に高・低空間分解能画像としてTM画像・AVHRR画像を用いて適用可能性を検証した。高・低分解能衛星画像を併用した全体的な分類精度の検証においては従来手法による結果に比べ,4クラス全体で63.3%から68.0%へ正答率が改善され,常緑樹林帯,落葉樹林帯のクラスにおいては,41.0%から76.4%,55.1%から64.4%へと大きく改善された。また低分解能画像レベルでの分類精度の検証では,特に常緑樹林帯の場合,45.3%から87.3%と正答率が大幅に改善されていることが判明した。また提案分類手法に取りこんでいる,低分解能画像レベルでの分類を通して得られる土地被覆クラス候補情報の活用した高分解能レベルの分類の検証を行った結果,情報を活用しない場合に比べ,クラス全体の分類精度が59.3%から66.2%へ上昇した。このことから,低分解能画像から絞り込まれた土地被覆クラス候補を利用して高分解能衛星画像により最終的な分類結果を与える手法の有用性を示すことができた。一連の検証の結果,本論文で提案してきた広域土地被覆分類手法が従来の分類手法に比べて高い精度で分類が可能となっただけでなく,分類の各段階における精度を定量的に明示し,より使いやすく信頼性の高い分類結果を導く分類手法であることが確認できた。 |